君っ!」
「どわっ!」

アレンの病室前に立っていたは後ろからの激突で、ドアに頭を思いっきりぶつけた。
そばにいたミランダが悲鳴をあげる。
ジンジンと痛む額を片手で押さえながら、もう片手で激突してきた兄−につかみかかる。

「兄貴・・・・・激突すんなって言ってあると思うんだが?」
「そうだっけ?」

えへっ☆とは可愛らしく笑った。はその頬を問答無用でつねる。

「いひゃひゃひゃひゃひゃっ!いひゃいれしゅっ!」
「今度からはやらないな?」
「ひゃいっ!」

はようやくの頬から手を離す。
の両頬は真っ赤になっていた。はそこでようやくラビとコムイの姿に気がつく。

「・・・・・二人が来たってことは何かあったんだな」
「うん・・・でも詳しいことはアレン君とリナリーが目を覚ましてから・・・・・僕はアレン君の修理をしなくちゃね」
「えっ・・・・・・」

はコムイの言葉、主に後半部分、を聞いて固まる。ラビが苦笑していた。
もコムイに続いて病室に入っていく。は彼を止めなかった。

もアレンのこと心配してたさ。オロオロしてて、縄で縛り付けておかないとどこかに行きそうなくらいに」
「それは重傷だな・・・」
も手厳しいさ」
「兄貴のことだけはな」
「そっか」

ラビはの視線がそらされるのと同時に顔から笑みを消した。
まだミシェルが見せた夢に引きずられていた。別にが悪いわけではないというのに。
いっぽうも仲間たちの様子がおかしいことに気がついてはいた。ただ別に訳を聞くことはしない。聞いてもどうせはぐらかされるだけだろうから。

「あっあの・・・くん」
「ん?」
「私・・・・そろそろ行くわ。これ・・・アレンくんとリナリーちゃんに渡しておいてくれないかしら?」
「わかった・・・・・・・・ミランダ」
「はい」
「今度会うときは仲間だな。よろしく」

はミランダから手紙を受け取り、手を差し出す。ミランダはその手をおずおずと恥ずかしそうに握ってきた。
そして小さく笑むと教団へ向かっていった。イノセンスとともに。

、アレンが目、覚ましたよ」
「そうか・・・・」

が病室からに声をかける。は中を覗いた。アレンがベッドの上に座っている。

「アレン、大丈夫か?」
「えぇ・・・にたくさん心配をかけて・・・・すみません」
「オレは別にいいって。それよりも兄貴のほうが心配してたんだぜ。なんだかラビの言うところでは縄で繋いでおかないとどこに行くかわからなかったらしいからな」
「ちょっ・・・・っ!」
「そうですか・・・・・・・・ありがとうございます、
「・・・・・アレン」

はジンとした瞳でアレンを見た。アレンは少し体を引く。

「なっなんですか」
「ちゃんと僕の名前を呼んでくれたね。それからたとえ棒読みでもお礼を言ってくれたね」
「あっ・・・」

アレンがしまったと口を手で覆ったときにはもう遅い。は踊りだしそうなくらいに浮かれていた。
は面白そうに彼らを見ていた。ラビも苦笑している。

「さて・・・オレはブックマンとリナリーの様子でも見てくるな。あっアレン、これ・・ミランダからの手紙」
「ありがとう」

はアレンに手紙を渡す。体に巻かれた包帯の白さが目に痛い。
手紙を渡したまま固まってしまったをアレンはいぶかしげに見た。

?」
「あっ・・・いや」

は慌てて顔をそらすと、アレンの病室を急ぎ足で出て行ってしまった。
がそのあとを追いかける。
に追いつき、その手をつかみ振り向かせる。

っ!」
「兄貴?なんだよ・・・・・」
「どうした?」
「なにが」
「様子がおかしいよ、
「なんでもない」

はつかまれていた手を乱暴に振りほどく。
は弟を強い目でにらみつけた。の眼が見開かれる。飄々として穏やかで流水のようにどこかつかみどころのない兄。
自分はしばらく兄の本気を見たことはなかった。だからなのかもしれない。ここまで怖いと感じたのは。

、僕の顔をよく見て。嘘をついていればすぐにわかるんだ。僕は君の兄だよ?血がつながっている。わからないはずないんだ」
「放っておいてくれよ」
「やだ」
「兄貴っ」


の静かな声にヒクリと息をのんだ。本気で、いや本気以上に彼は怒っている。
最近は自分が怒るほうが多かったからすっかりと忘れていた。が本気で怒ったらどんなに怖いかということを。

「ちゃんと言いなさい。僕と離れている間に、任務に出ている間に何があった??」
「・・・・・・・・・」
「・・・・・・それならこの包帯と傷跡はなんだい?」

の団服の袖を捲り上げる。が隠す間も無く、白い包帯が現われた。はそれさえもするするとほどいていく。
やがて現われたのは細い、しかし深い傷跡だった。は傷跡からへ視線を移す。
は視線をそらしていた。

・・・・・・・」
「・・・・・・・アリサに会ったんだ・・・・・それで戦闘に」


の頭をぎゅっと抱きしめた。

「僕はそんなに頼りないお兄ちゃんかな?これでも君を守るために一生懸命なんだよ・・・・・・僕に隠し事をしないで。君は僕の大事な家族なんだから」
「・・・・・家族だからだ・・・・・」
「えっ・・・・」
「オレは兄貴にも教団の皆にも隠していることがある。だからだ。それに皆を巻き込むわけにはいかないんだ」
「・・・・・」

が隠していることが何か容易に想像はつく。きっと過去のことなのだろう・・・・・・
は優しげな微笑を浮かべの頭を撫でた。

、僕は君のお兄ちゃんだってことを忘れないで欲しい。いつだって・・・・・・たとえ世界が敵に回ったって、僕は君の味方だよ。君が僕らを裏切ったとしても・・・・まぁ君が僕らを裏切るとは思えないんだけどね」
「兄貴・・・」
「頼っていいんだよ、。君は一人なんかじゃない。昔は僕が、そして今はたくさんの仲間がいるだろう?、頼って・・・・・自分の心で自分自身を潰さないように。僕らをたくさん頼って」
「・・・・俺、アリサのことで手一杯になってて・・・・それで兄貴たちの存在を忘れてた。アリサのことは俺一人でどうにかする気になってた」
「うん」
「俺、間違ってたのか?」
「・・・・間違ってるとも間違ってないともいえるだろうね。十人十色だよ、
「兄貴はどっちだと思う?」
「僕?ん〜そうだなぁ・・・・」

はしばらく考えたあと答えにたどり着いたのか、笑った。

「どっちでもないよ。が決めたことだもん。僕がどうのこうの言えるわけないじゃん」

へらりといつもどおりの笑みでは言った。は小さく笑った。

、君は僕自慢の弟だよ」

はそう言うとアレンの病室へ戻って行った。戻っていく間際、彼はの頭を優しく撫でていった。
触れられたところがほんのりと熱を帯びている気がする。

「オレは・・・・本当に鈍感だな」

は小さく笑みを浮かべ、リナリーの病室へとむかう。
中に入るとブックマンがいた。

「リナリーの様子は?」
「治療はした。あとは目覚めるのを待つだけだ」
「そっか・・・・・・」

はリナリーのそばに寄った。小さな寝息が聞こえてくる。

「ごめん。オレがあの時・・・・・」

あの時、リナリーのそばから離れなければ。そしてアリサの姿に動揺を覚えなければ・・・・・・

「今度はもっとちゃんとする。約束するから・・・・・」

はそう言うと病室から出て行った。ブックマンがその背を見送る。

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