はアジア支部からずっと空を見上げていた。
怪我も回復し、あとはイノセンスを回復するのみだ。
ふとイノセンスだというものを見せられたときの事を思い出した。
「・・・・これは?」
「君のイノセンスだ、」
「・・・・・この霧が?」
「そう。ヴァイオリン"闇の調べ"それから君の太刀だ」
は地下へと連れて行かれ、数多くある部屋のうちのひとつへ連れて行かれた。中に入れば銀色の霧が空中に浮いていた。
バクはこれがイノセンスだという。は信じられなかった。
「発動してみろ」
「・・・・・・・・・・・・・・・・我が調べ奏でたまえ、神に愛されしその音色 闇を切り裂く刃とならん」
の静かな声に反応したイノセンスが集まり始めた。それはだんだんとヴァイオリンの形を作り始める。
バクが期待を込めた目でその様子をじっと見ていた。
「っ・・・・・・・・」
が形の出来上がったヴァイオリンに触れようとしたときだった。バチッという音と共に火花が散り、の顔が痛みに歪んだ。
「拒否された・・・・・?シンクロ率も高いのに?」
「ふむ・・・」
背後でバクが納得したように息をついた。は彼を振り向く。
「どういうことだ」
「来たまえ。ウォーカーと会わせよう」
「アレンも・・・・・まだなのか?」
はアレンとしばらく会っていなかった。
アレンもまたイノセンスを復活させるために動いているのだ。
「あぁ。君と同じような事が起きている」
「つまり・・・・」
「イノセンスがその形状を元に戻そうとしない」
「・・・・・・・なんでなんだ・・・・・」
「・・・・君は装備型か」
「あぁ。二つともな」
「二つ?」
バクがいぶかしげにを振り返った。
「なんだ、聞いてなかったのか?俺のイノセンスはイヤリングに加工されていたんだ。それぞれを武器にしたんだから二つに決まっているだろう?」
バクは納得したようにうなずいた。
そしてアレンのもとへやってくる。
「イノセンス発動!!」
アレンの声とともに霧が左腕を形成していく。
左腕はしかし、形をなすと同時にまた霧に戻った。
「・・・・・・・・はっ?」
は驚いてバクを振り向いた。
「やはりな・・・・・・・」
「やはりって?」
「あっ、、バクさん」
「君たちに話がある」
アレンとは互いに顔を見合わせた。
バクの部屋でソファに座った二人はバクとむきあう。
「まずウォーカー、君は寄生型だろう。装備型は改良され、抑える鎖をつけられたイノセンスに自分を合わせるが、寄生型は自分の体自身がイノセンスを抑える鎖のようなものだ。ボクが考えるに、君が発動できない理由は君自身がイノセンスを知れていないのだと思う」
「イノセンスを知る・・・・・」
「そして。理由はなんとなくわかっていないか?」
「・・・・・・・"破壊者"が半分目覚めている。でも"破壊者"だって神の使徒のはずだろう?俺たちは"最後の審判"のために生まれたんだ」
バクはうなずいた。は口を閉じる。
「俺は・・・・・・・戦うために生まれてきた。この世界を守ろうとする奴らには悪いと思う。おれは・・・・俺たち兄弟はこの世界を作り直すために生まれてきた」
「・・・・・あの、バクさん」
「なんだね、ウォーカー」
「ボク、破壊者って言葉の意味知らないんです。冬乃さんも教えてくれなかったし、ラビも神田もリナリーも」
「そうか・・・・・・・総元帥殿が何もいわなかったか・・・・・恐らく破壊者の本当の役目を知っているのは総元帥、大元帥、元帥、コムイ、ボク達支部長ぐらいだ」
バクはに目をやった。はうなずき返す。
「ウォーカー、君は"最後の審判"を知っているか?」
「神の裁きですよね」
「そうだ。動物たちは神が裁く。人は・・・・"裁定者"が裁く。罪の裁定者と黒衣の裁定者が」
「黒衣・・・・・・・・」
「総元帥のことだ」
「そして俺たち"破壊者"は審判後の世界を完膚なきまでに破壊する役目を持つ」
アレンはの横顔を見つめた。
その口元に自嘲するような笑みが浮かんでいる。
「俺はイノセンスにむかないらしいな・・・」
「・・・」
は立ち上がった。
アレンを見て、小さく笑う。
「しばらくフォーのもとにいる」
「なにをするつもりだ?」
「どなってでももらうさ」
はそう言って立ち上がった。
そして封印のもとへむかう。封印を見上げるとすぐにフォーが姿を見せる。
「どうしたんだよ、破壊者」
「なんとなく怒鳴って欲しくてな・・・」
「ひどい顔だけど?」
