は中庭の置物のところへむかっていた。置物は木々の隙間から漏れ出す月光に照らされ青白く輝いて見える。
「お前達の主はもう死んだ・・・・・・だから約束はもういいんだ」
は静かにそう言った。置物は静かに唸る。
「何故わかんないんだ?お前達は主の約束を守るためにその姿のままでいるんだろう?いくらお前達でも適合者がいなければ、アクマは倒せないだろう!
だからここまで城が荒れ・・・・・っっ!」
の体が吹き飛ばされた。
"我らは主の命に逆らうつもりはない"
「強情っぱりっ!僕の弟でもそこまで強情じゃないっっ!」
"我らをここから離そうとするものは敵だ。お前も敵だっ!!"
鋭い咆哮があがり、不可視の刃となってを襲った。体のいたるところが切り裂かれ、血が滲み出す。
「くっそぉ〜〜〜〜アクマの気配までするなんて・・・・・」
アクマの気配が無数にしていた。置物たちの体の向きが変わる。いや、それだけではなかった。その硬いはずの体はだんだんと本物のように変わっていく。
「あ〜もうっ!イノセンスのくせして、適合者なく発動できんのかよっ!!!」
もイノセンスを解放し、空中に飛び上がった。瞬間、木々をなぎ倒しながらアクマの黒いボディが現われた。
「ひゃっほぅ!エクソシストだぜっ!」
「今度こそ、そのイノセンスを奪ってやるっ!!」
「できるもんなら・・・・・うわっ!?」
アクマに切りかかったの体が地に落ちた。見れば、の前には白銀の体をした虎が立ちはだかっている。空中には龍がういていた。
"我らが領内で荒らしはさせぬっっ"
"ここへきたこと、とくと後悔するがいいっっ"
二匹の獣はアクマに飛び掛っていく。は唖然としてその様子を見ていた。だから気がつかなかったのだ。背後から迫り来るアクマの気配に・・・・・・
「っ!」
「えっ!?」
声に振り向いたは目の前のアクマにやっと気がついた。がもう時既に遅し。アクマの攻撃がを襲っていた。否、襲うはずだった。
アクマはの眼と鼻の先で爆発した。はイノセンスを地面に突き刺し、衝撃を堪える。
「っ!無事ですかっ?!」
左腕のイノセンスを発動させたアレンが足を引きずりながら、歩み寄ってきた。の目が驚きに見開かれる。
「なんでここにッ!眠り薬を仕込んでおいたはずだっ!」
「誰があなたを助けに来たと言いましたかっ!!僕はただイノセンスを奪われないためにやっただけですっっ!」
ぎゃーぎゃーとアレンは反論する。はポケットから包帯を取り出し、しゃがみこんだ。
「?」
「いくらアレンでもこれだけは許せない。自分の体を傷つけてまでここに来ちゃいけない・・・・傷ついた体は任務の邪魔になるだけだから・・・・」
強く包帯を巻き、アレンの傷の手当をした。
「とりあえず、僕の背後にいて。アクマはあのイノセンスが破壊してくれているから」
「・・・・・・・・・・・・・・」
「それとありがとう。助かったよ、アレン」
は小さく笑うとむかってきたアクマを切り裂いた。アクマは断末魔の叫び声をあげて、消滅する。
ほとんどのアクマはあの置物が破壊していた。
「レベルV・・・・・・」
は低くうめいた。の見る方向には獣型のアクマがいた。既にその一体を除いたアクマは破壊されており、二匹の獣もまたアクマにむかって体の向きを変えたところだった。
「こりゃまじぃ・・・・・・」
「?」
「・・・レベルVじゃ・・・・・あいつら、相手にならん・・・てか・・・・・」
「じゃぁ僕らが手伝えば・・・・」
「それもいけない・・・・・・・・彼らは約束のために戦っているから・・・・・」
「約束・・・・・・?」
「資料にあった・・・・・この町が滅んだとき、一人の青年が領主の遺した手紙を見つけたって。
その手紙には、いつか必ずあの忠実なるしもべたちの拘束の鎖をといてくれ、と書かれていたそうだ・・・・・」
「拘束の鎖・・・・・」
「多分、その約束がそうなんだろうね・・・・」
はレベルVと戦う獣達を見た。一体あの獣たちは町が滅んでから何を見ていたのだろう。何を考え、何を思っていたのだろう。
町が滅ぶのを見ながら、何を感じたのだろう。
がそんなことを思っていると鋭い叫びがあがった。アクマかと思ったが、違った。あの獣だ。アクマは静かに獣へ寄っていく。
は唇を強く噛み締めた。
