とアレンがアジア支部に助けられてから一日後
アレンは未だ目覚めぬのそばにいた。
「・・・・」
心臓を喰らわれ、イノセンスが食われた分の細胞となった二人
アレンが目覚めたのならば、が目覚めないはずなかった。
しかしの瞳は未だ閉じられたままである。
「僕を・・・・僕をかばったせいで・・・・・」
"アレンッ!"
あの時、ノアに殺されかけたアレンを一度は救った。
その代わり心臓の中心を喰らわれて、死んだはずだった。しかし彼のイノセンスの片方、"闇の調べ"がの心臓代わりとなった。
もう片方のイノセンスは破壊され、粒子となっていた。それはの団服の繊維に絡み付いていた。
「・・・・・・・」
アレンはの手をギュっと握っていた。
の意志はアレンの声も届かない奥深くに眠っていた。
「チッ・・・・・・めんどうくせぇやつだな」
眠っているの耳にそんな声が聞こえた。
はのろのろと瞼をあける。ぼんやりとした顔が見えた。
「おいてめぇ、さっさと眼を覚ましやがれ」
"放っておいてくれ・・・・・俺は眠いんだ"
「バカじゃねェの?寝たら死ぬぜ」
"・・・・・・・それも悪くはないな"
「おいおい・・・・破壊者は宿主が死ねば消えるんだぜ」
"そうすれば冬乃は死ななくてすむのか・・・・・・"
「すまねぇよ。もう一人の破壊者が殺すぜ」
"兄貴が・・・・・"
「あぁ」
は体を起こした。頭がクラクラしている。
"・・・・お前は?"
「お前の中に宿る破壊者だ」
"俺の中に・・・・・あぁなるほど。お前はオレか"
「そうだ。立てるか?」
"なんとかな・・・・・・・それで、ここはどこだ"
「ここか?ここは、意識の眠る場所。人では決してたどり着けない未知の場所だ」
"意識の眠る場所・・・・・・今の俺には意識はないのか?"
「あぁ」
もう一人のは顔を上げた。遠い遠い頭上に光が見える。
もそちらのほうを見た。
「あそこが普段お前が立つ場所だ。お前は一度死に掛けた。そのせいでここまで落ちてきたんだ」
"死に掛け・・・・・・あぁそうだった。俺はあのノアに殺されたんだ"
「あぁ。が、イノセンスがお前を守った。破壊者として世界を滅ぼす存在でも、お前を守ろうとした」
"俺を?いつか世界を滅ぼすのに?"
「そうならないことをイノセンスは知っているんだろう。お前が自分自身をどうするかを、あいつらは知っているんだ」
"世界は滅びないのか?"
「さぁな。お前達エクソシストが伯爵に負ければ、世界は滅ぶ。勝てば滅びない」
"破壊者"のは口の端を笑みの形に吊り上げた。
「しばらくはお前の中で眠っていてやるよ。感謝しろよ?」
"お前はそれでかまわないのか?"
「あぁ。アクマとの戦いなんて退屈なだけだしな」
"えっと・・・・・・なんていったらいいのかわからないけど、とりあえずありがと"
「それとお前のことをさっきから呼んでるやつがいる。さっさと起きろ、このままここにいると冗談じゃなく死ぬからな」
"・・・・・・・・どうやって上に行けばいいんだ?"
破壊者は何も答えない。がいぶかしげに見ると、そこに破壊者はいなかった。
"どうやりゃぁいいんだよ・・・・・・"
はいらだったように呟いた。
と、声が聞こえてくる。を呼ぶ仲間の声が・・・・・・
"アレン・・・・・"
彼だけじゃない。、リナリー、ラビ、ブックマン、クロウリー、コムイ・・・・・教団にいる者達、外にいる者達。を仲間としてみてくれる者達の声がの耳に届いた。それはやがてはっきりとした形を取り始め、の目の前に光の階段を作り出した。
"戻らなきゃいけないんだ・・・・・みんなのところに・・・・・・・・・俺は・・・・・・"
は一歩一歩その階段を上り始める。上へ行くごとに声はだんだん強くなっていった。
遠い昔の記憶の中にある声もまた、彼を呼んでいた。彼と同じように任務へ出て、世界を守ろうとした仲間達。そしてその犠牲となった者達の声も彼を呼んでいた。
死んだ自分達の代わりに世界を守って欲しい。
彼らの声がに力を与えていた。
そしてもう一つ。
"・・・・・・・""ソルディアッ!"
彼女の声が一番聞こえる。
"無事に戻ってきてね"
"戻る・・・・オレはまだ戦わなきゃいけない・・・・・・"
やがての体は光に包み込まれた。
アレンはの体が小さく動くのを感じ取って顔をあげた。
顔をのぞきこむと、が薄っすらと眼を明ける。
「・・・・・・」
「・・・・・アレン?」
はいつもとかわらない声でアレンの名を呼んだ。
アレンの顔が喜びに輝く。
「、よかった・・・・・・眼が覚めて」
「オレ・・・・・・・」
「眠ったままだったんです。ちなみに穴をあけられた心臓はイノセンスが助けてくれました。僕もです」
「そう・・・か。アレン、左腕・・・」
はアレンの左腕を見た。
そこに左腕はない。アレンは小さく悲しそうに笑った。
「あのノアに破壊されました。でも、さっきこのアジア支部の支部長さんから聞いたんです。まだ僕とあなたのイノセンスは破壊されてないって」
「俺のも・・・・・・?」
「はい。ヴァイオリンのほうはあなたの心臓を助け、太刀のほうはあなたの体すべてを守っていたんです」
「・・・・・・」
は己の体を見た。何も変わりはしない。
首をかしげていると小さな笑い声が上がった。顔をあげると部屋の戸口に誰かが立っていた。
逆光で誰なのかはわからない。
「眼を覚ましたのか、」
「お前は?」
「アジア支部支部長のバク・チャンだ。よろしく」
「はぁ・・・・・」
「さて、ウォーカーから既に聞いていると思うが、君たち二人のイノセンスはまだ破壊されていない」
バク・チャンと名乗った男は一歩部屋の中に入ってきた。
「イノセンスを復活させるかどうかは君たちにかかっている」
はこの男は頭がおかしいのか、と思った。イノセンスを復活させないでいたら、戻ってきた意味がないだろう。自分は戦うために戻ってきたのだから。己を信じてくれているイノセンスとともに世界を守るために。
「俺はやる。そのために戻ってきたんだからな」
「上等だ。ウォーカー、君は?」
「もちろん、僕の答えは変わりません」
二人の目に真剣な光を見たバクはうなずいた。
「よし、行くか。君たちのイノセンスを復活させに」
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