クロスは顔をあげた。目の前にぼんやりとした冬乃の姿がある。
「冬乃・・・・」
「久し振り、クロス。元気そうで何よりだわ」
「・・・・ミシェルの能力か」
「うん」
冬乃はクロスの隣に腰掛ける。
そしてピタリと寄り添った。
「少しね、怖かったの・・・・・・あなたたちクロス班が皆帰ってくるって信じてたのに・・・・皆が私の傍からいなくなってしまいそうで・・・・・・」
「お前は極度の心配性なんだ」
「別にそれでもかまわないわよ」
クロスの手が冬乃の髪に伸びる。
つややかな髪はその体に実体があることを示している。しかし彼女の体は綺麗に透けていた。
「ねェクロス。全てが終わったらどこに行くつもりなの?」
「さぁな」
「あなたはここに戻っていいの。てか戻ってきなさい。私の隣を空けておくから」
冬乃は自分の隣を示した。クロスの顔に小さな笑みが浮かぶ。
「お前に何をするかわからないぞ」
「お好きにどうぞ」
「・・・・・ソルディアはどうした」
「・・・・・・・・吹っ切れた。ちょっと悪いように聞こえるけど・・・・・私吹っ切れたわ」
「・・・・・・」
「私は目の前の幸せを守らなきゃいけないの。いつまでも過去に囚われていたら、守れるものも守れなくなってしまうだろうから」
「冬乃・・・・」
「好きよ、クロス。あなたのことが・・・・」
クロスが冬乃の髪からそっと顔の線をなぞった。
冬乃はそっと眼を閉じる。
「俺でいいのか?ミシェルのほうがお前を愛しているかもしれないんだぞ」
「・・・・あなたがいいのよ、クロス。私の隣にいるのはあなたがいいの」
「・・・・・・・俺はいつかお前を置いていくぞ」
「そのときは死ぬ直前に私を殺して頂戴。あなたになら殺されてもいい」
二人の唇が重なる。
冬乃の中に甘いものが広がった。
黒髪がサラリと流れた。
「・・・・・・・・戻ってきて。皆一緒に・・・・・あなたたちの本当の居場所へ」
「俺はお前を手に入れることが出来るか?」
「わからないわ・・・・・」
クロスはもう一度冬乃に口付けた。
「必ず戻ると約束しよう」
クロスはそっと冬乃を押し倒した。
冬乃もそれを受け入れる。
赤と黒の髪が混じりあう。月が淡く二人を照らしていた。
「じゃぁ私は戻るわね」
「あぁ」
冬乃は元の通りに団服を着た。
背後からクロスが抱きしめてくる。
「愛してる」
「うん。私も・・・・・」
クロスの腕の中で冬乃の体が消えた。
クロスは手に残るぬくもりを消さないようにと握り締めた。
冬乃はゆっくりと瞳を開けた。
ミシェルの顔が一番に見えた。
「お帰りなさいませ」
「ただいま、ミシェル」
ミシェルはそっと微笑んで冬乃を支え起こした。
少しばかり余韻の残る頭を軽く振って、冬乃は起き上がる。
「いかがでしたか」
「うん、元気そうだった」
冬乃は微笑んだ。ミシェルもそっとうなづいた。
「よかった・・・・・・あとは残りのクロス班の皆さんが無事だといいんですけど」
「そうね・・・・・・・でもね、ミシェル。私たちには何もできないわ。祈りましょう・・・・・シェルと冬輝が彼らの助けになってくれることを・・・・・・・」
「はい」
ミシェルは冬乃の言葉にうなづきながら、そっと紅茶を差し出した。
back next
menu