ラビとリナリーはアレンとを探しに行った。
はもしもの場合に備えて残る。
しかし心のうちではあせっていた。

・・・・・・」
「お主は・・・・・」

ブックマンの声には顔をあげた。
そこに立っていたのは支部の服を着た男だった。

「これでエクソシストは全員ですかな」
「いや、まだだ。あと二人いる」

しばらくしてブックマンから連絡を受けた二人が戻ってきた。
とアレンも一緒にいるだろうと思っていたが、その幻想は違った。
二人はしょんぼりとした顔で戻ってきたのだ。もちろんアレンももいるわけがない。

「さて、全員そろったようですので、我ら支部長の伝言をお伝えいたします」

かぶっていたフードをはずし、男の素顔がわかる。リナリーとは顔見知りらしく、少し眼を丸くしていた。

「こちらの部隊の及びアレン・ウォーカーは我らが発見し、引き取らせていただきました」
「本当に・・・・?!」
「はい」
「アレンくんもくんも無事なの?お願い、ウォンさん、今すぐ二人に合わせて」
「あなた方はいますぐに出航なさってください。これは冬乃総元帥からの命令になります」

リナリーの表情が愕然としたものへと変わる。

「二人とは中国でお別れです。辛いと存じますが、お察しください」
「ラビ・・・・・二人は・・・・・どうなった?」
「二人ともイノセンスを破壊された・・・・・・その時点でもうエクソシストじゃなくなった」
「そう・・・・・・・・・・・・か」

はそっとリナリーの腕をとった。リナリーが涙目でを見上げた。

「進まなきゃいけない。僕らの使命だろう?」
「でも・・・・・・でも二人は」
「リナリー、彼ら二人は生きてる。それだけで十分だろう?もう戦えはしない。でも死んでいないだけ十分じゃないか。それにイノセンスを持っている僕らは伯爵を倒さなきゃいけない」
さんは辛くはないの!?」
「・・・・・・・・っっ辛いに決まってる!!」

はそう言ったあと、ハッとリナリーや周りを見た。
皆驚いたようにを見ていた。

「・・・・・・・・辛いとか、そんなレベルのものじゃないよ・・・・生まれたときから僕とは一緒だったんだ。近所の人達に"双子の月"って呼ばれるほどだったんだ・・・・離れることなんて一度もなかった。一緒にいた時間が長いんだから辛くないはずないだろう?!」

は唇を噛み締めた。それがあまりにも強かったためにプツッと音がして唇が切れる。

「わからないよ・・・君たちには・・・・・・・・同じ時間を過ごした僕らの絆なんか・・・・・・わかるはずもないんだ」

全員がを見る。
アニタが硬くなった空気を柔らかくしようとウォンに話しかける。

「直ぐに出発するといっても、私どもの船はアクマからの攻撃で直ぐには出発できません。修理に時間がかかります」
「心配無用。本部から新しいエクソシストが来ています。彼女がいればすぐに出航できるでしょう」

ウォンの視線が船へとうつる。全員が船を見上げた。
そこに一人のエクソシストが立っていた。

「彼女―ミランダ・ロットーならば」

ミランダは船から降りてくるとイノセンスを発動させた。見る間に船がアクマの攻撃を受ける前と変わりなくなった。
皆、呆然とする。ミランダは慌てふためき海に身投げした。直後ブックマンに突き落とされたラビがミランダを助けあげる。

「最新の団服ですって」

ミランダはラビたちに団服を渡していた。全員が着替えた中、リナリーは着替えないでいる。
の姿も見当たらなかった。
ラビがを探しに甲板に出た。案外は直ぐに見つかった。船尾のほうでぼんやりと海を見ている。

