アレンたちは船にいた。
何故舟にいるのかは先日にさかのぼる。
「今・・・・なんて?」
「八日前、クロス様を乗せた船が海上にて撃沈されたと申し上げたのです」
「・・・・・・・・・」
「確証はおありか」
「救援信号を受けた舟が救助に向かいました。がそこにクロス様の姿はなく、不気味な残骸と毒の海が広がっていたそうです」
とが同時に溜息をつく。皆の視線が集中した。
「舟の行き先は?」
二人が尋ねる。二人とも少し呆れたような顔をしていた。それと同時に疲れたような顔も。
「僕らの師匠がそんなことで死ぬとは思えないんだけど」
「えっ」
「・・・・・・・・・」
アニタの瞳から涙がこぼれた。
兄弟以外のエクソシストは目をみはる。特にアレンが・・・・・
それを見た二人は不思議そうに首をかしげた。
「あれ?俺ら言ってなかった?とりあえず俺たちの師匠はクロスなんだけど」
「聞いてないし・・・」
「あの人、害虫なみにしぶとい人だから。たかだかアクマが襲ってきたぐらいじゃ死にはしない。ね、」
「あぁ。てか、アレンもそう思うだろう」
「・・・・・・・はい」
「それにティムは東を指し続けてる・・・・・・アニタさん、師匠は・・・・・・・・日本へむかいましたね?」
少しだけげんなりした様子では言う。アニタは彼の言葉にうなずき、立ち上がった。
「マホジャ、私の船を出しておくれ。私は母の代から教団のサポーターとして陰ながらお力添えしてまいりました。冬乃様への恩義もあります。クロス様を追われるのでしたら、私が案内しましょう。行き先は日本の江戸」
が申し訳なさそうな顔をして手を挙げた。
「その恩義ってなに?」
「・・・・・・・・九年前、冬乃様がこの店に来ました。私たちが教団のサポーターと知ってのことでしょう。あの方がこちらに着かれてほどなく、アクマがこの土地を襲いました。そのとき、私たちを救ってくださったのが、冬乃様です」
「なるへそ・・・・・助けたんだ」
白月はをむく。そして母国語で話し始めた。
『でも日本って正直どうよ?』
『なんとも』
『だってオレ達逃亡者だぜ?行ったら捕まるって』
『あのときから随分時間も経ってる。多分あいつらは死んでるよ』
『だといいんだけど・・・・・』
『・・進まなきゃいけないんだよ。何があっても僕らは進まないといけない』
『わかってる』
は小さく溜息をついてアレンたちを見た。
「行こうぜ、元帥のもとに」
そして今にいたる。
とは船員達の邪魔にならないよう端にいた。
「江戸かぁ・・・・・僕らの祖先の故郷だね、」
「あぁ・・・・・・」
二人は感慨深げにうなずいた。
日本は彼ら二人の母国でもあった。しかし彼ら二人が赤ん坊の頃、両親が逃げ出したのだ。
どうやら伯爵一味がやってきたらしい。よくそんな中で逃げられたものだ、と二人は思う。
と、二人の耳に機械音が、鼻に腐臭がただよってきた。
「アクマ・・・・・」
「それもはっきりとわかるってことは・・・・・」
「相当な数がいるな」
二人はのぼっていたマストをスルスルと降り、甲板から水平線のほうへ眼を向ける。
アレンも見ている。彼もアクマを感知したのだ。
「「皆、アクマが来る!!」」
アレンとの声が重なり、船員たちが空を見た。
遠く黒い雲のようなものが近づいてくるのがわかる。
「迎撃用意!!総員、武器を持て!」
「ちっ・・・・兄貴、援護頼む!」
「了解」
エクソシストたちがイノセンスを発動させる。
アクマに向かおうとする船員の耳にヴァイオリンの音色が聞こえ始める。
始めは小さく、そしてだんだん大きく。
アクマにとって超音波となる音色はしかし人間にとっては心地よい音色だ。
船員たちはウットリと聞き惚れる。はの音色にあわせるかのように剣舞を舞っていた。否、舞ながらアクマを破壊していた。
「?!」
「!!」
の手が止まる。も驚いたように顔をあげた。
彼らの頭上をアクマは通り過ぎていく。
「わっ!」
アレンの声が聞こえた。振り向いたの瞳にアレンがアクマに連れ去られていく様子が映る。
駆け出したを止めようとしたもまたアクマに連れ去られる。
「ほらやっぱり。黒いからもしかしてとは思ったんだ。これエクソシストだよ」
「お前、目ぇいいなぁ。俺に半分くれよ」
「やぁだね」
「・・・・・・・・(プチッ)」
の中で何かが切れる音がした。
「てめぇら・・・良い度胸してんなぁ・・・・・え?人を捕まえておいてよぉ・・・・・破壊される覚悟はできてんだろうなぁ?」
の殺気がこもった声がアクマに届く。その声だけでもアクマを破壊できそうなほどにその声は冷たい。
アクマたちはビクリと体をすくませた。
「逃がしはしねぇ・・・・てめぇらはここでぶっ壊す」
白銀の光が一閃した。の周りでアクマが次々に爆発していく。
が、はそこでやっと気がつく。彼がいるのは空中。そして彼は悲鳴をあげる間も無く、落下していった。
予想していた痛みよりも少し軽い痛みを受け、は落下した。痛みを堪えて立ち上がったの前に奇怪なものが姿を見せた。
「あれは・・・・・」
いっぽうアレンを助けようとしたはアニタがアクマ二体に襲われていることに気がついた。
歯を噛み締めて、彼はアニタの背後を襲ったアクマを破壊した。
「あなたは・・・・・」
「といいます。こんなところで死んだら、クロス元帥に会えませんよ、アニタさん」
「・・・・・・・えぇそうね」
はアニタの守るようにアクマの前に立ちふさがった。
その体から殺気が吹き出す。
「ねぇ・・・・これ以上僕を怒らせたら容赦しないからね・・・・・」
の双眸が不穏気に揺らめいた。
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