キンッという高い音が香神家の庭に響いていた。
「踏み込みが甘い!」
「はいっ!」
キオとの姿がそこにはあった。
それを見ているのは紀洸と倖斗の零番隊員二人。
二人はお茶片手に二人の様子を見ていた。
「さんも飲み込みが早いですね」
「そうだね」
は修行を始めて早数日。その間に始解を終えてしまった。
今は斬魄刀の対話を中心に修行をしている。
「ここまで早く成長されると僕の立場がないのですが」
「まぁそうだろうね」
「しかし、さんは真面目な方ですね。私たちでさえも逃げかけたキオ様の修行を一生懸命にこなしていらっしゃるのですから」
後ろから咲夜の声が聞こえてきた。二人の間に立っていた。
その口元にはほんのりを笑みが浮かんでいる。まるで娘のことを見守る母親のようだ。
「副隊長の才をしのぐ方になりますね」
「それは困るかも・・・・・・・」
紀洸はそう言いつつもほほえましそうに二人の様子を見ていた。
「思い出しますね、百年前のことを・・・・・・」
「えぇ。あのころからキオ様のお姿は変わられず、美しいまま」
「私たちはあの方のそばにいられるだけで幸せですね」
「でも・・・・・・足りない。あの二人がいないから」
倖斗の言葉に紀洸と咲夜がピクリと反応する。
三人の下へ悠希がやってくる。三人の霊圧を感じたからだった。
「何の話?」
「キオ様は今も変わられないなって話」
悠希は倖斗の隣に座った。咲夜は紀洸の隣に腰掛ける。
四人はしばらく二人の修行の様子を眺めていた。と、おもむろに咲夜が立ち上がった。
「どうしたの?」
悠希が咲夜に尋ねる。
「誰か来たようですね。出迎えてきます」
咲夜はそう言うと邸の入り口へと足を向けた。
そこには現零番隊長がいた。
「梓隊長・・・・いかがなされました?」
「隊長はやめてください、咲夜五席・・・・」
そこには疲れたような表情の梓が立っていた。
咲夜は小さく微笑む。
「何か御用ですか」
「キオ様は・・・・」
「新人隊員の修行をなさっています。どうしたのです、傷だらけで」
「・・・・・・キオ様に話があります。通していただけませんか?」
「・・・・・・・何か厄介ごとのようですね。わかりました、おあがりなさい」
梓は咲夜に続いて邸の中に入っていく。
梓と咲夜の姿に一番初めに気がついたのは悠希だった。
彼は笑顔でヒラヒラと梓に手を振る。
「久し振り、梓」
「悠希六席も元気そうで」
「僕はもう席官を退いた身だよ?堅苦しいって」
悠希は笑顔で言った。梓に気がついた紀洸もうなずく。
「いえ、俺にとっては大事な先輩方ですしね」
梓も笑顔で答える。
キオとがその様子に気がついた。
「梓じゃないか。いったいどうしたんだ?」
「キオ様・・・・・ご無沙汰しております」
「相変わらず堅苦しい」
「それ、皆さんに言われてますよ、隊長」
「ふふっ、でどうした?」
「実は・・・・・」
梓は腰に佩いていた斬魄刀を抜く。
それを見た一同の目が丸くなった。
「これ・・・・・」
「どういうことだ、梓」
キオの表情が厳しくなる。
梓が出した斬魄刀はところどころひび割れていた。
手にしたキオの表情が固くなる。
「相当弱っているな・・・・・直すまでにかなりかかるぞ」
「わかってます」
「・・・・・何があったんですか、梓さん」
「・・・・・・・藍染です」
「藍染?」
キオの表情がいぶかしげなものへと変わった。
「あいつが一体お前に何をした?」
「一度手合わせを頼まれまして・・・・・・・それがつい先ほどのことなのです」
互いに怪我をさせてはいけないと思い、手を少しばかり抜きました。しかい藍染は手加減なしで打ち込んできて。
それでもやはり零番隊に迷惑をかけないようにと、藍染に怪我をさせないようにいたんです。
そしたら・・・・・やばいくらいの霊圧で・・・・こんな状態に。
「・・・・・・大体はわかった。要するに藍染との戦いでこうなったんだな」
「はい・・・・・・申し訳ありません」
「何故謝るんだ?」
キオは訳がわからないといった様子で首をかしげた。
「キオ様のうった刀です。それを・・・・・・・」
「・・・・・そのことか。大丈夫だ、中の魂は死んではいないのだからな」
はキオの手元の刀を盗み見た。
刀身から薄いもやのようなものが出てきている。
の刀がピクリと動いた。
"なんじゃ、そうとうやられておるの、雷帝"
「ささささ、桜吹雪?!」
"久方ぶりよの、朔梓。最後に出会ったのはお主が子供の頃か"
「そうだな。お前が出来たばかりのころだったから・・・・・・・・・まあそのぐらいか」
「桜吹雪さんっ!勝手に出てきちゃだめだって」
"・・・・・・・、わらわは桜の刀じゃ。わざわざ敬称をつけんでもよい"
「はっ・・・・・・・はい」
キオがと桜吹雪の会話を聞いて苦笑している。梓は困ったように元上司たちを見た。
彼らはそろいもそろって苦笑気味の顔で梓を見返した。
「直すのに三日だ。それが限度だな」
"おぬしほどの力ならば、三日あれば十分じゃろう"
「たやすく言うな、桜吹雪。かなり被害を受けている。残りはどうした、梓」
「いえ、オレだけです」
「被害がお前だけか・・・・・・・・・私たちが隠居した今、恐らく護廷十三隊の隊長どもに匹敵する力を持っているのはお前だからな・・・・・」
「藍染隊長もそれが狙いだと・・・・?」
「わからん」
キオは刀を鞘に納めた。
「三日後、また取りに来い。それまでには雷帝を回復させておく」
「ありがとうございます」
「それと特別講習も受けろ」
「え゛っ!」
梓の顔が真っ青になった。
「ソッそれだけは・・・・・・・・・」
「受けておいて損はないはずだ。私はしばらく桜のほうで手が離せないだろから、咲夜、頼めるか?」
「はい」
梓は咲夜のほうを懇願するかのように見る。
咲夜は微笑みながら、首をかしげた。
梓が顔をそらせた。
「さて、私は三日ばかりこもる。紀洸、その間の面倒を頼んだ」
「かしこまりました」
キオはそう言って着物の裾をひるがえし、どこかへ消えた。
紀洸が笑顔でをむいた。
「さん、私の鍛錬も厳しいですから覚悟してくださいね」
「・・・・・・・・・・はい」
は冷や汗を浮かべながらうなずいたのであった。