・・・・」
「僕は彼に悪いことばかりやってるんだ・・・・・・・」
「?」
「僕の中の"破壊者"が小さい頃一度だけ目覚めて、両親を殺した・・」

がラビを振り向く。

「自分の両親をだよ?」
「それ・・・・」
は殺したあとの両親の姿を見た。僕にバラバラに惨殺された両親の体と二人の血にまみれる僕のおぞましい姿を」

は自分の手を見た。

「僕の手はたくさんの血で汚れているんだ。両親の血、アクマの血、戦いの犠牲になった人たちの血・・・・・血にまみれた僕を、それでもは"お兄ちゃん"って呼んでくれた」

"お兄ちゃん、痛そう・・・・・"
あのあと、彼はそっと自分の頬に優しく手をおいた。
悲しそうな顔をして、泣きそうな顔になって、両親を殺したのは自分なのに、それなのに彼はそれでもまだ"お兄ちゃん"と呼んでくれた。

「いつか僕がついてきた嘘がばれる・・・・・・・・」
「嘘?に嘘なんてついてたさ?」
「・・・・・・・両親は病気で死んだ。僕はそう言った。多大な借金を残して、とも言ったかな」
「・・・・・・」

はうつむいた。

「僕って本当にバカ・・・・に偉そうなこと言ってお兄ちゃんぶってるけど、結局は僕はお兄ちゃんなんかじゃない・・・・のほうがよっぽどお兄ちゃんだよ」
「・・・・・確かに」
「・・・・・・・・・ラビ、そこは普通否定するとこじゃない?」
「だって、も俺から見てみれば双子さ。どちらがお兄ちゃん、なんてわからないだろ?それに二人はその場その場でお兄ちゃんになってる」

の顔が一瞬泣きそうに歪んだ。しかしそれは本当に一瞬のことだった。の顔はすぐに自嘲的な笑みを浮かべたものになった。

・・・・・教団に入ったことをなんて言ったんだろう・・・ラビは聞いた?」
「いや・・・でもリナリーが聞いたと思うさ」
「・・・・・・・予言してあげる。彼が言った教団入団の経緯・・・・・"親を病気で亡くし、親戚は誰も引き取ってくれなかった。そしてアクマに襲われかけていたところをエクソシストによって救われ、両親の形見であるペンダントとイヤリングが光り、それがイノセンスだった"って感じだろうね」

ラビは首をかしげた。なんだか違和感があるように思えるのだ。

「不思議?」
「あぁ・・・・・」
「ラビ、催眠術って知ってる?僕はそれの初歩的なものから上級のものまで使えるんだ」
「それが?・・・・あっもしかしてにかけた、とか?」
「うん。僕たちだけのときは、さっき言ったみたいに、たくさんの借金を残して病死、誰かいるところでは病気で亡くし、孤児になったって感じに言えって命令しておいたんだ」
「なんでさ・・・」

はラビから視線を外して、月を見上げた。

「彼自身を守るために・・・・・」

でも、とは小さく呟いた。

「本当は自分自身を守るためかもしれない・・・・・・"破壊者"の運命を否定し、否定しながらもあの殺したいという願望に抗えなかった僕を隠すために・・・・・や皆に嫌われないようにするために」
「・・・・・・結局は逃げただけだろ」
「・・・・っ」
「結局は逃げただけ。俺さっきも両方が兄ちゃんだって言ったけど、やッぱのほうが兄ちゃんらしい。あいつは"破壊者"の運命を受け入れている。受け入れながら、それに抗っていこうとしてる。そっちのほうが立派さ」
「そう・・・・・・だね」
「なぁ、お前はどうしたいんさ?このまま逃げ続ける?それとも抗う?」
「・・・・・・・・・抗いたいっ!誰かを殺すのはイヤだっ!誰かを殺して、悲しませて、そして逃げるのはイヤだっ」

ラビはニカッと笑ってにブイサインを出した。

「大丈夫さっ!が負けそうになったときには俺たちが助けてやっから。だからは堂々として前を見て歩けばいいんさ」
「・・・・・・・・ラビ・・・・・・・ありがと」

は泣きそうな笑顔を見せた。

「おう!いつでも俺のことを頼るさ」
「・・・・・・・・わかった・・・・・・よろしく、ラビ」

仲間がいるから、僕がいて
キミがいるから、僕がいる
仲間が笑うから、僕は笑えて
キミが笑うから、僕は笑える
仲間にたくさんの"ありがとう"を
キミにたくさんの"ありがとう"を
僕から仲間に  僕からキミに
ありったっけの笑顔と一緒に
今送ろう

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