「・・・・・・・・・・・・・」
「どうした、。飲まぬのか」
「とりあえずは酒に弱いので」
「そうか、それは残念だ」

は狭霧丸で切りかかりたいのを必死で堪えた。何せ相手は高天原の神、月読命、その人なのだから(人なのか?!)
話は約一時半ほど前にさかのぼる。出仕から戻ってきたは軽く昌浩の相手をして、十二神将の太裳に弓を教えてもらって、陰陽術の勉強に励んでいた。
そしてそろそろ寝ようと夜着に着替えていた時のことである。
もちろん二匹の式は遊びに行かせている。

「ほぉ・・・・・年の割には成長しているのだな」

直ぐに間近で聞こえた声には飛び上がった。慌てて胸元を隠し、後ろを振り返る。
そこには美しい銀の髪を持った青年がいた。今は比較的神気は抑えられているが、解放すれば凄まじいものになる。

「いいいいい、いつからいたんですか!!」
「いや、先ほどから」
「先ほどっていつ!!」
「ちょうどが着物をぬぎはじめ「ふざけないでください!!」」

ということは全裸を見られた?!!とは青ざめる。
当の本人はクスクスと笑っているのである。

「やはり食べてしまいたいほどに美しいな、は」

ぞくぞくとしたものが背を駆け上る。はさっさと夜着に着替えるとそのまま褥に横たわろうとした。

、そのまま寝たら私はきっと君を襲うよ」
「神がそんなことをしていいんですか」
「まぁいいから」
「・・・・・・・・・・はぁっ、であなたは何をしに着たんですか」

その問いで月読ははっとする。手の中の酒を見てを見て笑った。

「一緒に酒を飲まないか」
「あいにく私は酒には弱いので、呑まない様にしているのですが・・・・・?」
「・・・・・・・まぁ行こう」
「結局連れて行く・・・・きゃぁっ!」

は夜着姿のまま月読に抱き寄せられ、そして空へと上がっていく。
恐る恐る閉じていた目をあければ、遥か眼下に京の都が見えた。は仰天する。

「美しい眺めだろう?」
「いや、美しい眺め以前になんで私は浮いているのでしょうか」
「私の力でよ。ほらこの景色を呑みながら語り合おうじゃないか」
「何を語れって言うんですか」
「さぁね」
「それよりもあなた、仕事はいいんですか・・・・・」
「うん。今日は新月だからね」
「・・・・・・・・・・」

は月読を見て呆れたような溜息をついた。
呆れた。これではあとで(高於に)怒られるのは私ではないか。

「月読様・・・・・・」
「月読または月読の君。あぁでも後者は美しい着物姿のときに言ってもらいたいな」

の我慢の限度が吹っ切れた。
ピィーッと高い指笛の音を夜空に響かせる。
ぶわっという風が巻き起こり、月読との前に二人の神が姿を見せた。月読は嬉しそうに微笑む。

「翡乃斗に螢斗じゃないか。どうだ、一緒に飲まないか?」
「月読・・・・・・・確か我らが主は寝ようとしていたはずだが・・・・・・・・・?」
"何故夜着姿でここにお前といる?"
「私が連れてきたからに決まっているじゃないか」
「お前仕事「新月だからいいのだよ」・・・・・・・・・はぁ」

の式神二人は呆れたように溜息をついた。
螢斗がへと手を差し伸べてくる。しかし月読がその手を払い除けた。
えっという顔をして二人の神は月読を見る。

「だめだ。今宵はと一晩中いられる大事な日なんだからな。むざむざ捕まえた兎を逃がしはしまい?」
「そうなんですけど・・・・・・・時には逃がしてください」
「やだ」

の反論は即却下された。子供かこいつは!と三人は思った。
は軽く溜息をつく。

「わかりました・・・・・・じゃぁ少しだけですよ?」
「もちろん」
「翡乃斗、螢斗、大丈夫だから先に邸に戻ってて」
「・・・・・・・・わかった。月読がいるから問題ないとは思うが・・・気をつけろよ」
「うん」

翡乃斗と螢斗は姿を消した。空中に月読とだけが取り残される。
は溜息をついた。月読は小さく笑うとを抱き寄せた。

「月読様?」
「月読、と呼んでくれてかまわない。というかそちらのほうが私としてもすっきりする」
「仮にも高天原の統治神じゃない」
「仮にもって・・・・・それでも私はそちらのほうがいい」

は困ったような顔をしたが、意を決して月読を見た。

「つ・・・月読」
「うん?」

最高の笑顔にはぞくぞくとしたものが背筋を駆け下りるのを感じた。

?」

月読が怪訝そうにの顔を覗き込んだ。チラリとだけ見えた耳は真っ赤になっていた。

「・・・・やはり私はが好きだ」

ちゅっと音を立てての首筋に唇を落とす。

「んっ・・・・」

はビクンッとして身体を縮めた。

「可愛い・・・・・」
「やっ・・・・ちょっと月読?!やめ・・・・・・んぁ」

額、目、頬、顎、耳、首筋・・・・と唇を落としていく。そのたびには必死で声をあげまいとしていた。

「声をあげてもかまわない。ここには私と紫しかいないのだから」
「それがいや・・・・・・・・っ」

スッと首筋に手を這わせれば、はギュっと目をつぶる。
月読も自らの理性が崩れかけていることを知っていた。

「愛してる・・・・・・、君の事を・・・・・・」
「いや・・・・・月読、やめて・・・・・・」
「手に入れたい・・・・・どんなことをしても」
「ば・・・・・・・・ばかぁっ!!

が月読の身体を押したその瞬間だった。ちょうど月読が腕の力を緩めていたためにの身体が宙に浮く。

「えっ・・・・・・」
っ!」
いやぁぁぁぁぁぁっ!!!

の悲鳴が長く尾を引く。月読が瞬時にの身体を受け止める。
はぐったりとしていた。

っ」

の頬を叩いて、気がつかせる。は涙を目に浮かべながら月読を睨んだ。

「馬鹿・・・・・」
「・・・・・・・すまない」

は月読に抱きついて、肩を震わせた。怖かったのだ。
月読はを強く抱きしめたまま、どこぞの貴族の邸へ降り立った。

「大丈夫か?」
「怖かった・・・」
「すまない」
「でも・・・・・・月読がいてよかった」
「えっ//////」

はぷぃっとそっぽをむいた。

「ありがと・・・・・・」
・・・・・」

月読はを抱きこんだ。
は真っ赤になって月読から身体を離そうとする。

「・・・・やはり私はが好きだ」
「・・・・・・・・あぁもうっ・・・・・・神様と人が恋しあっちゃいけないでしょう・・・・・・・」
「・・・・じゃぁ、私のことを好きになるかもしれないということを考えていいのかな?」
「好きにしてちょうだい・・・・・」

は溜息をついた。
そのあと、日が昇るころになってやっとは解放された。安倍家の邸まで送ってもらって月読は満足げな顔をした。
は捨て犬を拾ったみたいだなと思った。

・・・・・・これからはしばらく間を空けるよ」
「何々?どういう心境の変化なわけ?」
「・・・・・・・兄上に怒られたんだ。あの人間の子供に関与するなと」
「えっ・・・・・」
「寂しがることはないぞ。兄上の目をすり抜けてくるから」
「はいはい・・・・・気をつけてね」

は溜息をつきながら言う。月読は嬉しそうにうなずくと姿を消した。
はそのままばたんと褥に倒れこむ。翡乃斗と螢斗が軽く溜息をついたのは知らないままに。

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