「、元気そうだな」
「あ〜篁・・・・・どうかした?」
褥に仰向けになっていたは聞きなれた声に上をむいた。逆様の篁の顔があった。
なんだかむかつくぐらいに余裕の表情をしている。
ちょっとだけむっときたは、えいっと篁の足に頭を振り落とした。が、それを読んでいた篁がひょいっと足を引き、見事には頭を畳にぶつけた。
「はぅっ・・・・」
「ふんっ、お前、バカじゃないのか」
「あんたの毒舌、むかつく。ちょっと口縫っていい?」
「やれるもんならやってみるんだな」
篁に気がついた螢斗が何をやっているんだこの二人は、という目で見ていた。
はそれに気がつくと頬を膨らませた。
「別にたいしたことないよ」
"それは知っている"
「だったらそんな疑問を目の中に入れて私を見ないで」
"わかった"
「逆にそう率直に言われても頭にくるな」
じゃぁどうすればいいんだ、と螢斗は思った。理不尽な主だ。
"そういえば篁は何をしにきたんだ?"
「あぁ、の呪いの様子を見に来た」
「あぁうん、わかった」
は右腕をはだけさせる。そこには醜く紅く引き連れた傷があった。
篁はそれに触れると、少しだけ悲しそうに顔を曇らせた。
「篁?」
「悪かった・・・・俺がお前に狭霧丸を渡さなければ・・・・・」
「別に後悔なんてしてないよ。これが私の宿命なんだから」
篁はの右腕に口付けた。は驚いて篁を凝視した。螢斗も唖然として篁を見た。
「俺は・・・お前を守りたいのに・・・・・・」
「たか・・・・・むら?」
「お前の両親を守ってやれなかった・・・・あの時、お前は・・・・・」
「・・・・・・・篁、私、後悔なんかしてないよ」
篁が顔をあげるとは小さく笑っていた。
「母さん達が死んだのは私のせいだから。あの時私の霊力が暴走して、それを止めようとしたから母さんたちは・・・・・それに篁は私を守ってくれたでしょう?」
篁はを見る。
「あのあと、私は死に掛けた。篁と燎流がきてくれなかったら私は・・・・・・・篁が私の霊力を引き受けてくれたおかげだよ」
「・・・・・・・」
「後悔なんかしてない。これが私の進むべき道だから」
篁はをまぶしそうに見た。螢斗は小さく笑って尻尾を一振りする。
「さてと、修行でもしようかな。篁、手伝って」
「まぁたまにはいいだろう」
祖父と孫はともに安倍家の邸を出て行った。ただ一人残された螢斗は同胞の気配に顔をあげる。
「成長したな」
"そりゃそうだ"
翡乃斗はの歩いて行ったほうをじっと見た。その瞳には親がわが子に対して与えるような愛情ではなく、男と女の中にある愛情が含まれていた。
「楽しみだな、螢斗。これからが」
"あぁ"
螢斗もうなずいた。そしてその瞳にはやはり愛しい者への愛情が込められていたのであった。
そしてそれからしばらくして、の星宿に転機が訪れた。それはの世界にとって、かけがえのないものとなる。
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