「すごい・・・・・・」
アレンは呟いた。
「リナリー!!ちょっと見てください」
ミランダと話をしていたリナリーとはアレンの声に振り向いた。
「時計人間」
「きゃ――――っ!!」
「なんだそれっ!!」
リナリーとミランダは驚き、は笑い転げた。
時計からアレンの頭と手が出ていた。
アレンは笑いながら時計から出てくる。
「これ、触れないんです。今試しに触ろうとしたら、ほら」
アレンが時計に手を入れると手が時計をすり抜けた。
「すげ・・つまりはミランダしか触れないって事か?」
「えぇ。さっきの"巻き戻し"といい、このことといい。どうやらイノセンスのようですね」
「本当に・・・・この時計が町をおかしくしているの?」
「多分・・・・」
「ま、まさか壊すの?私の友を?」
「落ち着けって・・・・・ミランダ、本当の10月9日に何があったか覚えてないか?なんでもいい、どんなことでも」
ミランダは頭に手を当てて考えた。
「・・・・・・・・・・あの日は・・・・・・・100回目の失業をした日で・・・・」
「100・・・」
「さすがに失業回数も3桁になると感傷もひとしおで・・・・・」
"毎日毎日嫌なことばかり・・・・前向き?フフ・・・なにそれ。なんかもぉ人生でもいいわ。明日なんか来なくていい"
アレンとリナリーが愕然とした。は呆れたような溜息をついた。
「それだな。問題は」
「それだよね・・・・・」
「イノセンスがミランダさんの願望を叶えちゃったんですよ!」
「私はただ時計に愚痴っていただけよ。だいたいなんで時計がそんなことするのよ」
「ミランダ、あなたまさか・・・・この時計の適合者?」
「それはありえるな。ミランダの願いに反応しているのならシンクロしている可能性もある」
「ミランダ、時計に奇怪を止めるように言ってみて!」
「時計よ時計よ、今すぐ時間を元に戻して〜」
アレンとリナリーが走って新聞を取りに行く。
「そんな簡単に終わるか・・・・・」
は小さくぼやいた。そしてアレンとリナリーがどよんとした雰囲気で戻ってきた。
「お帰り。どうだった?」
「だめです・・もう一度はじめから考えてみましょう」
「そうだな」
そして三日後、34回目の10月9日
アレンとミランダはアルバイト、リナリーとはそれを見守っていた。
「アレンって大道芸ができるんだな」
「えぇ。育ての親が旅芸人だったもので」
「そっか」
「リナリーはいつ教団に?」
「私は物心ついたときから・・・・・始めのほうはあそこが牢獄のように思えた。三年後、兄さんが『科学班室長』の地位について教団に入ってきたの」
「へぇ・・・コムイがねぇ・・・・」
「とはいつから?」
「オレたち?覚えてないんだよな・・・・オレ達両親はとっくに病気で死んでたし、親戚は孤児のオレ達を引き取らなくって二人だけで生きていたんだ。
正直、俺が生きてるのは兄貴のおかげ。で、アクマに襲われそうになっているところをエクソシストに助けてもらって・・・・そのとき、兄貴が首にかけていた親の形見のペンダントとイヤリング、これはオレがつけてたんだけど、それが光って・・・エクソシストだってわかったんだ。てかこれ全部兄貴の話だけど」
「って結構いい人なんですね」
「まぁな。性格はいまいちだけど」
はあれでもいいところはあるのだ。本人が出さないだけで・・・・・多分・・・・・
なんていうのは冗談だ。確かににいいところはある。現に何回もは助けてもらっていた。
「あっ!ねぇ―そこのカボチャァ―『カボチャと魔女』のチケットどこで買えばいいのぉ?」
キャンディを持った少女がそうたずねた。
「いらっしゃいませ―♪チケットはこちらでーす♪じゃっリナリー後半頑張ってきまーす」
「いってらっしゃい」
アレンはいきいきとしながら、少女と一緒に行った。はそれを厳しい顔で見ていた。
「くん?」
「あっいや・・・なに?」
「どうしたの?なんか怖い顔してたけど」
「気のせいだ」
リナリーは不審げな顔でを見ている。
は居心地が悪くなり、立ち上がった。
「リナリー、ミランダの家に戻ってる。少し気分が悪くなったから・・・」
「私のせい?」
「いいや、違う。そんなことは絶対にない。大丈夫だ」
はそう言ってその場からいそいそと離れていった。
劇場から離れてミランダの家の方向へ歩いていく。とその途中で足が止まった。人ごみの中に見慣れた人物が立っていた。
の目が大きく見開かれた。
「アリサ・・・・・」
「久し振りね、」
「なんで・・・・・お前は死んだんじゃ・・・・・」
「生きてるわ。こうして」
アリサはに近寄った。それはが覚えているままのアリサだった。
「何の目的だ」
「目的?決まってるじゃない。イノセンスの回収よ」
「イノセンス・・・・・ミランダに何かしたのか?!」
「彼女だけじゃないわ。あなたと一緒にいた二人のエクソシストにもね」
「何をしたっ!!」
「知らないわ。私は何もやっていないもの。やったのはロード。私の妹よ」
「妹・・・・・・」
はミランダの家へと向かって猛スピードで走り始めた。嫌な予感がする。胸騒ぎがする。アレンに、リナリーに何かが起こっている気がする。
