は目の前から現れたものに愕然とした。
それは口では言い表せないような形をしていた。
そしてはそれが何であるかを知っていた。
「咎落ち・・・・・?」
"ソルド、イノセンスを裏切ってはいけないよ。それは神への背徳行為に他ならない。裏切れば、君は咎落ちという・・状態に陥る。外から殺されるか、命尽きるまで破壊行為を行うか。咎落ちになったものを救う手立てはないんだよ"
昔そんなことを言った青年がいた。
彼は悲しそうな顔で言った。彼は自分の知らないところで咎落ちを見たと言う。
彼は恐怖に小さく震えながら言っていた。今思い返せば、それは正解なのかもしれない。
それはとても人間とは思えないものだった。
「・・・・・・・・仲間、だよな・・・・・・」
"教団がかなりの死者を出したわ。148名・・・・エクソシスト、探索部隊の合計でね・・・・・"
そう言った冬乃の声は疲れていた。少しだけ泣きそうな気配をそこに秘めながら彼女は言い切った。
"誰かが咎落ちとなる可能性も・・・・"
ミシェルもそう言った。深刻な声音をしていた。
二人とも何かを危惧しているように思えたが、それはこのことだったのか。
「お前は誰だ・・・・・?」
はそうたずねてみる。もちろん答えはない。
はふと、人間二人の姿を見つけ出した。しかし声をあげる前にアクマたちがあれ―既に化け物としかいえないもの―に攻撃を仕掛けた。
「あいつら・・・・・っ!」
人間二人はアレンとリナリーだった。彼ら二人はあの咎落ちが誰であるのか知っているらしい。
長らく教団にいなかったが知る由もない。教団にいたときもあまり仲間とは話さなかった。
リナリーと知り合ったのも今回戻ってきてからだ。
「どういうことだ・・・・・・」
は軽く舌打ちすると、彼ら二人を見上げる。黒い影が一つ落ちてきた。
ツインテールが見えた。リナリーだ。は彼女の傍に駆け寄った。
「くん!?」
「なにがあった。あれは誰だ?」
「・・・・スーマン・ダーク・・・・適合者だったのに・・・・」
「・・・・・・・適合者でも咎落ちにはなる」
はリナリーの腕の中にいる少女を見た。
「彼女は?」
「・・・・・彼の中から出てきたの。息してないから人工呼吸・・・・」
「しとけ・・・・俺はアクマをぶっ壊してるから」
はリナリーから顔をそらすと、イノセンスを発動させた。
「本気で俺を怒らせたらどうなるか・・・・・・見てろよ」
フワリとの体が浮き上がる。その瞳は青く輝いて見えた。
ブワリとの体から殺気が放たれる。離れた場所にいるリナリーでさえも恐怖に震えるほどだった。
「くん・・・・・」
「の名において我は命ずる。音楽の神よ、お前が与えたこの力今解放せよ!」
巨大な音が鳴り響いた。リナリーは思わず耳を塞ぐ。
ヴァイオリンの音がここまで巨大になれるものなのか、とリナリーは思う。
そして彼らも気がついた。
「!」
はヴァイオリンの音を耳にすると叫んだ。
あれは弟が最大解放をしたときの音だ。
「ばかっ!」
軽く舌打をすると向かってきたアクマを切り払う。
アニタたちも苦戦していた。
「ヴァイオリンの音・・・・・・」
アレンは目を覚ました。空が震えている。周りの空気の振動が肌で感じ取れる。
そして何かの叫びも。それは悲痛な何かを伴っていて・・・それでいて悲しくて強くて・・・・・
「スーマン・・・・あなたは・・・・・・」
はヴァイオリンの音色を聞きながら咎落ちを見ていた。
黒かった瞳は既に青く染まり、強い光を宿している。
と、咎落ちのそれを何かがつかんだ。はそれがなんなのかすぐにわかった。
「あのばかっ!」
は上空から下へ戻る。竹林に飛び降りると駆け出す。
あれはイノセンスだった。間違いない。そしてあのイノセンスは・・・・
「何しやがった・・・・・アレン!」
フラリとの体から力が抜ける。
喉の奥から熱いものがせりあがってきた。
「げほっ!」
吐き出すと血の塊が口から飛び出してきた。
「くそっ・・強制解放の影響がもうきやがった・・・・」
は木の幹に背を預ける。息がひどく乱れている。
しかしここで立ち止まっているわけにはいかないのだ。アレンがまだ・・・・
「ソルディア・・・・・・お前ならどうした?」
昔の自分へは語りかける。しかし答えがあるはずもなく・・・・
の口元に笑みが広がった。それはひどく自嘲的なもので・・・
「はっ・・・・ざまねぇな・・・・・」
ヨロヨロと立ち上がるとはまた走り出す。何度もこけ、何度も血を吐きながらもは走っていた。
既にの団服は自身の血で真っ赤に染まっていた。しかしはそんなことを気にすることもなく走って行く。
「アレ・・・・」
何度も何度も同じところを走っているような気がする。
は必死でアレンを探した。
気配を探りながら、心の中でアレンの無事を祈る。絶対に無事だ、きっと・・・・・・
いきなりぞくりと体中の毛が逆立った。
「ノア・・・・・っ」
は気配のほうへと駆け出していく。そして彼が見たものは・・・・・・
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