「コムイッ!」
「ふ・・・・・冬乃ちゃん?」

コムイは怒りの形相で部屋に入ってきた冬乃にビクリと体をすくませた。
周辺にいた科学班も避けている。

「なんで、クロスが戻ってきているのっ?!聞いてないわよっ」
「だって話すなって本人が言ったし」
「あ〜〜もうっ!作戦練り直しだわっ!大元帥の間に行ってくるっ!」

冬乃は不機嫌さを隠そうともせずに部屋を出て行った。大元帥の間についた冬乃は髪をほどく。

「大元帥、話があるわ」

五つの影が浮かぶ。

「・・・・・・・クロスが戻ってきた。それと"破壊者"・・・・あれは本物ね」
"だが冬乃・・・・・殺すつもりなのか"
「今は殺さないわよ。まだ世界の崩壊は始まってはいないわ。でもノアが動き出せば、私たちも動くわよ」
"その時はどうするのだ?"
「ん?別に。まだ正体はわかってないでしょ。あなたたちとヴァチカンの上層部以外は」
"教えるのか?"
「そのうち・・・・・ね」

冬乃は小さく溜息をつく。

「騙しているのは心痛むけどね」
「冬・・・・・・乃」
「うん?なぁに」
「アリ・・・サの・・・・こと・・・・・・は?」
「・・・・・・だめ。まだ顔見ると怒りが抑えられない。自分になのか、になのか・・・・・・でも彼が悪くないってことわかってはいるのに・・・・・・」
「・・・ま・・・・・だ気に・・・・している・・・・・のだな」
「うん・・・・・」

冬乃は小さく自嘲気味に笑った。泣きそうな顔をしている。

「私の地位も微妙よね・・・・・てか憎まれ役?」
「そんな・・・・・ことない・・・・・・冬・・・・乃は・・・・・大事な・・・・・仲間だ」
「ヘブラスカ・・・・・・ありがと」

冬乃は親友にむかってニッコリと笑った。ヘブラスカは思い出したように付け足す。

「今度・・・・・・ヴァチカンの聖職者が・・・・・ここに・・・・くるらしい」

ぴしっ、という音をたてて冬乃は固まった。ギシギシと音を立てて首はヘブラスカにむく。

「どういうこと?」
「・・・・・・監察・・・・・・・・らしい」
「必要ないじゃんっ!」
「・・・・・・・・・・」
「あ〜〜まずいなこりゃ・・・・・・元帥も全員戻ってきそうだし・・・・・・・あれ以外は」
「戻って・・・・くる?」
「あの放浪癖を持つ元帥が嫌がらずに戻ってきたのよ?コレは元帥が戻ってくる予兆だわ」

冬乃は断言できる。あいつはいつだってそうだ。放浪癖は強く、他の元帥のように居場所も特定できない。さらにアレンに聞く限りではツケで生活しているらしい。ふざけんな、だ。

「とりあえず正体ばれちゃまずいわよね・・・・・・・さすがに」
「どうする?」
「頑張るよ。なんとか無事に訪問を終わらせる」

そしてそれから一週間後のこと
ヴァチカンから監察官がやってきた。
このとき既に元帥はほとんどが帰還していた。エクソシストも任務を終わらせ、全員が教団本部にいる。

「じゃぁ紹介させてもらうね。ヴァチカンの監察官の方で・・・・・」
「シスター・ノエルです。彼は私の相方のブラザー・レオン。宜しくお願いしますね」
「・・・・・・・早速で悪いが、総元帥はどこにいる?」
「総元帥?」

コムイの首がかしいだ。レオンはうなづく。エクソシストたちは互いに顔を見合わせていた。

「不在なのか?」
「そんなことはないはずです。総元帥のいらっしゃるときにわざわざきたんですから」
「でも僕たちは総元帥なんて知らない・・・・・」
「そんなはずはない。あの方にもお前達は会っているはずだ」
「知ってる?」

