は爽やかな笑みを浮かべながら船室へ戻ってきた。

「心配かけてごめん・・・・・・・ってリナリー?」

リナリーはじっとを見ていた。
は優しく微笑むとそっとリナリーを抱き寄せた。

「大丈夫・・・・またきっととアレンに会えるから。元気出して」
さ・・・・・・・」
「うん。頑張ろうね、リナリー。ほら、コムイたちからのエールもあるんだし」

は新しい団服をリナリーに渡した。リナリーは一つうなずくと自分の船室へ着替えに行った。
クロウリーやブックマンたちが尊敬の眼差しで見てくる。

「さて、僕も着替えてこようかな」

はふと自分の団服の中に硬いものが混じっていることに気がついた。
ちょうど胸ポケットの部分が丸く膨らんでいる。

「・・・・・・・あっ」

取り出してみるとそれは黒く丸まった何かだった。

「・・・・・・・・何これ」

思わずは呟く。呟いた瞬間、持ったそれがブルブルと震えた。

「うぉうっ!?」

それはポトンと下に落ちるとみるみる形を変えていった。
最後には黒子猫になった。

「猫・・・・・?」
「これ・・・通信ゴーレム・・・・・・」

パカッと眼が開き、中から翡翠色の瞳が樺月を捉えた。

、承認。データヲ取得シマス」
「なっなに・・・・」
「通信一件アリ。瑚乙冬乃ヨリ、クロス隊ヘ」

途端翡翠色の瞳が輝き、部屋中にあふれ出した。

「っ!!」
「?!」

光が収まってエクソシストたちは眼を丸くした。子猫の前に冬乃(等身大)が立っているではないか。
確か前にもこんなことがあったな、とは思う。光は出なかったし、総元帥もここまで大きくはなかったけど、とも。
これもまた冬乃のホログラムだ。

『やっと繋がったわ・・・・・・』

冬乃は呆れたように溜息をつきながら呟いた。
そして船内を見回してクロウリーに眼を留める。

『あなたが新しいエクソシストね?はじめまして、黒の教団統括者、瑚乙冬乃です』
「うっ、うむ」
『さて、リナリーは?』
「今着替えに行ってますが・・・・・・・」
『そう。でもまぁいいわ。あとで皆が伝えて頂戴。さて、これは新しく私が開発したゴーレムよ。複数人のゴーレムに一気につなげることができるわ。中々便利』
「そうですね」
『でもってそこじゃなくて、私が一番初めにやりたいことはあなたたちに謝りたいってことなの』

エクソシストたちの頭にクエスチョンマークが浮かんだ。
冬乃はわずかながら苦笑する。

『アレンとのことはアジア支部から聞いたわ。それでも私はあんなに厳しい命令を出した。あなたたちがどれだけ傷つくか知っていて』
「・・・・・・総元帥殿・・・・・・」
『ごめんなさい。其の言葉じゃ足りないかもしれない。今の私にはあなたたちに謝っても許してはもらえないだろうっていう罪がたくさんある』
「・・・・・・ないですよ、総元帥」

はそっとそう言った。冬乃の眼がに向けられる。

『あなた本気?私は弟とアレンを見捨てて行けって言ったのよ?そう命じたのは私よ?』
「ラビに励まされて僕はわかったんです。総元帥の決断も辛いだろうなって。いや、それ以上にもっと・・・・・もっと総元帥は辛い思いをなさっているから」
『・・・・・・・』
「もうあなた一人で闘っているわけではありません。僕らがいます。仲間がいますから、だから一人で傷つかないでください」
『・・・・・・・ブックマンたちはどう思っているの?命令のこと』
「わしたちはただあなたに従うのみ」
「えぇ。あなたが良かれと思って判断したのならそれで・・・・」
「冬乃に間違いはないさ」
『・・・・・・・・・・・・・ありがと・・・・・・』

