の式神である翡乃斗と螢斗は晴明の気配を感じ取り顔をあげた。は今出仕しているところだ。

「なんのようだ?」
"晴明、陰陽頭ともあろうお前が出仕しなくてどうする"
「ほっほっほ、神将にも言われたわい。が、がいない今、聞かなければこんどいつ聞けるかわかりはせんからな」
「・・・・・・・」

二匹は晴明から不穏なものを感じ取って身構えた。晴明は手に持っていた扇を一閃させる。
二匹の体が身動き取れなくなる。

「貴様・・・・」
「少しばかり昔語りをしてもらいたい。小野家が何故滅んだのか、というな・・・・・それからが生まれてからすべてのことを話してもらいたい」

スッと翡乃斗の瞳が細められた。

「お前には関係ないだろう」
「ほぉ・・・・・・今、お前たちの主であるが居候しているのはどこの邸だ?そしてお前たちの主の上司は」
「・・・・・・この狸が」
"・・・・・・・晴明、聞いてどうする。既に滅んだ一族のこと。お前には関係ないだろう?"
「だが気になる。近頃の近辺にまとわりつく神気に関しても」
「あぁ、あれはお前たちに害をなすことはないだろうから安心しろ」
「しかしは・・・・・・」
「問題なかろう」

二匹の式は何があったのか主からちゃんと聞いていた。すごく迷惑そうに話していた。
ふと二匹は顔を見合わせる。そういえばちゃんと説明もしていなかったと。まぁ世話になるからには仕方ないのだろう。

「・・・・・・・わかった。すべてを話そう」


すべては九年前、が誕生した時からはじまった。
小野家当主である小野風深、橘家当主の橘麗華のあいだに生まれたただ一人の子だった。
親譲りの強い霊力のせいか、幼い頃から悪しきものによく狙われていた。
母、風深は友人である高於に頼み込んで光と闇の神を彼女の式とした。
二匹は不承不承ながらうけた話だったが、の魂の光を見てその役目を受けた。
風深は先読みの力も持っていた。その力を貧しいものが暮らすためによく使っていたが、そのせいで少しずつ彼女の命は削り取られていった。
麗華は妻があとわずかで死ぬことを悟った。
風深は麗華に自らを殺してくれ、と頼み込んだ。自分が死ぬ直前、きっと霊力の暴発がある。
それを受けたら小野と橘の邸は崩れ去り、幼い子も死んでしまう。
だから人気のないところで自分の首をはねてくれと。
麗華は愛する妻のため、彼女を殺すことを決意した。家にと家人たちを残し、彼と風深は人気のない場所へとやって来た。そこで彼は妻の首をはねた。
妻の体を抱きしめながら麗華は悲しみに心を引き裂かれそうになった。
風深を埋葬したのち、彼は自室で自らも死んだ。小野家で残ったのは幼子であるだけだった。
は両親が死んだのち、少しずつ衰えて行った。五つになっていた彼女は枕元で心配そうに彼女を見つめる二人の式に笑いかけたのだ。


「大丈夫、死なないよ・・・・・」


が、言葉とは裏腹に彼女は少しずつ弱っていき、そして本当に死んでしまうかと想われたあるとき・・・・・・・

っ!」

そこに姿を見せたのは彼女が仕える冥王族の王太子と先祖である篁であった。彼らは月読命の要請により、の命を救うために来たのだ。

「まずいな・・・・霊力が体の中で暴走している」
「何か別の器に入れないと・・・・・・」

二人は顔を見合わせ、そして小野家の神器、「狭霧丸」へと目を向けた。
と上手く同調しているそれならば彼女の霊力を抑えることができると思ったのだ。
彼らはすぐさま狭霧丸に彼女の霊力を移した。それと同時に少しずつの体調は持ち直していった。

「翡乃斗、螢斗、家人たちには全員暇を与えた。今いる家人は月読殿の配下だ」
「何故月読がに手を出す。高天神は人間には手を出さないはずだろう?」
「・・・・・・月読殿はに魅かれている。彼女の魂の輝きに」
「なっ・・・・・・」

二人は絶句した。ありえない。神が人間に惹かれるなどと・・・・・・
篁及び燎流も溜息をついた。

「そうなんだ・・何故か惹かれている」
「まぁお前たちも例外ではないだろう?ちなみにこれも」
「・・・・・・・・・・・我らはともかく何故燎流までが?」
「・・・・・・が生まれる前、境の川にきていた人間の子を拾って育てた。ちなみに今の妻となっている」

螢斗と翡乃斗は呆れたように燎流を見た。
燎流は照れたように笑う。何もいえない。

「・・・・・・・・・さてこれでもうは大丈夫だろう。だが・・・・・・」
"あぁ。小野家の血を引くのはだけになってしまったな"
「なんとしてでも守らなければ・・・・・・」

大事な・・・・・我らの大事な主を。
忠誠を誓ったただ一人の人間。その穢れなき魂を守るためになら、彼ら二人は何をしたっていい。
そう・・・・・・だって愛しているから。


「以上だ。小野家はを除いてあとは死んだ。親戚も病死やらなにやらでとっくの昔に冥府へ行っている。残っていたのは風深と麗華だけだったからな」
「そうか・・・・・・・・・・ふむ、に付きまとう神気は月読命神の・・・・・」
「それに関しては問題あるまい。何もしないさ」
"うむ。の傷を治していたりするだけだからな"
「いいのか、それで」

晴明の言葉に二匹の式は笑った。

「別に。月読がの心を奪えるとは思っていないからな」
"そう。アレの心は強固だからな。心配はいらんだろう"

何故か自信満々な二人に晴明は苦笑を漏らした。

「そうか、すまんかったの。では」
「こらまて・・・・・・金縛りを解いてから行け」
「はて、なんのことかの」
"おい、こら!!晴明!!待て〜〜ぇ!!"

晴明はほけほけと笑いながら部屋を出て行く。螢斗たちにかけた金縛りもそのままに。
結局二人はが帰ってくるまでその場から動くことも出来なかった。
ちなみには大きな溜息をついたという。

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