冬乃はミシェル、コムイとリーバーとともに歩いていた。
「リーバー、報告を」
「ティエドール部隊、ディシャ・バリー、ソカロ部隊、カザーナ・リド、チャーカー・ラボン、クラウド部隊、ティナ・スパーク、グエン・フレール、ソル・ガレン、以上六名のエクソシストが死亡。探索部隊を含め、合計148名の死亡を確認しました」
それを聞き冬乃の瞳が微かに揺れた。
着いた先は大聖堂。そこにはたくさんの棺が置かれ、たくさんの嘆きの声があった。
冬乃が中に入ると先に来ていた科学班が道をあける。
「・・・・・・・・・」
冬乃は深く眼をつぶり、膝を突き、祈りの姿勢になった。
「ごめんね・・・・お疲れ様、ありがとう」
冬乃は深く頭を垂れる。
たくさんの同胞が死んだ。故郷を離れ、世界のために戦い、そして死んでいった。
彼らを見つけ、呼んだのは冬乃だ。八年以上前、目ぼしい者たちを探し出し、ここに戻ってきてから彼らを呼び寄せた。
家族から引き離し、彼らを殺したようなものだ。
「たった数日でこれだけやられるなんて・・・・・・」
「口を慎みなさい」
後ろで小さな声で話す科学班に冬乃の冷たい言葉が投げつけられた。
ミシェルが横目で彼らを小さく睨む。
「彼らは命を懸けて世界を守ろうとしてくれた。そんな彼らの前で泣き言を言うのは許さないわ」
「冬乃様」
「・・・・・・・・」
冬乃は強く唇を噛み締める。力を抜いたら泣いてしまいそうだ。
「だめなのよ・・・・・私たちはまだ泣けない・・・・・・」
冬乃は身をひるがえすと歩き始める。コムイとリーバーも従った。
「冬乃ちゃん・・・」
「リーバー、あとの報告はコムイになさい。私は部屋に戻るわ。ミシェル、あなたは科学班の手伝いを」
「しかし・・・・」
「しばらく一人にしてちょうだい・・・・」
「・・・・・・・はい」
冬乃は何も言わずに部屋へ戻る。
ミシェルは顔を曇らせたが、リーバーの報告を聞いていた。
「・・・・・・くそ・・・・・・」
冬乃はコブシを机にたたきつけた。
あとから後から涙があふれ出てくる。
「なんでっ・・・・・あの子達が・・・・・私なんかより・・・・・・・」
自分の方が死ぬべきなのに。
バカダヨ、オ前ハ・・・・
オ前ガアノトキ、死ナナカッタカラ、全テガ狂ッタンダ。
「違う・・・・・・」
オ前ガ死ンデチャント正確ナ運命ニナッテイレバヨカッタノニ。
オ前ガ生キ残ラナケレバ、アレホドノ人間ガ死ヌコトモナカッタダロウ。
「やめて・・・・・・」
オ前ガ死ネバ・・・・・オ前ガ死ネバ・・・・・
「やめて・・・・」
ソルディアガ生キ残レバ・・・・・・アイツガ裁定者ニナッテイレバ・・・・・・・
「やめてぇぇぇぇ!!!」
耳を押さえて叫びだした冬乃の部屋にミシェルとコムイが駆け込んできた。
「冬乃様(ちゃん)っ!!」
「お願いっ!何も言わないで!!あの人のことを何も言わないでぇぇぇ!!」
「冬乃様!!」
「いやっ!」
ミシェルが彼女を止めようとするが冬乃はその手を振り払う。
我を忘れ、何かの声にさげすまれる冬乃にはミシェルの声もコムイの声も聞こえていなかった。
「やだぁぁぁぁ!!」
「冬乃ちゃん!!」
ミシェルが冬乃の手をつかむ。
「いやっ!はなしてっっ!!」
「落ち着いて!!」
「コムイ室長・・・あとは私が抑えます。できたらあとで何か温かい飲み物をお願いします」
「・・・・・・・わかった」
コムイは少しばかり心配そうにミシェルを見ながら部屋を出て行った。
冬乃はしゃがみこんで泣いている。
ミシェルはそっと冬乃を抱きしめた。
「冬乃様、どうか戻ってきてください」
「いや・・・・・・戻ったら・・・・・声が聞こえるもの」
「冬乃様、あなたをお守りするのが僕の役目です。いつでも盾になさってください」
「いや・・・・・・あなたも死んでしまう・・・・・」
「死にません・・・・・あなたも私も」
「本当・・・・」
冬乃の瞳がミシェルをとらえた。
ミシェルは優しく微笑む。
「本当ですよ、冬乃様」
「・・・・・・・・ミシェル」
「お帰りなさい。ご気分はいかがですか?」
「・・・・・最悪だわ」
冬乃はミシェルの手を借りて立ち上がった。
よろめく冬乃をミシェルはソファへ寝かせる。
「冬乃様、あなたが裁定者になられたのは神の声によるもの。あなた自身のせいではありません。ですから・・・・・・ご自分を責めないでください」
「でも・・・・・・」
「あなたが死なれてはあなたを守ったソルディアの命が無駄になります」
恋人の名を出され、冬乃の体が震える。
「冬乃様、あなたは総元帥。すべてのエクソシスト、サポート班をまとめるのです。あなたなくしては教団が成り立ちません。それに・・・・・・あなたのことを信頼している者達が大勢います」
ミシェルは戸口の外に誰がいるのか知っていた。でもあえてそれを口にしない。
「冬乃様、戦ってください。あなたの中のもう一人のご自分と一緒に、伯爵と・・・・あなたが倒れそうになったときには僕たちで支えますから」
冬乃は泣き笑いの表情を浮かべた。
ミシェルがそっと冬乃の涙を拭く。
「ありがとう。それと外にいる皆もね」
冬乃の言葉に外で小さな声が上がった。
冬乃は小さく笑う。ミシェルも笑った。
「頑張らないとね。声に負けないように・・・・・・・・」
冬乃の顔に活気が戻った。
彼女は決めたのだ。犠牲になった者達の分まで、世界を守って見せると。
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