「クロウリーってやつは相当趣味が悪いさ」
「それは同感だよ」

三人と村人たちはクロウリー城へ向けて薄気味悪い庭を歩いていた。
いたるところに不気味な彫像が置かれている。

「あれ、アレンもう手袋はずしてんの?もしかして怖いとか?」
「はは、まさか。でもそういうラビこそ手がずっとイノセンスに触れてますけど?」
「別にオレは怖くなんかないさ・・・・・・・は?」
「僕?別に。吸血鬼なんか物語の中だけの存在だよ?」

の剣は鞘の中にしまわれたままだった。との会話では、が怖がり症のように思えた二人だった。
しかしは怖がるどころか、気味悪い像にもぺたぺたと触れている。像を見てははぁ、となぜか感心している。

「っ!」

は気配を感じて、振りむく。アレンたちもそれぞれ背中合わせに立った。

「何かいる・・・・・・・」
「近づいてくるぞ」

の前を何かが一瞬で通り過ぎた。は瞠目する

(速いっ!)

アレンたちも同じくだ。と村人達の中から悲鳴があがった。

「フランツがやられたぁ!!アレイスター・クロウリーだぁ!!」
「まじでいたよ・・・・」

は驚くどころか感心してしまった。クロウリーはフランツと呼ばれていた村人の首に牙を突き立てている。

「じゅるっじゅるるるるるるる、じゅるるるるるるるるる・・・・ごくんっ!」

沈黙が広がった。そして沈黙は破られるもので・・・・・。

「うわぁぁぁ!助けてくれぇ!!」
「死ぬのはイヤだぁぁぁ!」
「こら!まて、逃げるなっ!」

の前を村人達が逃げていく。ラビ、アレン、はそれぞれのイノセンスを発動させた。
タンッ、と軽く地を蹴り、はアレンたちの前へ立つ。

「どうします?」
「どうってなぁ・・・」
「噛まれたらリナリーに絶交されるね」
「とりあえず、彼にとっては大事な食料でも村人を殺させるわけにはいかない!」
「アレン・・・・」
・・・・・・・?」

アレンは目の前に立ったをいぶかしげな目で見上げた。
は長剣を吸血鬼にむけ、肩越しに二人を振り返ると笑う。

「ここは僕にやらせて」
「・・・・・大丈夫ですか?」
「うん。アレンにいいとこ見せるためだもん」

はそう言うと襲ってきたクロウリーに剣の刃先をむけた。
その顔には不適な笑みが浮かんでいる。

「アレイスター・クロウリーって名前なんだってね。僕は。よろしく」
?!呑気に自己紹介なんて・・・・・」
「僕らはエクソシスト。別に君に怨みがあるわけじゃないけど、とりあえず君を倒させてもらうよ」
「はっ」

クロウリーはをバカにしたかのように笑う。しかしは穏やかに笑っているだけだった。それはもう怖いくらいに。
アレンとラビは彼の後ろに死神を見た気がした。

「シュッ!」

短く息を吐き出しの剣がクロウリーに向かう。クロウリーは獲物を腕に抱え後ろに飛んだ。
は右手に剣を持っていた。左、団服の袖口から小刀が滑り出てくる。はそれをクロウリーへむけて放つ。

「小ざかしい真似をする」
「ふふっ、こうでもして君を倒さないとアレンにカッコいいとこを見せられないだろう?」
「カッコいいとこだと?」
「そ。やっぱり好きな人の前ではいいかっこしたいでしょ?君にはいないの?そういう好きな人」
「・・・・・いないな」
「そっか。それは残念だよ。そうだ、君に聞きたいことがあったんだよ」
「聞きたいこと?」
「そっvv君ってどうやって村人を選んでるの?」

クロウリーの手が止まる。も攻撃をやめた。
二人は先ほどいた場所から遠い場所にいる。

「別に村長だっていいわけじゃん?」
「なんとなく、こいつだ、と決めただけだ」
「即決め?」
「そうなる」
「ん〜もっと吸血鬼ってのは選り好みするんじゃないのかなぁ・・・」
「それは貴様の考えだ。私には私の考えがある」

クロウリーが動いた。そのとき、の中でドクンと何かが脈打った。

「ぁっ・・・・・」
「もらった!」

クロウリーはの首を切ろうとしてとどまった。クロウリーをにらみつけたの双眸は血色に染まっていた。
が持つ剣はブルブルと震えていた。襲おうとしているのか、それとも違うのか。

「なんだ・・・・?」
「よ・・・る・・・・・・な」

の声は低くしゃがれていた。の瞳は赤になったり黒になったりを繰り返している。

あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!

