「ほわぁ〜」

そんな感嘆したような声をあげているのはもちろんご存知である。隣のアレンは声をあげないように頑張っている。

「古城なのかな・・・・・・ところどころ崩れてるけど・・・・」
「昔この地方を治めていた領主の家だったそうですよ」

アレンは手元の資料を見ながら言った。は合点がいったようだ。

「なるほど。どうりで・・・・・」

まわりは大きな町があったと思われ、いたるところに崩れかけた建物の残骸が見える。
ここ、コースヴァーグは豊かな水産資源と鉱石や宝石を蓄えていた。その蓄えを外の国との貿易で金に換えていたのだ。
が、つい十数年前、この町はアクマの攻撃によって永遠の眠りについた。
ところで何故この2人が今回来たのかというと・・・・

「領主の城からの吼え声、ねぇ・・・・」

怪奇は町が滅んでから僅か二年後のことだった。
旅商人の一家がこの町を訪れ、野宿に領主の城を使った。そして一家が寝静まった夜中・・・突如として中庭から地を揺るがすほどの咆哮があがったのだ。
一家は驚き、中庭を見たが見えるものといえば、龍と虎の置物だけだった。この周辺で獣が生息している、という話は聞いたことがなかった。
だから置物が声をあげている、と思った。
そしてさらに、一家の長女が薄暗い廊下を螢のような人魂のようなものが漂っているのを見たのだ。一家は慌てて逃げたという。
そして領主の城に泊まったものは必ず同じものを見たという。この怪奇が教団の耳に入ったのだ。

「イノセンスの仕業・・・・かなぁ」
「そうかどうかを調べるために僕たちがここへ来たんでしょう」
「でも僕こう見えて幽霊とかはダメなんだけど・・・・」
「まったく。しっかりしてくださいよっ!」

は情けない声をあげている。アレンはピシリと言い放つと城へむかった。
は思い出したようにその背中に声をかけた。

「あっアレン、僕は中庭を調べてくるよ。入り口のそばで待っててねっ!!」
「わかりました」

アレンの姿が見えなくなると同時には中庭へむかった。中庭は誰も手入れしていないだけあって荒れ放題だ。
はその中で目的のものを見つけた。向かい合うようにして虎と龍の置物がある。

「これが吼える・・ねぇ」

イノセンスを見る力のないが見ても何もわからないが、ただならぬものをこの置物からは感じた。

「さっ、アレンのところへ行かないとvv」

最後にチラリと置物を見ると、は入り口へとむかった。

「すごいボロボロですね」
「だね・・・・・気をつけないと・・・」

アレンとは中央階段を上っていた。階段は一歩進むたびにギシギシと不吉な音を響かせてくれる。

「どわっ!」

突然アレンの足元が抜けた。

「アレンッ!」

アレンは自分の体が下の階に打ち付けられる様子を想像し、眼をつぶった。が、いつまで経っても衝撃はこなかった。
アレンはそぉっと眼を開けてみる。がアレンの手を強くつかんでいた。

「大丈夫?」
「は・・・はい」
「よかった」

は驚くべき力でアレンを引き上げた。まだ不安定さが残る階段に2人とも言葉少なに上がっていった。

「いくらなんでもこれは古すぎだよねぇ〜」
「えぇ・・・・・・あっ・・・・さっきはありがとうござました」
「うん、どういたしまして」

はニッコリと笑った。

「たくさん部屋はあるみたいだね。どこかに寝よう。こんなに部屋があるんだから、きっと一つくらいは綺麗な部屋があるはずだよ」
「たくさん部屋がありすぎです・・・・・・」
「でも、あの中庭の置物が見えるのはほんの数箇所だと思うな・・・・・」
「どういうことです?」
「さっき見に行ったとき、この中庭には多くの木があったんだ。それは置物の回りも例外じゃなくってね。数多くある部屋の中でもほんの数箇所からしか見れないんだよ。角度的にね」
「すごい・・・・はそこまでわかるんですか・・・・」
「・・・・・・・うん」

アレンは素直に感心している。は部屋のドアを開けて中庭の置物が見えるかどうかチェックしている。

「アレン、ここなら見れるけど?」
「じゃぁそこにしましょうよ」
「わかった」

2人はある一室に入った。ベッドはちょうど二つ、2人はそこに荷物を置いた。アレンは窓に近寄った。二つの置物がはっきりと見える。

「なんかお腹減った・・・」
「何か食べますか?」
「そうしよう・・・・」

は携帯食料を取り出すと、アレンにも分けた。アレンもそれを受け取って食べ始める。
フラリとアレンの体がかしいだ。はその体を受け止め、抱き上げるとベッドに寝かせる。

「ごめんね、睡眠薬を仕込ませてもらったよ。この任務、君には大変かもしれないからね・・・ゆっくりとお休み。
君が目覚める頃には任務も終わっているだろうから」

はそう言うと部屋を出て、中庭に向かってしまった。このときアレンには多少の意識が残っていた。
アレンはベッドから落ちると、自分のカバンに這って行った。カバンを力の入らない手でまさぐり、小型のナイフを取り出す。そして思いっきり自分の足に突き刺した。痛みで靄のかかっていた意識が元に戻る。

・・・・・・!」

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