「だろうな」
は小さく笑った。
フォーは壁に背を預けて座り込んだを覗き込んだ。
「俺はなんでエクソシストになったんだろうな」
「それはお前しか知らないはずだろ?」
「・・・・・・・」
は目を閉じた。瞼の裏に甦るのは仲間達の笑顔、そして・・・・・
「・・・・母さんと父さん・・・・」
今はもうぼんやりとしか思い出せない両親の顔だった。
二人とも優しく微笑んでいる。
「フォー、これから話すことは俺の独り言だと想って聞き流してくれ」
「・・」
「その昔、日本に何の変哲もない四人の家族が住んでいた。まだ伯爵が日本に来る前のことだ」
夫婦と双子の男の子たちはただ毎日を過ごしていた。
あるとき、父親が輝く石を庭で掘り出した。
母親がそれを加工して二組のイヤリングを作り出した。それは双子に渡された。
それからしばらく、一家は日本の異変に気がついた。たくさんのノイズに、混じる悲鳴。
血の匂いに、叫び声。震える一家は日本を出ることを決意した。危険な賭けだった。
「それでも夫婦は子供たちを守るために必死だった。そのかいあってか、一家は無事に日本を脱出できたんだ」
しかし悲劇は日本を出て数ヶ月のうちに起こった。
双子の片方に異変が起こったのだ。時折黒い瞳が赤く染まり、凶暴性を増すようになる。弟に暴力を振るい始めた。
夫婦は恐怖に震えた。時折弟の瞳も兄ほど頻繁ではないにしろ、青く染まるようになったのだ。
それは兆候だった。
古くから伝わる"破壊者"の覚醒の・・・・
「悲劇はとある秋の夜長に起こった。弟は見てしまったんだ。半ば覚醒した兄が両親を惨殺した現場を・・・・・」
血にまみれる兄と両親。僅かに見えた口元には凄惨な笑みが浮かべられていた。
しばらくして兄の口元から笑みが消え去った。しかしその直後、兄の叫びが家中に響き渡った。
目の前にあるのは両親の体、そして自分はその返り血にまみれている。
弟は思わず飛び出していた。"お兄ちゃん!"と叫びながら。
「兄はそれから弟の記憶を催眠術で封印した。自分の罪を想い出させないように。それから二人は教団に見つけられ保護された。それは本当に一瞬だったんだ。あと一瞬、本当にそれだけ遅かったら二人の体はアクマの銃弾に貫かれていた」
二人の耳に光るイヤリングはイノセンスだと判明した。
二人は教団に連れて行かれ、そこでエクソシストになるための訓練を受けた。
「その双子ってのはお前たちか・・・」
「あぁ。俺は教団を出るまで自分が"破壊者"だなんて知らなかった。それを知ったのは自分の前世を思い出してからだ」
「前世・・・・?」
「俺の前世はソルディア・ブランド。"裁定者"候補の一人だ」
「・・・・・総元帥の恋人だったやつか。でもどうして思い出した?」
「ノアの一人アリサ・ミューシカ。そいつに出会ってから僅かずつにだが思い出していたんだ」
フォーはの隣に座った。
「なんでお前は自分に催眠術がかけられていることを知ったんだ?ていうか・・・・・」
「前世を思い出して、何もかもが解けたらしい。でも俺は催眠術をかけた兄貴を恨んじゃいない。俺を守るためにしてくれたことだから」
「それはお前の思い違いじゃないのか」
「・・・・・・・・」
「兄はお前じゃなくて自分を守るために「フォー」
はフォーの言葉をさえぎった。
「それでもいい。俺は本当にそれでいいんだ。でも・・・・・兄貴は苦しんでる。一人で・・・・・・なぁ、俺はどうしたらいいと思う?どうしたらイノセンスをまた元に戻せると思う?」
「・・・・・・・・・総元帥なら言うだろうな」
「なんて」
「望め、と。あれは何度も言ったんだ」
"不思議ね、フォー。人が望むと不可能なことでもできてしまう。望む力は何にも勝るのね"
「不思議な人だよ。あの人は権力を持ちながらそれを行使することを嫌う。権力者なら誰でもそれを使って支配するのに」
「そういうやつなんだよ、冬乃は」
「なぁ、。お前はどうしたい?"破壊者"として」
「壊すんじゃなくて、守りたい」
「いいんだよ、それで。お前のその気持ちにイノセンスは反応してくれるはずだから」
フォーはそう言って封印の壁に入っていった。
は額に手を当て小さく笑みをこぼした。
「そうだな・・・・・」
ありがと、と小さく呟くとはその場をあとにしたのであった。
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