アレン、ラビ、神田、リナリー、クロス、コムイ、は同じ場所にいた。暗い真っ暗闇の夢の中に。
「なんで僕らは同じ夢の中にいるんでしょうね」
「わかりませんよ・・・・・」
アレンはげんなりしたように言う。なんで夢の中でまでこれがいる?というかそれ以前にここはどこなんだ?
「ようこそ。ここは夢見の間です」
そんな声が聞こえた。リナリー、コムイ、クロスが同時に息を呑む。
「ミシェル・ブランド(元帥)!!」
「お久し振りですね、皆さん」
ミシェルは微笑む。アレン、ラビ、神田、は首をかしげた。
「誰ですか?」
「元帥っつぅことは・・・・・・」
「やっぱり元帥なのさ?」
「クロス元帥と同じくらい音信不通だから知らなくても当然かな」
「というか存在さえ忘れてたわ」
「まだ生きているとはな」
「皆さん、苛めですか?僕は冬乃様に呼ばれたから来ただけで、用が済めば出て行きます」
「用?」
ミシェルは暗闇を指差した。全員分の視線が集まる。
「これから見ることは誰にも口外しないで下さい。あなたたちだけに話すことですからね。わかりましたか?」
皆、無言でうなづく。ミシェルは満足そうに微笑むと暗闇に目を向ける。
そこに一人の少女が立っていた。
「彼女の人生をこれから見ていきましょう。僕にちゃんと着いてきて下さいね。迷ったら二度と抜けられません。僕でも助けられませんよ」
地獄のような一言を残し、ミシェルは歩き始める。アレンたちは遅れないようにその後についていく。
「さて始まりは2人の大きな運命を背負った子供が生まれたときから・・・・」
2人の子供がその場に現われる。ミシェルは彼らの肩に手をおく。
「瑚乙冬乃総元帥、そして彼女の恋人で僕の血縁でもあるソルディア・ブランド・・・・"裁定者"が生まれました」
「裁定者?」
「冬乃様から聞きませんでしたか?エクソシストの力量を見極め、力をつけさせる。そして不老不死」
小さな2人が団服を着た。
「彼らもまたエクソシストでした。冬乃様は"四刃"、ソルディアは"闇の調べ"というヴァイオリン形のイノセンス」
の脳裏に一瞬の姿が浮かんで消えた。
「出会いは教団でした。同じ運命を持った二人・・・・・ただ残酷な運命があることを除けば、2人は幸せでした」
「残酷な運命?」
「・・・裁定者は一人だけ。つまりどちらかが死ぬ、ということです。本当の運命は、冬乃様が死んでソルディアが生き残るはずでした。でも・・・・・・彼は死ぬことを選んだ」
ソルディアの体が粒子となって消える。ミシェルは名残惜しそうに粒子の最後のカケラまで見送る。
幼い冬乃がソルディアの粒子を見て泣き叫んでいる。ミシェルはそっと彼女に触れた。
「では途中過程を見て見ましょうか」
暗闇だけだった周りが変わる。そこには今と変わらない黒の教団があった。
誰かの笑い声がする。
「ソルド、遅いよっ!」
「冬乃がはやいんだって」
「2人とも待ってよぉ!」
の体が硬直した。この声は・・・・・・しかし何故・・・・・・
の前を小さな影が走り抜けていく。最後の少女には見覚えがあった。
アリサ・ミューシカ・・・・・
アリサは前を走っていく影を追っている。
「冬乃ぉ!きゃっ!」
「あっ!」
アリサがこけ、2人が戻ってくる。心配そうな顔をしているのは冬乃だ。その隣に、しゃがんだのはソルディア。布を取り出すとアリサのすりむけた膝の血をぬぐっていった。
「ありがと」
「大丈夫?」
「うん」
「冬乃もはやすぎ。少しはアリサのことも考えろって」
コツン、とソルドに頭を叩かれ、冬乃は頬を膨らませた。
ミシェルはほほえましそうにその様子を見ている。
「彼らはこの時を幸せに過ごしていました。アリサを除く2人は大人顔負けの力でアクマを破壊してますしね」
「アリサはどうなんだ?」
はそう聞いていた。
