「任務・・・・」

ミシェルがたちに夢を見せた翌日のこと
クロスは冬乃に呼ばれていた。

「えぇ少し予定が食い違ったの。あなたたち元帥にはいつもどおりの指令をあげるわ」
「残りは?」
「残りは色々。それで、クロスは日本へ向かって欲しいの」
「日本へ?」
「そう。正確には日本の江戸へ・・・・・危険な任務よ。どうする?」
「・・・・行く」

冬乃は口元に笑みを浮かべると任務内容をクロスに話す。話が終わるとクロスは険しい顔をしていた。

「無理?」
「できる・・・・・直ぐに行けばいいか?」
「えぇできるだけはやく。何かあったら直ぐに応援を送るわ」
「足手まといにならない奴をな」
「わかったわ」

クロスは冬乃の顔を見ると、小さく笑って部屋を出て行った。
それと同時にミシェルが姿を現す。

「日本の江戸ときましたか・・・・・・」
「えぇ。クロスは元帥の中でも信用できるわ。イノセンスの力も半端じゃない。だから行かせたのよ。何か不都合でもあったかしら」
「ありません。それが冬乃様のお考えならば・・・」
「ミシェル・・・あなたっていつも私に忠実ね。なんで?」
「なんでって・・・・・そのうちにお話いたしますよ」
「結構気になるんだけどな・・・・」

ミシェルはそっと微笑み冬乃の髪をひとふさとった。

「僕は冬乃様のことこんなにも好きなんです・・・・好きな人のために尽くしたいと思うのはだめなんですか?」
「いいえ・・・・いいことじゃないかしら」

冬乃は手元のゴーレムでエクソシストを数人呼び出す。
やってきたのはアレン、リナリー、

「仕事があるわ。最近時間が止まった町があるみたい・・・そこは同じ日が何日も何日も続いているというわ。探索部隊は入れなかったから、イノセンスの仕業と見ていいでしょうね。そこであなたたちに向かって欲しいの。その町はこう呼ばれているわ。『巻き戻しの街』ってね・・・・」
「巻き戻しの街・・」
「そう。もしもイノセンスの仕業ならイノセンスの回収をしてきて。あっついでに適合者も探してきてね?」
「わかりました」

三人は直ぐに出発するといって、部屋を出て行った。入れ替わりにラビとブックマンが姿を見せた。

「お呼びか、総元帥」
「えぇ。あなたたちに頼みがあるの。いずれあなたたちエクソシストは長期の任務に着かなければならなくなる。そのために力を蓄えておきなさい。私がつくったチームの中であなたたちの入るチームが一番過酷になるのだから」
「冬乃・・・・・?」

冬乃を呼び捨てにしたラビの後頭部にブックマンのコブシがはいった。
冬乃は笑みをこぼす。

「かまわないわ、ブックマン。ラビ、これからも呼び捨てでかまわないわ」
「で、冬乃、俺たちは具体的にはどうしたらいいのさ」
「実験用なんだけど、アクマを何体かクロスに改良させてあるの。レベル2よ。それを使いなさい」
「おっし。それじゃ行くさ、パンダ」
「黙れ、ラビ」

ブックマンとラビはにぎやかに部屋を出て行く。
ミシェルは苦笑していた。冬乃は優しく二人の後姿を見守っていた。

「成長したわね、皆・・・・」
「冬乃様、冬乃様のお姿が変わらないこと皆さん不思議に思わなかったんですか?」
「ん〜思っていたみたい。でも聞くのが怖かったみたいよ。それに私って、結構女性方からは嫌われているみたい」
「あぁ・・・・・・永遠に美しいままですからね・・・・・・永遠に美しいままというのは女性の憧れですから」
「永遠・・・・ね」

冬乃は嘲笑を浮かべた。
ミシェルは何も言わなかった。

「好きな人に先立たれて、子供にも孫にも先立たれる。しかもその間姿は一生・・・一生変わることがないのよ。どこがいいのかしら・・・普通に年を取っていくのが一番いいというのに・・・・・何故人は皆永遠という時間を求めるの?」
「僕にはわかりませんよ。でも・・・・・僕も不老不死なら良かったって思うときはありますよ。そうしたら・・・・あなたと一緒にいつまでもいられるでしょう?」
「その気持ちは嬉しいわ。でも・・・いいの。あなたまでこの苦しみに捕らわれてはいけないのよ」

冬乃は優しくミシェルの頬を包んだ。ミシェルはその手に自分の手を重ねた。互いの暖かさが心地よい。

「ありがとう、ミシェル。シェルにも伝えて頂戴。近いうちに私と冬輝は分かれることになるからって・・」
「はい・・・」

ミシェルは胸に手を当てて、冬乃に向かい敬礼した。そして部屋を出て行く。独りになった部屋で冬乃は肩の力を抜いた。どうやら柄にもなく力んでいたらしい。

「疲れた・・・・・・・」

冬乃はほぅ、と息をついた。何故だか嬉しさがこみ上げてきた。
きっとラビの一言が原因だろう。

"冬乃"

自分の正体を知ってもそう呼んでくれる者がいることが嬉しかった。自分を遠ざけないでいてくれるから、冬乃は笑えるのだ。
今まで正体を知られることを恐れていた。知ったら、きっと今までどおりに暮らせないとわかっていたからだろう。
総元帥ということは自分が思った以上に重荷になっているようだ。

「それでも私はやらなければいけない・・・」

窓から白梟と烏が入ってきた。二匹は冬乃の両肩にとまる。

「あぁお帰り・・・・ファイ、シズク」

二匹は冬乃の頬にすりよる。冬乃はくすぐったそうに笑った。

「ねぇ・・・私達は勝てると思う?」
「クルゥ・」
「そっか・・・・さて・・・・・皆動き始めたわ。私たちも動き始めましょうか、冬輝」

自分の中で別の鼓動が一つ聞こえた。

back next
menu