「アレン・・・・ここにいて・・・」
「?どこへ・・・・・」
「あのアクマを破壊する」
はアレンが止める間も無く、走り出していた。アクマがに気がつく。の振り下ろした剣を造作もなく受け止めるとそのまま腕を横にはらう。
が横腹を切り裂かれた。真っ赤な血が吹き上げる。は動きを止めず、さらに足のホルダーから銃を取り出し、撃つ。
アクマはそれに気がつくと剣を離した。瞬間は恐るべき速さでアクマの背後に回りこみ、切り裂く。アクマは燃え上がり、消滅した。
"・・・・・・・・・"
"・・・・・・・・・"
二匹の獣は言葉もなく、を見ていた。は二匹に近づくとしゃがみこんだ。倒れている二匹と視線を合わせるためにだ。
横腹から血が流れ続けているせいか、の顔はうっすらと青白い。
「あのアクマだろう?この町を破壊し、お前達の主を殺したのは」
"無論・・・・・"
「だからあんなに怒っていたのか・・・・・」
は二匹の戦いに激しい怒りを感じていた。
「もう寝てかまわないから・・・お前達は次の適合者が現われるときまでゆっくりと休んだほうがいい・・・」
"・・・・・・・そうしよう"
の言葉にうなずいた二匹は光の粒子となって姿を消す。その代わりにの手の中にはイノセンスがあった。
アレンが早足で近づいてくる。
「終わったんですか?」
「あぁ・・・・・アレン、足の傷は大丈夫?」
「・・・・・はい。でも・・・あなたは」
「僕は大丈夫だよ」
はニッコリと微笑むと城を見上げ、小さく声をあげた。
アレンは首をかしげ、同じように城を見上げる。そして驚いたように目を見開いた。
そこには領主と思われる若い男の姿があった。
"ありがとう。鎖をといてくれて"
「このイノセンスの適合者?」
"・・・・・・あぁ。私はそれを使ってアクマを破壊し、町を守ってきていた。が・・・・・・あのレベルVには勝てなかった・・・・"
「そのせいで町は滅んでしまった」
"・・・力のない自分が恨めしい・・・・私の力が及ばなかったせいでたくさんの命が失われた・・・・"
「・・・・・・ここに泊まった人は無事だったよ・・・・・・この子らのおかげで」
"そうか・・・"
彼は空を見上げた。
"もう逝かなくては・・・・・彼らが心配で残っていたが、それももう大丈夫なようだ・・・・"
「彼らは大丈夫。新しい適合者が見つかれば、きっともっと活躍できるでしょうから」
"・・・・・・若きエクソシストよ"
「はい?」
"いつまでも失ったものに執着しては先には進めない・・・・"
「・・・・・・誰に言われました?」
"瑪瑙色の瞳をもった若い女だ。いずれ会うだろうから伝えてくれ、と頼まれた"
「あちゃー死人にまで心配かけてるんだ、僕は。いや、僕たちは?」
"弟にも同じことを言え、と言われたが?"
「伝えておきますから・・・・もしあっちで彼女に会ったら二度と心配かけないようにするからって伝えてください・・・・
たぶん苦笑か呆れたような表情が戻ってくると思いますけど・・・・」
"伝えておこう"
男の姿は細い煙となって消えていった。はその煙の最後の一筋が消えるまで見ていたが、やがて歩き出した。
「アレン、教団に戻ろう。なんかとても疲れたよ・・・・・」
「大丈夫ですか?」
「・・・・・・アレン、心配「してないです。途中で倒れられたら困るだけですから」」
「・・・・・・・・・・」
はアレンの背中を見て、小さく笑みを漏らした。
「本当に素直じゃないんだから・・・・・」
そう言うとはアレンを追って走り始めた。そしてアレンを横抱きにすると反論を笑顔で封じ込めた。
「その足の怪我は僕のせいだからね。ちゃんと手当てしなくっちゃ」
「結構ですっ!勝手に治りますからっ!」
「ダメダメ。どうせナイフでやったんでしょ?破傷風になっちゃうよ」
「あ〜〜っもうっっ!あなたって人はっっ!」
「なんだい?」
「最悪な性格ですっっ!」
「おや、光栄だね」
「褒めているつもりはありませんっっ」
「そっか」
「・・・・・・・」
アレンは何も言えなくなった。反論するねたが尽きたのだ。ぐっと押し黙ったアレンを軽く笑うとは傷の手当をするために城の中へ入って行った。
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