「冬輝様・・・・・」
「あぁ・・・・・強制解放だな・・・・・」
アクマとの交戦が終わって新たに出港しようとする船内は慌しい。そんな中、冬輝とシェルは邪魔にならないところにいた。
彼らの話題は一つ。海上に一人出て行ったリナリーのことだった。ミランダのイノセンスにまきついていたチェーンが壊れたことから考えて、アクマは破壊したのだろう。
だが、肝心のリナリーが帰ってこない。エクソシストたちの中に不安が巻き起こる。
「・・・・・・・・・あの光。それから光から受けた印象。あの娘、強制解放を行って相打ちになったか・・・・」
「冗談じゃない」
冬輝の背後で声が聞こえた。満身創痍のが立っていた。
「"破壊者"を目覚めさせてどうするつもりだった・・・・・・・この場にがいればただじゃすまなかった!!」
「共鳴、か?」
「そうだ・・・・・・いくらあなたが罪の裁定者であっても二人は無理なのに」
「心配してくれてありがとう、。そして心配無用」
言うべき事は全て言ったというように冬輝はに背を向けた。
シェルがキョトンとしてを見る。
「それにお前は何人かの命を救った。それで十分だろう」
「何人か・・・・・・無事なのはたった数人だけだってあなたは知っているはずだ・・・・・」
「あぁ知っている。が、ラビたちは知らない。オレ達三人だけだ」
「・・・・・・・あなたは残酷だ」
「あぁそうだ。今更何をいうんだ」
は歯を噛み締めた。この男は・・・・・・そして自分は誰よりも残酷だ、ということを思い知らされた。
あの時、"破壊者"を解放したとき、不思議との意識ははっきりとしていた。そしてアクマの攻撃を受け、次々に死への道を辿っていく船員たちを見ていたのだ。
「僕は結局誰も助けられなかったんだ・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・お前、リナリー・リーという女を知ってるか?」
「知ってるもなにも・・・・・・仲間だけど?」
「あの女が戻ってこない。今まで力尽きて寝ていたお前にはわからんだろうけどな」
「えっ・・・・」
「強制解放、お前ならわかるな?お前の弟が行ったことだ」
「・・・・・・・・それをリナリーがやったと?」
「恐らくな」
は暗い水平線を見た。
「やめろって!!」
船員の大声には背後を振り返った。見ればラビがイノセンスに乗り、船員たちに取り押さえられている。
は彼らのもとへ走りよった。
「ラビッ!」
「、こいつらどうにかするさ!!」
「バカ、お前今怪我したまんまで嬢ちゃんを探しに行くなんて無茶だ。今舟の進路を変えるから」
「はぁなぁせよぉぉぉぉ!!」
ラビのイノセンスが一閃し、取り付いていた船員たちを振り払う。
「ラビくん、やめて!」
ミランダがラビに抱きついた。
「そこまでにしとけ、ブックマンの後継者」
冬輝の静かな声がその場を貫いた。たいした音量ではないのに、しっかりと全員の耳に届いた。
「あの娘、強制解放を行ったらしい。恐らくは海に落ちたか・・・・それとも」
冬輝の視線が水平線にむかい、そして細められた。
「強制解放は適合者にでかい負担を与えるぜ。まぁ主に寄生型のヤツに多いな」
「だったらなおさら・・・・・・・」
「強制解放はシンクロ率を100%までねじ上げることによって行う。シンクロ率は100いってねぇやつは無理やりってわけだ。無理やり上げたら上げた分だけ反動がくるんだ。あの白髪のがきももう一人の"破壊者"も同じだ」
「・・・・・・・・・」
「探しに行きたきゃ行けばいい。が、お前その怪我で行くつもりか?」
冬輝は首をかしげてラビに問うた。ラビはうなずく。
冬輝は大げさに溜息をつくとシェルを振り向いた。
「シェル」
「はい」
シェルには冬輝が何を言いたいのかわかるらしく、ラビの前に歩み出てきた。
「"天使の時計"」
シェルの手の中に小さな時計が現れた。文字盤には四枚の羽を持つ天使の絵が描かれていた。
「あなたの受ける時間をしばらくの間止めます。まぁ死にはしないのでご安心を。ただし、時を止めている間怪我を受けたら倍になって体に来ますのでお気をつけて」
シェルはその時計に銀のチェーンを通して、ラビの首にかけた。
文字盤が光だし、時計の針が動き出す。
「いけ。さっさと戻って来い。日本に向かわなきゃ行けないんだからな」
「それとラビ・・・・」
がラビを見た。
「君も僕らの仲間だってこと忘れないで・・・・・・」
ラビはにむかって強くうなずくと、イノセンスで海上に出て行った。
は倒れこむミランダをそっと支えた。激しい疲労の色が見えている。
「大丈夫・・・・・リナリーは・・・・・あの子は強いからきっと生きてるよ」
「さん・・・・・・・・・・」
「ミランダ、君も休んだほうがいい。まだ日本への道のりは遠いから」
「・・・・・・・はい」
ミランダを船員の一人に預ける。
とのポケットが振動した。ポケットから黒猫が飛び出す。
「フィル?」
「伝言着信。瑚乙冬乃ヨリ、クロス部隊へ」
スッと冬乃のホログラムが姿を見せた。
“あ〜〜やっと繋がった。もしかしてアクマの攻撃受けてた?”
「えぇまぁ・・・・・・」
“結構な数がやられたわねぇ〜〜”
冬乃は船員達を見回す。
「冬乃、お前見てんじゃねぇよ。こっちがなんだか悪く感じてくる」
“あ〜ごめん・・・・・ラビとリナリーは?”
「リナリーはレベル3と戦って今は行方不明に・・・・ラビが探しに行ってます」
“そっか・・・・・ミシェルの予感的中ね・・・・・”
「総元帥・・・・・すみません、少し船室に戻ります」
“うん、そうしたほうがいいわね。精神的に辛いでしょう?”
「えぇ・・・・・・本当にすみません」
“かまわないわ”
は部屋にフラフラしながら戻っていく。冬乃はじっとその背を見送り、姿が見えなくなると鬼の形相で冬輝をにらんだ。
“バカ冬輝っ!何勝手に‘破壊者’を目覚めさせてんのよっ!”
「あ〜悪かったって・・・・・・・・マジそれどころじゃなかったんだから」
“ドジ!!一度あの世へ送るわよ!!”
「冗談抜きでやめて・・・・」
緊張感のカケラもない二人の会話を聞く船員やエクソシストたちは呆然とした。
シェルはクスリと小さく微笑む。
“は〜〜多分リナリーなら大丈夫よ。そっちにクロスの使いが行ってると思う。もう会った?”
「使い?誰だ、それ」
“誰っていうか・・・・・・・何?もの?Itになるのかな・・・・いや、でも人・・・・・・”
「・・・・・・・・・・・・・・?」
“あ〜〜〜〜リナリーのイノセンスの力が近づいてきてる。うん、無事だったみたいね”
「あっ本当だ」
“じゃぁ私はこれで。冬輝、気をつけなさい。日本はあなたたちが思っているほど優しい国ではないわ”
「わかってる。俺たちを信じろ」
“・・・・・・・・うん。あと何かあったら連絡して。じゃっ”
ブツッという音とともに冬乃の映像が消えた。
フィルも力尽きたように倒れこむ。冬輝はそれを拾い上げた。
「知ってるよ・・・・・・日本は・・・・もう」
直後キィ・・ンという甲高い音が冬輝の耳を襲った。冬輝は背後を省みて、そしてそこに浮かんでいたものに眼を見開いた。
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