リナリーのイノセンスが消える。
ラビはリナリーに今まであったことを話した。

「どうするさ」
「・・・・・・進もう。ここで戻ることなんて出来ないよ。戻ったら今まで犠牲になってきた人たちの命を踏みつけることになる」

は立ち上がろうとするリナリーに手を貸した。

「リナリーに賛成」「である」「さ」

ラビやクロウリーも手を貸した。

「行こう、日本へ」

笑いあうエクソシストたちを冬輝とシェルは優しい瞳で見つめていた。
船はクロスの使いであるアクマが押していた。そのせいか、ものすごいスピードで海の上を走って行く。

「・・・・・・・アニタ」
「はい」
「・・・・・・たくさん死なせることになって悪かったな。もう少し早く来ればよかった。そしたら・・・」
「いいんです。私たちは復讐の中でしか生きられない者達ですから」
「それでもっ!生きていれば・・・・」
「冬輝様、クロスさまが生きていたということだけで満足なんです」
「・・・・・そんなことで満足するなよ・・・・・・」

冬輝は船べりを殴った。強く唇を噛み締めると、紅い雫が海へ落ちていった。
シェルは何も言えず、ただただ冬輝の背を見ている。

「・・・・・・・・・あいつらを救えなかったのは俺の責任だ。責めてくれほうが楽なのに・・・」
「いいえ。冬輝様も必死だったから・・・・・冬輝様、お願いですからご自分を責められないでください」

シェルはそう言った。しかし冬輝はその言葉に対して何も言わなかった。

「冬輝、シェル、船室へ行くさ」
「あっはい。冬輝様、参りましょう」
「・・・・・・・・俺はしばらくここにいる。お前だけ行け、シェル」
「私も残りますわ」
「いいから行け。これは命令だ」
「っ・・・・・・・・・かしこまりました」

シェルは一礼して船室へ向かった。冬輝は一人その場に残った。
ポツリ、ポツリ、雨が降ってくる。

「シェルって冬輝のこと好きさ?」
「えっ・・・・・・」
「ラビ、そういうことは・・・・・」
「・・・・・・・はい。初めてあの方と合間見えたときよりずっとお慕いしています。でも・・・・あの方は冬乃様しか見ていらっしゃいませんから」

シェルは悲しそうに言った。リナリーが責めるような目でラビを見た。ラビは慌ててシェルに謝った。

「いえ・・・・・きっとこの想い、私だけでなく兄様も同じでしょうから」
「ミシェルも?」
「はい。兄様も冬乃様のことを慕っております。でも冬乃様はやはり冬輝様しか見ておりませんから」
「叶わない・・・・恋」
「そうですね・・・・・でも私たちはあの方達のおそばにいられるだけでも幸せなんです。好きな人の役に立つということほど嬉しいものはないでしょう?」

そう言ってシェルは微笑んだ。とそこへマホジャが姿を見せた。

「主がお呼びです。皆様、甲板にお集まりください」

全員がその場から動き、甲板へ出る。ふと樺月は船員達の姿が見当たらないことに気がついた。
甲板にはアニタ、マホジャ、それから三人の船員がいるだけだった。

「ほかの人達はどうしたんですか?」
「すみません、彼らには見送りは不必要と伝えました。今は船内で宴会して騒いでいます。どうかお許しください。
最期の時を各々の思うように過ごさせてやりたかったのです」
「生き残ったのは・・・・あなた方だけなんですか・・・・・?!」

リナリー、ミランダの瞳から涙が零れ落ちる。冬輝が黙したままこぶしを強く握った。
涙を流すミランダの肩にアニタが優しく手を置いた。

「いいのです、私たちはみなアクマに家族を殺されサポーターになった。復讐の中でしか生きられなくなった人間なのですから。
我ら同志の誰一人として後悔していません」
「江戸へ進むと・・・・我らが作った道を引き返さないとあなた方は言ってくださった。それがとても嬉しいんです」

そうマホジャが言い終えたときだった。
ブツッという音とともに声が甲板中に響いた。

「勝ってください、エクソシスト様!!!我らの分まで、進んでいってください!!!先へ!!我らの命を未来へつなげてください!」
「拡声器から・・・・」
「船員さんたちだわ・・・」
「皆・・・・」

「生き残った我らの仲間達を守ってください・・・・・生きて欲しいです!平和な・・未来で我らの同志が少しでも生きて欲しい・・・・っ」


「勝ってください、エクソシスト様!!!」



つっ、とシェルの頬に涙が伝った。冬輝がそっとそれを拭ってやる。

「・・・・・・・・・・・・・・・」

は辛そうな顔をして船員たちの言葉を聞いていた。
拡声器からの声が途絶えるとエクソシストたちは小船へと乗り込んだ。

「江戸までまだ距離があるから、とりあえず近い伊豆へオイラが連れてってやるッちょ」
「足元お気をつけて・・・・」
「必ずお役に立ちます!」
「ありがとうございます」

船員三名が乗り終え、リナリーがアニタとマホジャへと手を伸ばす。アニタもリナリーへ手を伸ばす。
しかしその手はリナリーの手を握ることはせず、そっと短くなった髪に触れた。

「髪・・・・・また伸ばしてね。とても綺麗な黒髪なんだもの。戦争なんかに負けちゃだめよ?」
「アニタ・・・・・何かクロスに言いたいことは?」
「・・・愛しています、と。それから冬乃様に・・・・あまりご無理をなさらないでください、とお伝えください。私はあの方に何も返せなかった・・・・」
「・・・・・・・わかった。必ず伝えておく・・・・・・・・悪かった・・・・・守りきれなくって」
「・・・・・・いいえ」
「アニタさんっ!」
さん・・・とおっしゃっていましたね」
「・・・・・僕は・・・・・っ」
「もう一度弟さんに会えるといいですね・・・・・そう願っています・・・・・」

ははっとしてアニタの顔を凝視した。
冬輝は泣き崩れるシェルの肩に触れた。

「さようなら」

ゆっくりとアクマに支えられた小船が浮き上がり、船から離れていく。
は泣き崩れていくリナリーをそっと抱きしめた。
ミランダがイノセンスの発動を止める。それと同時に現実の時間が流れ出した。
受けた傷が体に戻り、満身創痍の姿になる。そして船から火の手があがった。ゆっくりと燃えていく船はその船体を海中へと沈めていく。

「必ず・・・・・必ず勝ちます・・・・・・・必ず」

リナリーの呟きにエクソシストの心が一つになった。

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