コムイの言葉に皆いっせいに首を振る。

「だそうですが・・・・えっと名前とか容姿とかは」
「名前も容姿も不明です。私たちの前に出てくることはほとんどありません。また枢機卿の前に姿を見せるときには必ずベールのむこう、しかも声を変えていますから・・・・・」
「意味ないですよ・・・・・」
「女で髪が長い。そして元帥の師匠。イノセンスの名は・・・・・・四刃フォースブレード

みんなの目は冬乃にむいた。冬乃のほうは怯えることもなく、真っ直ぐに2人の聖職者を見ている。

「何か、私に用?」
「総元帥様とお見受けいたします。実はご報告が・・・・・・」
「あとで受けるわ。とりあえず視察だけよろしく」
「はい」

レオンとノエルは教団を回るために部屋から出て行った。
冬乃は周りのエクソシストを見た。

「何か文句でもある?」
「ないけど・・・・・・でもなんで冬乃ちゃんが」
「簡単よ。私が教団の設立者だから」

その言葉に皆が絶句する。教団が設立されたのは千年伯爵が出てきたから。千年伯爵が出てきたのは百年も前のことだ。
普通の人間の寿命は80年。百年生きたとしても、いい年したお婆さんだ・・・・・・百年経っても若々しいままなんて・・・・不老不死以外に・・・・・・・・・

「もしかして君は・・・・・・」
「鈍いわね。そう、不老不死よ」

冬乃は開き直ったように言った。正体ばれてもいいか、という感じだ。

「仕方ないでしょ。"裁定者"はどうしてもその能力ゆえに最高地位に上がらなきゃならないんだから」
「でもまたなんで・・・・どうして総元帥だって言わなかったの?」
「言ったらみんなと普通に話せないでしょ。面白くないじゃない」
「冬乃・・・・・・」

冬乃は結っていた髪をほどいた。サラリと長い黒髪が背中にかかる。
緋色の瞳は悲しみを、翡翠の瞳は憂いを宿していた。

「永遠のときを生きる私にとって今という時間はすごく大切なのよ。わかるかな・・・・・・」
「・・・・・・・・」
「私の存在意味は皆が思っているものほど大きくはないわ。逆にとても小さいのよ。裁定者としても、総元帥としても・・・・・ただあがめられるだけで・・いいことなんかありゃしないわ」
「なら何故なった?」
「裁定者の能力はエクソシストの判別には不可欠。でもその肝心の裁定者が教団にいなくちゃ確かめられないでしょ。
だから教団の中から指示をする総元帥が必要だったの。いわばただの鎖よ。私をしばりつけておくためのね」

もしかしたら特別な地位に立つことによって自分は自分の中の怒りを抑えたかったのかも・・・
冬乃は頭の隅でチラリとそんなことを思った。
が、すぐに頭をふって考えを追い払う。まだ許してはいない。あの2人のことは・・・

「とりあえず、皆は部屋で待機していて。おって連絡するわ」

冬乃の言葉はそれぞれが動いたが、だけは動かなかった。
冬乃はいぶかしげな目でを睨んだ。

「聞こえなかったの?部屋で待機よ」
「・・・・・・アリサ・ミューシカ・・・彼女を知っていますね」
「知っているわよ。私が総元帥だってこと知っている数少ない人間のうちの一人だったもの」
「危険です・・・・・彼女がノアの一人ということを知ってのことですか」
「あなたたちもでしょう?」
「違います。僕はただノアの情報を手に入れるためにアリサに近づいただけです。は違うと思いますけど・・・・」
「・・・ノアの一人だと知っていても私の大事な友人だもの・・・・・・・」
「・・・・疑いたくなかったんですね・・・・・・・・」
「ふん」

冬乃は軽く鼻であしらうように笑った。

「バカな奴・・・・あなたも私もバカだったのよ。天使面した悪魔に騙されるなんてね」
「確かにアリサは悪魔だったかもしれません。でもにとっては違った。彼の前ではそんなことを言わないで貰いたい」
「考えておいてあげるわ」

冬乃はそう言って大元帥の間へと向かった。は小さく溜息をつく。
あの元帥はノアを嫌っている。そのことが話していてよくわかった。言葉の端々から恨みが滲み出してきているようだ。
何かあったのだろうか・・・・・まぁあまり自分は関与しないほうがよさそうだが。

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