ぜーはー、とは荒い息を繰り返していた。そばで紀洸が立っている。
息は一つも乱れていない。

「大丈夫ですか?」
「は・・・・・・・・はい、なんとか」
「少し休憩にしましょう。そのほうがよさそうですし」
「すみません・・・・」
「いえ、平気ですよ」

二人はそっと縁に腰掛けた。
紀洸はそっと微笑みかける。

「疲れましたか?」
「ちょっとは・・・・」
「それはそれは・・・・・・疲れないというほうがおかしいですから。でも強くなった気がしませんか?」
「・・・・・・・少しは」

紀洸はそっと笑んでちょっと空を見上げた。

「昔の私を思い出しますね。さんを見ていて」
「昔の紀洸さんたち?気になるんですけど、かなりものすごく」
「・・・・・・・」

紀洸はちょっと微笑んだ。
立ち上がると何か書物を持ってくる。

「昔の日記です。ふふふっ、ずっとつけていたんですよ。キオ様たちと出会ってから」

紀洸は懐かしそうな顔で書物をめくりはじめた。

「ずっと昔。てかもともと私は流魂街の出身だったんです。流魂街に行った魂魄で霊力のあるものはお腹がすくって知ってました?」
「いえ」
「流魂街は一番から八十番までに東西南北それぞれが分かれているんです。私は南流魂街八十地区"瑚乙"の出身なんです」
「それって・・・・・・」
「一番悪い地区なんです。一番地区が一番治安がいいですね。あるとき、私は本当にお腹へっていて死に掛けてたんです。しかも八十地区ですから誰も助けてくれないんです。
皆が生きていくのに必死って感じで・・・・キオ様たち零番隊はそういう治安の悪い地区を自主的に見回ってらっしゃるんです。霊力の持っている者達が死なないように・・・・」

はその治安の悪い八十地区を想像してみる。

「・・・・・・・・最悪なんですよね」
「そうですね」
「・・・・・・・・・・よく生きてこられたなって思いませんか?」
「あぁそれは思いますね」
「・・・・・・・・・・」

はニコッと微笑む今の彼はきっとそういう過去があるからこそできたんだろうな、と思った。

「話を元に戻してもかまいませんか?」
「あっどうぞ」
「キオ様は道端に倒れていた私を見つけてここまでつれてきてくださいました。そして介抱までしてくださって・・・・・・・本当に感謝しつくしても表せないぐらいなんです。
キオ様に助けられて以来私はこの方に一生ついていくと決めましたよ。キオ様は何よりも気高く誇り高く、そして・・・・・」

紀洸はそこで言葉を切るとフッと微笑んだ。

「キオ様のもとへ死神になるための鍛練をしました。正直かなり厳しいものでしたね。それでも私は死神となってキオ様を助けるために必死でしたから・・・・・・・・
そしてあるとき、キオ様は私に一振りの斬魄刀を授けてくださいました。キオ様手ずから打った鬼道系最凶の刀を・・・・・」

紀洸は腰に佩かれている斬魄刀に手をやった。柄は青い。

「キオさんがうったってどういうことですか?」
「・・・・・香神家は刀鍛冶の一族でもあるんです。私たち零番隊の死神が持つ刀は全てキオ様たちがお作りになられています。もちろんキオ様自身のもキオ様の先祖が作ったものですね」

はキオの斬魄刀を思い出してみる。確か柄は四匹の獣の頭部だった。
紀洸、咲夜などほかの零番隊員たちも個性的な斬魄刀の形をしている。
悠斗などは背中にかけている。刃が巨大な刀だ。

「香神家がうった刀には魂が宿るといわれています。現にあなたの桜吹雪もそうでしょう?それもキオ様がやがて来るべきに備えてうたれたものです」
「来るべき時?」
「はい。いずれくる・・・・・・・・ことです。逃れることはできないんです」

紀洸はそう言って空を見上げた。真っ青な空だった。

「僕ら零番隊の仕事も・・・・・・まだたくさん残っていますしね」

紀洸の意味深な言葉には首をかしげた。
やはりどこか悲しげな印象を受ける。キオや彼だけではない。
それは零番隊全員に共通するものだった。




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