が貴船に行ったときのことである。
貴船の龍神とはの両親のときから仲が良かった。(ちなみに篁は毛嫌いしていたという)
「高於、いる?」
その名を呼ぶことを許されたは貴船の最奥に位置する大岩のところで呼んだ。
すぐに神気が舞い降りて、の前に美しい姿の神が現れた。
「久し振りだな、」
「こっちこそ。元気そうで何よりだよ、高於」
「お前もな」
高於―貴船の龍神、高淤加美神―はを近寄らせた。
は高於のそばへと近づく。
「ちょうどよかった。お前に会わせたいやつがいたんだ。だから近々呼ぼうと思っていたところだ」
「・・・・・・・・・へぇ。誰?」
「まぁそう慌てるな。すぐに会える」
高於は後ろを振り向いた。もその視線の先を追い、そして眼を見開いた。
強大な神気とともに銀色のヒカリがあたりを照らし出したのだ。は思わず、腕で目をかばう。
「月読、が困るぞ」
「あぁすまない。久し振りだったもので、つい、な」
「つい、でお前は愛しい者を危うく殺しかけているんだぞ」
はぎょっとした。今彼女はなんと言った?月読と言わなかっただろうか。
月読と言えば、高天原の二大統治神の一人ではないか。何故そんな高貴な神がここにきているのだ。
「、何を呆けているんだ。こいつがお前に会わせたいやつだぞ」
「・・・・・・・・・・・・はい?」
「月読命、十年前、お前の力が暴走したさい、冥府にかけあってお前の命を長引かせたやつだ」
「はい?」
「・・・・・・・・・月読、自分の口から話さないとわからないようだぞ」
「はじめて会うね、私の名は月読命・・・・・小野、お前の守護神だ」
は唖然として高於を見た。知らん顔をされた。
仕方なしには月読を見た。
「あの・・・・・・私とはどういう関係なんですか?」
「君の母上の代から知っているよ。君の母上はどうやら君が命を狙われるということを知っていたようでね、高於を通して私に頼んできた。娘を守ってくれるのなら、自分の命はいらないから、と」
「母が・・・・・?」
「そう。まさか、君の命が母上が亡くなったあと、急激に命の力がしぼむとは思わなかったけれど」
「・・・・・・母の死を知っているのですか・・・・・・」
は月読にしがみついた。
「母は・・・・母はどうして死んだのですか!!」
「・・・・・・・・・・君の父上に殺された。そして父上も自害した」
「えっ?」
の目の前が暗くなった。
「唯一君だけを助けることができた。家人たちにもすべて暇を出したあと、君を家に戻した。君は何も覚えてはいないだろうが・・・・・・」
「嘘・・・・・・・なんで・・・・・・なんで母は殺されなければいけなかったんですが・・・・・」
「それは彼女は先読みの力を持っていた巫女だったから・・・・・・」
「・・・・・・・・・・」
「先読みができるということはそれだけ狙われやすくなる。君の母上は父上に頼んだんだ。自分を殺してくれと。妻を愛していた男はその願いをかなえ、そして自らも命を絶って妻のあとを追った」
「月読、それは殺されたとは言わないと思うが?」
「ああそうだね」
月読はへらりとして言った。はその場にへたりこむ。
幼い頃見ていた家人たちからは両親は不慮の事故で死んだのだ、と聞かされた。だが、家人たちに暇を出したと月読は言った。では今まで自分が見てきた家人たちは何者なのだろうか。
そんなの疑問を感じ取ったのか、月読が静かに言った。
「小野家の家人たちは私の僕たちだ」
「なんであなたは私を助けたのですか」
「そうだな・・・・・・・・はじめてみたとき、君の魂の洗練された美しさに心奪われてしまった」
は呆然としたまま高於を見る。高於は軽く溜息をついて首を振っただけだった。
「君を守らせて欲しい」
「月読、そいつは既に二人の神を式としているが?」
「・・・・・・・・それでも私は君を守りたい」
「・・・・・・・・月読様にこんなこと言うのもあれなんですけど、私は守られるつもりはありません」
はきっぱりと言い切った。高於が面白そうに目をすがめる。
「私は守られるよりも守るほうが性にあっているんです。ですから、守りたいのならば勝手にしてください。でも私の宿星に手は出さないでください」
「君はそれでかまわないというのか?」
「はい。私は私の力でなんとかできます」
「・・・・・・・・・・」
「月読、は自分でこうと決めたことはてこでも動かそうとしないぞ」
「らしいね。では、私は私の勝手で君を守ろう。それでかまわないか?」
「はい」
は笑顔でうなずいた。月読も満足そうな顔をしている。
その日はそれで終わった。が、時々小野家の邸にが戻っていると月読がやってくるようになったのだ。
しかも訪問は突然でもびびる。
「高於・・・・・・」
「私に何とかしてくれといわれても困る。第一神に愛されているのだからいいではないか。それに・・・・・・お前の星宿もさだまりはじめてきたぞ」
「月読に会ったことで?」
「まぁそうなるかな。感謝すべきことだろう?」
「少し迷惑だけどね・・・・・・・」
そうはいっても本当は少しずつ好きになっていた。あの銀色に輝く彼のことが・・・・・・・・
高於は己と葛藤するを面白そうに見つめていた。それからしばらく、は心臓がとまりそうになることが何度もあったとさ。
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