「アレンッ!リナリーッ!ミランダッ!」
家の中に飛び込んだ白月は時計のあった場所へ行き、愕然とした。
そこには血で『Fyck you!exorcist』と書かれていた。
「ざまーみろ、エクソシスト・・・・・・・・?」
「本当はあの子とあなたたちの出会いはシナリオの中にはなかったの。でもあの子がどうしてもって言うからね・・・・」
「お前ら・・・・・・」
は怒りのこもった目でアリサをにらみつけた。
「やだ・・・恋人に殺意をむけるなんて」
「お前とは縁を切った。お前は亡者だ」
「ひどいわ。私は生きてるもの。あのとき、貫かれていてもね」
「・・・・・・ノアの一族の力か」
「えぇ。すごいでしょう?エクソシストなんかよりもよっぽど素敵だわ」
「狂ってる」
「あなたもね」
「?!」
は寒気を感じ、周りを見回した。そこはミランダの部屋ではなく、別の部屋だった。そう、氷でできた・・・・・・・
「ようこそ、私の部屋へ。あなたが一番初めのお客様よ」
「これもノアの力か?」
「えぇ。私の能力は全てを凍らせて枯らすこと・・・・・・・・百年以上も前、私は力を目覚めさせた。あの二人が一緒になってから・・・・」
「・・・・・・ソルディアと冬乃か」
「あら、知っているの?」
アリサは意外そうな顔をしてを見た。は伸びた前髪をかきあげる。そこにあったのは黒と青のオッドアイ。
アリサは驚いた。
「オレはソルディア・ブランドの生まれ変わりだ。目の色は自分の意思で変えられるらしくてな。普段は漆黒だ」
「嘘・・・」
「嘘じゃない。お前がオレに惹かれたのはオレがソルディアの生まれ変わりだからだ」
「ありえないっ!」
「ありえる。現に冬乃は俺のことを知ってから、オレがソルディアだとわかった。これは愛の力ってやつか?お前に一番ないやつだな」
の言葉に怒ったアリサの周りに氷の矢が浮かぶ。その矢先は全てにむいていた。
は太刀の柄に手をかける。
「殺せっ!」
アリサの言葉で矢がに向かって放たれた。向かってくる矢はをかすめる。心臓や内臓を狙ってくるものをは切り落としていった。
手や足にも矢は容赦ない攻撃を仕向けてくる。どこかから爆発のような音が聞こえてくる。
「あの二人のエクソシストも苦戦しているみたいね。ふふっ、私達ノアは本当の神の使徒。あなたたち偽りの使徒とは違うのよ、」
「偽りの使徒?どっちが」
「あなたたちが」
「ふんっ。バカが」
「バカですって?どちらがバカだと思っているのよ」
「お前だろう?この音はリナリーのイノセンスの音だ。それからアレンも攻撃をしているみたいだな」
「ロードが負けるはずないわ」
「そうか?いくらアクマといえども、エクソシストに破壊されればおしまいだろう?」
「エクソシストだって殺されれば終わりだわ」
「往生際の悪いやつだな。前のお前はそんなにバカじゃなかった」
ドンッとひときわ大きな音がした。アリサがハッとする。はにやりと笑った。
「俺たちの勝ちらしいな・・・」
「くっ・・・」
アリサは巨大な氷の弾をつくるとそれをに向かって投げつけた。
が剣でそれを真っ二つにすると同時にアリサの姿が背後に現われた門の中に消えた。
「くそっ・・・・・えっ?」
体がぐらりとかしいだ。真っ二つにされた氷が立っている地面に穴を開けたのだ。
の体が穴の中へ落ちていく。落ちていくが見たのは巨大な丸い氷のボール・・・・・白月は今までその中にいたのだ。
「どわっ!」
落ちた先はミランダの家の玄関だった。打ちつけた腰をさすりながら、はあたりを見回す。
「アレンくんっ!」
リナリーの叫び声が聞こえた。は立ち上がり、声のするほうへ向かう。
そこにはリナリー、アレン、ミランダがいた。
「アレンッ!」
「っ!」
「何があった?」
「ミランダさんのイノセンスの力です・・・・・傷を受けてたのを彼女が・・・・・」
ミランダの息はあがっていた。
「発動をとめろっ!それ以上やると体が壊れるぞっ!」
「だめ・・・・・・とめたら・・・」
ミランダの周りに浮いていた時計たちがアレンとリナリーに寄っていく。
「吸い出した時間も元に戻るみたいなの・・・・またあの傷を負っちゃう」
は優しくミランダの肩に手を置いた。
「ミランダ、発動を停めるんだ」
「いやよぉ・・初めてありがとうって言ってもらえたのに・・・・・これじゃぁ意味がないじゃない」
「発動を停めてください」
アレンの声にミランダが顔をあげた。
「あなたがいたから今僕らはここにいられる。それだけで十分ですよ。それに自分の傷は自分で負います。生きていれば傷は癒えるんですし」
「そうよミランダ・・・・お願い停めて」
ミランダは泣きながら発動を停めた。アレンとリナリーの体に時間が戻る。アレンたちの体に傷が戻り、血が流れる。
ミランダは走って下の管理人室へ駆け込んだ。
はアレンの血を流す左目に触れた。育て親につけられた呪いだという。この左目はアクマの魂を映すとも・・・
「アクマの魂が見えるなんて必要ないのにな・・・・・」
は小さく呟いた。
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