「もう一人の子ですね?ノアの一族の・・・・」
「ノア・・・・だって?」
「ノアといっても彼女はまだ自分の力を知りませんでしたから・・・・・・・でも後に知っていくことになります。さて・・・・・彼女の名はアリサ・ミューシカ、探索部隊見習いで科学班の手伝いもしてました」
アリサは探索部隊の服を着る。
「そうそう・・・教団の再設立・・・・・冬乃様とソルディアで決めたって知ってました?」
「冬乃から聞いた・・・」
「裁定者はヴァチカンの中でも高位になります。ですから有無言わさずに決定させましたよ。自分達がエクソシストとなって戦うために」
「だからアリサはどうして自分がノアだと知ったんだ!」
「まぁ慌てずに。そこもきちんと見ていきますよ」
ミシェルはをたしなめる。
「そうですね。彼女が自分のことを知ったのは、ソルディアが冬乃様に想いを伝えたときです」
教団の外に置かれたベンチのところで・・・冬乃とソルディアはむかいあっていた。先程よりも少し成長していた。
冬乃は驚きに染まった顔をしている。
「嘘・・・・」
「嘘じゃない。本当だ」
「でも・・・・・」
「冬乃はオレのことが嫌いか?」
「ううん・・・・・・好きよ」
「一人の男として?」
「・・・・・・うん」
「ならなんでためらう?」
「アリサはあなたのことが好きなのよ」
「オレはお前が好きなんだ。ずっと・・・・・・・」
ソルディアは冬乃の頬に手をかける。ミシェルが指を鳴らすと映像は掻き消えた。
「さて、恋人たちの仲をお邪魔せず、僕らはこちらを見ましょうか」
続いて現われたのは木の影に隠れるようにして立つアリサ。
彼女はソルディアと冬乃を見ている。
「アリサという人はソルディアさんのことが好きだと・・・・・」
「もしかして失恋のショックで?」
「・・・・・リナリーは頭がいいですね」
アリサはうずくまり、膝に顔をうずめた。泣いているのだ。そんなアリサの周辺の木々が凍り付いていく。
心なしか肌寒くなってきた。はミシェルのほうを見る。
「これが・・・・アリサのノアとしての能力なのか?」
「えぇ。"フリーズ"の能力です。彼女の感情に反応します。それはもうぴったりに」
木々は凍ると同時に枯れていく。
「許さない・・・・・冬乃・・・・・・」
アリサの目には憎しみが宿っていた。その強い憎しみに射すくめられたの背筋があわ立つ。
景色が真っ暗になった。皆いぶかしげにミシェルを見る。ミシェルは胸に手をあて、苦しげに息をしていた。
「ごめんなさい・・・・結構夢を見せるのには体力と精神力が必要なんで・・・」
「大丈夫?」
リナリーが心配そうにミシェルに歩み寄った。ミシェルは微笑む。
「大丈夫です。もう最後ですから・・・・・」
「本当?」
「はい。終わったらすぐに休みますよ」
ミシェルが手を振ると、炎が燃え盛る景色が映った。ドクンとの心臓が大きく波打った。この景色には見覚えがある・・・・が瀕死の状態で見つかったあのときの景色。
「アリサッ!」
「愚かね、冬乃・・・・・・・恋する人の目の前で殺されていくのはどんな気持ち?」
冬乃は木に氷でつなぎとめられていた。冬乃の前にアリサが立つ。褐色の肌をし、額に逆さ十字の模様がある。彼女は手に氷の剣を持っていた。それをゆっくりとあげていく。アリサの背後で音がした。アリサは振り向く。
「ソルディアッ!!」
「私の牢を破るなんて!!」
ソルディアがあちこちから血を滲み出させながら、立っていた。彼の手にはヴァイオリンがあった。
の瞳が少しだけ開かれる。
「冬乃を放せ・・・お前の目的はオレだろう」
「でもね、冬乃を殺さないとあなたは私になびかないじゃない」
「冬乃を殺すなら俺も死ぬ。オレは冬乃だけを愛しているんだ。お前になびくわけがない」
「そう・・・・・・残念ね、ソルディア」
「その名を呼んでいいのは冬乃だけだ」