冬乃は微笑んだ。そしてはた、と我に返る。

『ッてそこじゃなくって・・・・・・話を元に戻すとアジア支部からさっき連絡があったの。意識がなかったアレンとの意識が戻ったんですって。それとイノセンスも破壊されてなかったらしいわ。二人のイノセンスはまだ動いている』
「それは・・・本当のことですか?」
『えぇ。二人はこれからイノセンスを回復させるそうよ?いつになるかわからないけど、必ずあなた達と合流するって』
「よかった・・・・・リナリーに教えてあげないと」
『あなたたちにはちゃんと予定通り日本へむかってもらうわ。アレンたちは別ルートで向かわせる。ちゃんと合流して、伯爵ぶったおして戻ってくるのよ?わかったわね』
「はい」
「冬乃・・・・」
『うん?』
「ちょっと話があるんさ。二人だけで・・・・・いい?」
『じゃぁ樺月たちが席を外してもらっていい?この子、フィアっていうんだけど、動けないから』
「わかりました」

たちが船室を出て行く。
冬乃はラビを見て首をかしげた。

『どうしたの?』
「オレ、冬乃がクロスのこと好きだっての知ってる。でもやっぱ俺は冬乃が好きさ」
『・・・・・ありがとう』
「絶対オレ、戻るから・・・・・・冬乃、俺たちが戻ったら・・・・ちゃんと目の前で聞いて?ホログラムじゃなくってちゃんと・・・」
『・・・・・うん』

冬乃は小さくラビに微笑んだ。

『さて・・・・・私も仕事に戻るわ。じゃぁね、ちゃんと戻ってきてッて皆にちゃんと言ってよ?これも命令だからね』
「おうよ」

冬乃のホログラムが消える。それと同時にたちが船室に入ってくる。

「あれ?総元帥、戻っちゃったの」
「あぁ。命令で、ちゃんと戻って来いってさ」
「・・・心配性だなぁ。ちゃんと戻るのに」
「だな」

ラビはそう言いながら外に出て行った。
は何も言わずにラビを見送った。

「まだ日本に着くまでには時間があるんだろう?しばらく好きな時間を過ごさせてもらうよ」

はそう言って欠伸をした。
そして一つのソファに横になる。

「しばらく寝る。なんか変わったことあったら教えて」

そう言っては夢の中へ入っていった。ブックマンとクロウリーはチェスをはじめ、ミランダは椅子に座ってリラックスし始めた。
それぞれが緩やかな時間を過ごせるわずか短い時間とは知らず・・・
しばらくゆるゆるとした時間が流れた。しかしあまり時間が経たないうちにが飛び起きる。

「どうした?」

ミランダもビクリとして立ち上がった。

「アクマだっ」「この船で連続して時間回復リカバリーが起きていますっ!」

二人は同時に叫んだ。は船室のドアを乱暴に開け、甲板へ出て行く。
甲板では騒ぎが起きていた。

「敵襲・・・・・アクマですっ!」
「ちっ」

は腰のイノセンスを発動させ、細い剣を呼び出した。
ラビの姿を探し、そして唖然とする。煙の中に一瞬だけ手が見えた。
血にまみれた・・・・・・・・・
ドクンッ
と何かが脈打つ。の心の中で何かが湧き上がっていった。

「おーやってるやってる」

そんな呑気な声が聞こえてきた。
船員やエクソシストがハッとして船室上部を見上げた。
そこに黒マント姿の人間が二人立っていた。

「レベル3だな、こりゃ・・・・・・・お前たちじゃ苦しいだろうな?」

その時既に、ブックマン、ラビ、リナリーがアクマに向かって行っていた。
新たなる謎の人物に船に緊張が走った。

「さて・・・動くぞ"時空師"」
「かしこまりました」

一瞬だけ、風にあおられてフードが揺れた。
戻ってきていたラビたちは見えた顔に瞠目する。

「安心しろ、ただの手伝いだ」

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