「仕方ないね・・・・・・・皆を守るためだし・・・・・・"破壊"解放」

の静かな声に反応するかのように体が光り輝いた。
漆黒の瞳は真紅へと変わっていく。

「出番か・・・・」

普段のの声ではない声がする。
ニヤリと笑い、イノセンスに手をかけるが思いとどまった。

「・・・・・・なんだ、"罪の裁定者"がいんのか。どうりで上手く動けないはずだぜ」
「"破壊者"お前、重力操作ができるな?」
「もちろん。それが俺の能力だからな」
「この船を浮かび上がらせろ。それとも俺に逆らえるか?」
「・・・・・・・できねぇなぁ、お前がいる間は俺の力が相殺されるし」

が笑って空を見上げた。

「本当はアクマを壊してぇけど・・・・・・まぁしかたねぇな」
「あぁしかたねぇよ」

の体がフワリと浮かび上がる。それと同時に傾いていた船も浮かび上がった。

「シェル!破壊者のほうへ穴をむけろ。あいつが死んだら今度こそ船が沈む」
「はいっ!」

シェルのイノセンスがの前にバリヤーを張った。
の体が光り輝き、それと同時に船の体勢が元に戻る。

「いけっ!今のうちに雲の中にいるアクマどもを消すんだ!」
「いえっさ!!」

はハッと顔をあげた。妙な胸騒ぎが一瞬したのだ。
海の彼方を見る。そこは暗く、人間の視力では何が起こっているのかわからない。
あの暗闇の中にはリナリーがいるのだ。

「リナリー・・・・・・」

ちっと下で舌打ちの音が聞こえた。視線を海の果てから下へむけると、冬輝が最悪を絵に書いたような顔をしていた。
見られているのに気がついたのか、冬輝が顔をあげる。

「強制解放が行われた・・・・・恐らくはレベル3を破壊しにいったやつだ」
「なるほど・・・・・・・・それほどまでに普通のエクソシストにはレベル3はきついのか」
「俺たちとものさしを一緒にすんな。俺たちにとってはレベル3はただの玩具に等しい。それ以上はまだ戦ってないからしらねぇけど」

がけっと笑った。

「人間は馬鹿なことをするな。自分の力を過信する。そして死んでいく。馬鹿なやつだ」
「それが人というものだ。オレ達とは違う」
「まぁな。俺たちを人のくくりに入れようとするやつらもいるけどな」
「・・・・・・・それはある意味では正解、ある意味では間違いになるだろう」
「半分が人間だからな。もう半分は寄生虫とでもいうべきか」
「寄生虫か・・・・・・・・やな表現だな。まぁある意味的確だが」

冬輝は苦々しげな表情をつくってを見た。
は口の端を吊り上げる。冬輝を嘲り笑うかのような笑みだ。
なんとなく嫌な気分になった冬輝はアクマの攻撃に専念することにした

「雲の中にいんのか・・・・・・・さて、どうすればいい?」

の言葉を聞いたブックマンがラビにむかって叫ぶ。

「馬鹿者!何故"木判"を使わん!!」
「あーそっか。忘れてた」
「阿呆が・・・・・」

冬輝の頭の中で膨大な量の情報が動いていく。
"木判"それはラビのイノセンスが持つ特殊系、自然物に影響し、操作する判
冬輝がニヤリと笑った。

「なるほど・・・・・・」
「冬輝様?」

シェルが怪訝そうな顔をして冬輝を見た。

「蘭華の言ってたとおりだな。情報を頭ん中に入れておくと便利だ。次の一手が見えてくる」
「蘭華様の?」
「あぁ。まぁあちらは心配ないだろう・・・・・・だが・・・・・・」

冬輝は水平線のむこうへ目を向けた。尋常でない視力が時々光を捉える。

「・・・・・・・・レベル3とやりあってるな」

ドンッとひときわ巨大な音がした。それと同時にミランダのイノセンスを取り巻いていた鎖も粉々に砕ける。

「・・・・・・・やったな」
「えぇ」

紅い雪が降ってきた。シェルはキラキラとした目で雪に触れる。

「わぁ!」

ドンッという衝撃とともに甲板にクロウリーが落ちてきた。

「"クリムゾン"・・・・・・"血なまぐさい"雪か・・・・」

そう言った言葉と同時に彼は倒れる。ミランダが慌てて駆け寄った。
冬輝は苦笑しながら近づいていく。

「バカなやつだな、お前アクマの血を吸ってこなかったんだろ」
「だ・・・黙れ」
「俺の血を飲め。アクマと同じような力がある。少しは力も回復すんだろ。ただしオレを殺すなよ?」
「冬輝さん・・・・・・あなた、でも吸血鬼に「ならねーよ、それは本物・・の吸血鬼だけだ」
「す・・・・すまないである」

クロウリーの牙が冬輝の手首に食い込んだ。
紅い筋が手首を伝っていく。

「よし、大丈夫だな」
「不思議だ・・・・・お前、何故こんな血を?」
「まぁいろいろあるんだよ。オレの出生の秘密がな」
「??」
「まぁお前たちにもこの旅にも関係ねぇ話だから気にすんな。悪い、シェル血止めのクスリ」
「はいはい」

シェルが冬輝の手首にクスリを塗っていく。

「・・・・・・とりあえずこの戦いは終わった。だが・・・・・・」

冬輝は遥か海の向こうを見た。
闇深いそのむこうに日本はある。そして彼らもいるのだ。

「気を抜けば即死だぜ。覚悟しておけよ」

冬輝とシェルは船べりへと歩いて行った。ラビ、ミランダ、クロウリー、ブックマンは新たに加わったエクソシスト二人を見た。
まるで神。その力(と態度)は神にも勝る。全エクソシストの中で最高の力を誇るエクソシストの二人。裁定者、時空師、夢見師、そして・・・・・
ブックマンの目がへむいた。いまだに空中に浮かび、冬輝のことを睨む青年へと・・・
破壊者・・・世界を滅ぼす存在として位置づけられた青年達。

「・・・・・・・運命を変えることはできませんよ。全ては神の御心のままに動くのですから」

クスリと笑ったシェルの小さな呟きは誰にも聞こえてはいなかった。

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