「・・・・・・あなたを手に入れるためならどんなことでもするわ」
氷の剣が冬乃の心臓へ落ちた。絶叫、そして静寂、また絶叫。
冬乃は己の顔に落ちた赤い雫に目を奪われた。なんと綺麗な色・・・・・でもそれは・・・・
「ソル・・・ディア」
ソルディアの心臓を氷の剣が貫いていた。満身創痍の体でソルディアは恋人をその身を盾にして守ったのだ。
ソルディアが倒れる。アリサの動揺で冬乃をつなぎとめていた氷が消えた。冬乃はソルディアの体を抱きしめる。
「ソルディアッ!!死なないで!!」
「冬・・乃」
「ソルディア・・・・・」
「・・・・オレは・・・だめだ」
「えっ・・・・」
ソルディアは血に染まった手を冬乃へ伸ばす。冬乃の頬に涙が伝っていた。血に濡れた手で涙を拭き取った。
「オレはもう・・・・・死ぬ」
「嘘・・・・・だって私が死ぬはずじゃ・・・・」
「お前が死んだら俺も死ぬ・・・・」
「なら私だって・・・・・」
「お前は死ぬな・・・・・・生きろ」
「無理だよ・・・ソルディアがいなくっちゃ・・・・・」
「なら約束を・・・・・・百年後、オレは必ず生まれ変わる・・・・・・そしてお前のそばに」
「やだやだ・・・・・・その人はソルディアじゃない」
ソルディアは軽く笑った。冬乃は服に血がつくのもかまわず、ソルディアの体に抱きついた。
「一緒だって・・・・・ずっと一緒だって言ったじゃない」
「裁定者はどちらか片方なんだ・・・・・・・裁定者にならなかったものは死ぬ・・・・オレは神に選ばれなかったんだ。だから・・・・」
「やだ・・・・・私はソルディアじゃなきゃ・・・・・ソルディアがいなきゃやだ・・・・」
「冬乃・・・・・愛してる・・・・・生まれ変わっても・・・・・」
「やだぁっ!!」
ソルディアの瞳が落ちた。冬乃は必死に体を揺さぶるが瞳は開かない。
冬乃の絶叫が響き渡る。胸を締め付けられそうになるほど、それは悲痛な響きを伴っていた。
冬乃の右腕が光りだす。見ると四つの腕輪が光っていた。そしてソルディアの血に染まった胸元でも光が発していた。二つの光はそれぞれ呼応するかのように輝く。
「いやぁぁぁぁっ!」
ソルディアの胸元にあったペンダントが冬乃の胸元にかかる。
冬乃の周囲では風が起こり、空では雷鳴がとどろいていた。
アリサは後ずさる。冬乃は涙に濡れた瞳でアリサをにらみつけた。
「許さない・・・・・・あなたを・・・・・・あなたを信じていたのに!!」
炎の龍がアリサにむかっていく。アリサは靄となって姿を消した。龍は消え、風も雷もやんでいた。
雨が降り始める。雨は冬乃とソルディアの体をぬらしていった。
「・・・・・・ひどいよ・・・・・一人だけなんて・・・・・一人にしないでよ・・・・ねぇソルディア・・・」
ソルディアの体に顔をうずめた冬乃の姿が消える。
「こういうことです。冬乃様がアリサを憎むのは」
ミシェルはにむかって言った。は半ば呆然としていた。
リナリーが心配そうに声をかける。
「さん・・・・・?」
「ヴァイオリンのイノセンスだと・・・・・・?」
「あっ・・・・そういえばのイノセンスもヴァイオリンでしたね」
「そうさ」
「いいところに気がつきましたね・・・・・・・」
ミシェルは微笑んだ。は聞きたくないことを聞くような気がしていた。
「はソルディアの生まれ変わりです」
の目の前が真っ暗になった。誰かが体を支えているのがわかる。
「冬乃様からの伝言です。"彼はという人間。ソルディアではないから愛することはないわ。だから心配しなくていいわよ"だそうです。それでは皆さん、今宵のことは口外無用ですからね。おやすみなさい」
ミシェルの姿がぼやける。やがて完全な暗闇になった。
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