は頭を押さえて叫び始めた。その叫びはアレンたちのところまで届いていた。

?!」
「何かあったさ?!」

二人がのもとへ行こうとすると、彼らのそばにあった像に何かがぶつかり粉々になった。
アレンがすぐさま駆け寄り、像のカケラを除く。ラビも手伝った。

!!」
「なんでさっ!」

カケラの中に埋まっていたのは血だらけのだった。イノセンスは手の中で鞘に収まり輝いている。
アレンが頬を叩いてもつねっても、は目を覚まさない。

「アレンッ!」

ラビの声に振り返るとクロウリーがいた。

「くそっ・・・・・・・」
「・・・・・・レン・・・・」
!?」
「そうか、お前がの鞘か」
「ぐっ!?」
「くくく、苦し紛れの鞘は弱い。だからオレが簡単に出て来るんだよ」

アレンの首はの手によってしめられていた。瞳の色は血色。アレンはゾクリとした。いつものではない。もっと別の、恐ろしいもの。

「俺のことを知らないか。まぁそれも道理だな。いいぜ、教えてやる。俺に名はない。まぁ一部の人間はオレのことをこう呼ぶ。"破壊者"ってな」
「"破壊者"・・・・・・・・・・・・・・冬乃さんの"裁定者"に仇為すべき存在・・・・・」
「冬乃?まだあいつ生きてんのか。しぶてぇやつだぜ」
「冬乃さんは・・・・・不老不死・・・・・ですから」
「不老不死ねぇ・・・・・・あいつはそのうち死ぬぜ。そうだなぁ・・・・この戦いが終わればすぐにな」
「・・・・・・はどこです・・・・・・」
?そいつなら今、俺の中で眠ってるぜ。心の乱れがおれを呼んだ」
「・・・・・・・・・げほっ」

アレンはの腕から逃れようと必死でもがく。ラビはクロウリーと戦っていた。アレンはそちらのほうも見た。
は口元に笑みをたたえている。それは見慣れた笑みではない。残虐で非道で、そんな印象を受ける笑みだった。

を・・・・・かえしてくださ・・・・」
「欲しいのか?こいつがそんなに?毛嫌いしてるくせして?」
を毛嫌いしていいのは僕だけです・・・・・」
「バカなヤツ」

はアレンの体を放り投げた。アレンの体は像へしたたかに打ち付けられる。衝撃で一瞬息が詰まった。

「お前達は弱い。だから強い俺がいる。ぐっ・・・・?!」

は頭を押さえて苦しみはじめた。その瞳の色が徐々に黒くなっていく。

「てめぇっ!」

アレンの耳にの声が聞こえた。

"この体は僕のものだよ。触らないで欲しいな"
「てめぇっ!いずれはオレのものになる体だろうっ!」
"今は僕のものだっっ!アレンに怪我までさせてっ!許さないよ!"
「強気になってられんのも今のうちだぜ、・・・・・そのうちお前はオレの力に頼らざるを得なくなる」
"ふざけんなっ!僕は僕の力でアレンを守るよっ!"
「やってみな。お前の奥底で見ていてやるよ」

の体から力が抜けた。
アレンはよろつきながらも、放心状態のへと近寄る。

・・・・」
「・・・・・・アレン?」

アレンをむいたの瞳は黒だった。アレンは安堵する。

「ごめん・・・・僕の気が緩んだから・・・・」
「いえ・・・・・・今のが破壊者ですか?」
「うん・・・・・とんでもない破壊衝動が起きてきてさ・・・・・味方まで傷つける力だからいつもは意志であいつを閉じ込めてるんだ・・・・・・・・・・・さぁラビを助けないと、ととと」
は休んでいて下さい。倒れては困りますから」
「・・・・・ごめん」

はその場にへたりこんだ。アレンはイノセンスを再発動させ、ラビの助けへとむかう。
その様子を見ながらは思った。破壊者は宿命から逃れられない、と・・・・・・・・裁定者と殺しあう運命に生まれたのだと。
顔を背けても向こうは顔を合わせようとしてくるのだと。つぅっとの頬を一筋の涙が伝った。

「・・・・・・ごめんね・・・・・」

小さく呟かれたその言葉は風に消えた。

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