「晴明付きの陰陽師・・・・・・どういうこと?」

は朝食の席でたずねた。傍らに座るのは昌浩の兄、昌親、それから成親。
翡乃斗と螢斗は散歩に出ている。

「男装するのならば、それなりに形から入ったほうが良かろうと思ってな。どうじゃ、
「いや、別に反対するつもりはないけど・・・・・・いいの?私なんか貴族の端っこの存在よ?」
「かまいはしない。それにの力も見ておきたかったからの」
「はぁ・・・・・・そういうこと」

はうなずいて、事を承諾した。
「かまわないわ。でも私、何にも手伝えることなんてないかもしれないわよ?」
「妖の調伏はできるな、
「えぇ」
「貴族たちからの悩みを引き受けてくれ。そう、わしの変わりに」
「・・・・・・・・・」

は箸を置いて、晴明を見た。

「わかった。てか、こっちからもお願いするわ。このままただ置いてもらうだけじゃなんとなく嫌な気分だったから」

はその日、晴明とともに出仕した。初めてかぶる烏帽子に戸惑い、そして内裏の広さにとまどった。
晴明はにこやかに言った。

「驚いたかの、
「へっ?」

は首をかしげた。

「何を言うておる。お主の名じゃ。小野は女と知られておる。そうじゃろう?お主が貴族達の頼みを女として聞いていたのじゃから」
「あ〜〜〜」

は今までのことを思い出した。そういえば、妖に狙われていた貴族達を女として助けていたような気がする。
もしかしたらそのせいで求婚の文が届くのか。

「橘。橘の姓を継ぐお主のもう一つの名じゃ」

、とは呟いた。もう一人の自分・・・・・・時たまどうしても必要なときには使用していた埃をかぶった名。
その名前がやっと日の目を浴びることができるのだ。
は嬉しそうに笑って晴明を見上げた。

「ありがとう。嬉しい」

晴明はうむ、とうなずいた。

「さて、仕事じゃが・・・・・」

晴明が仕事の説明をしていく。
、否は一生懸命一言も聞き逃すまいとしていた。
大体の仕事を覚えた梓は早速仕事に取り掛かった。手早く動き、そして必要最小限の動きを心得ているの仕事っぷりに晴明は感心した。

「これはいい小間使いができたの」

ほっほっほ、と笑う晴明をは一瞥した。

「晴明、せめて自分の分くらいは自分でしてくれ。どのみち私だけなんだろう?ここにいるのは。
だったらせめて邸のほうでも何らかの仕事はしてくれないと、私が帰れなくなる」

「あぁわかっておる」

晴明はほけほけと笑った。はこいつ、閻羅王太子に似ているな、と思った。
が、それでもは仕事を行う手を止めなかった。晴明も手伝おうと思ったのかの隣に座った。

・・・」
「うん?」
「いい式神をもったの」

突然何を言い出したんだ、このもうろく爺は、と思っただったが、口元に笑みを浮かべると嬉しそうに言った。

「そりゃそうだ。私の頼れる大事な大好きな友人達なんだから」

の笑顔に晴明もにっこりと笑った。

「二度と・・・・・・・離れないって約束したから・・・・・ね」


"っ!!"
"オレ達を置いていくなっ"
"一緒にいてくれると約束しただろう!?"
"お前がいるから、俺たちはここにいられるんだ!!"


手の止まったを晴明はじっと見ていた。

「ずっと・・・・ずっと前に私の中の力が暴走したことがあるの。翡乃斗と螢斗と出会って間もない頃で・・・
死の際をさまよってた私を二人で呼び戻してくれたの」


"ずっと一緒にいようね、翡乃斗、螢斗。大好きだよ"


「ずっと一緒だって、光と闇の神だろうと関係ないよ・・・・・・二人は私の大事な友だもん」


"我らはお前についてゆこう。お前が死せるそのときまで、我らはお前に従いつくさん"
"闇と光はお前の味方。忘れるな、。どんなことがあっても我らだけはお前の味方だということを"


うんわかってるよ。
でもね、本当は従ってもらいたくないんだ。
あなたたちが闇と光を統べる王であっても
例えそれが私の親に頼まれたからだとしても
あなたたちと対等の立場に立てる存在じゃないとしても
永遠の時がないとしても
私は・・・・本当は・・・・・・・







本当は誰よりも愛してるんだよ

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