はぼとりと地に落ちた。

「いったぁい・・・・・・・・」

涙目で腰をさすりながら立ち上がる。
不思議そうにのことを見る人たちがいた。しかしその誰もが着ている服、のものと年代が違うように見える。

「一護・・・・・・?」

小さく名前を呟いてみたが答えはない。は急に心細くなった。

「どっどうしよう・・・・一護も柚子も花梨も・・・・皆心配してるわ・・・・・」

急に周りの人々がざわついた。が振り向くと見慣れた姿が走ってくる。

「一護っ!!」

喜んでその名を呼んだが、すぐに彼とは違うことがわかった。
やってきたのは銀の髪と漆黒の瞳を持つ青年。しかし彼は一護が死神になっているときに着ている服と同じものを着ている。

「あの・・・・・」
「やれやれ・・・・・・・・・・まさか西流魂街に落ちてくるなんてね。落ちてこないものとばかり思っていたよ」

彼はクスクスと笑いながら言った。は何のことなのかさっぱりわからない。
彼はに手を差し出した。

「僕と一緒に来て欲しい。君に合いたがっている人たちがそれこそ五万といるんだから」
「・・・・・・」

は躊躇した。目の前の青年は何も言わずにただ微笑んでいる。

「何も・・・・しませんよね?」
「しないよ。だからおいで」
「・・・・・・・はい」

青年はの答えを聞いてさらに笑みを深くした。そして集まってきている人々に笑顔で声をかける。

「ごめんね、騒がしくしちゃって。でも多分これよりももっとすごいのがあると思うんだ。まだまだ先の話だけどね。それじゃぁ」

青年に手を引かれは歩き始める。怖くて俯いていたのだが、やがて青年の声に顔を上げた。

「ついた。ここがこれから君がしばらくの間暮らす、瀞霊廷だよ」
「瀞霊廷・・・・・・」

目の前に隣の青年と同じような格好をした人々が歩いている。

「さぁ行こう。さっきも言ったけど君に会いたい人はたくさんいるからね」

はひょいっと抱えられた。はっきりと状況が飲み込めないうちに周りの景色が消えていく。
否、消えているのではない。動くスピードがあまりにも速いために見ることができないのだ。
風がの髪を捕まえようとしているのか、ひどく乱れる。

「さぁ到着vv今回のお手柄は僕だね」
「悠希、か・・・・・入れ」
「はい、キオ様」

が顔をあげると一とかかれた扉の前にいた。
扉がゆっくりと開いていく。
部屋の中にいくつもの人影があった。一番近いところに女が一人いる。

「はじめまして。早速だが、私たちの力となって欲しい」

はいきなりの事に何も言えなかった。女はそれを見るとはたと手を打った。

「倖斗は死覇装を、咲夜、邸から"桜吹雪"を持ってきてくれ」
「キッキオ様っ!あの"桜吹雪"をですか?!」
「あぁ。それがどうした?」
「かみ殺されますって!!」
「あれは獣じゃない。女だ」
「余計にたち悪いですよっ!」

何人かの死神が彼女に反論した。
かみ殺されるやら、女やら、たち悪いやら
不吉な言葉が並んでいる。

「それにあれ自身がを選んだんだ」
「あれがですか?」
「あぁ。ともかく用意をしろ。出来るだけ早く。行けっ!」

その場から死神二人の姿が消えた。
女はのほうにむく。

「そういえば自己紹介がまだだったな。私は香神キオ、こいつは私の部下で瑚乙紀洸、それからお前を連れてきたのが叶野悠希、
今消えたのが万桜寺咲夜、叶野倖斗」
「えっと・・・・キオさんは女性ですよね?」

は突拍子もないことをキオにたずねていた。
キオは一瞬キョトンとしてから笑った。

「あぁ。紀洸は男、咲夜は女、叶野二人は双子の兄弟」
「はぁ・・・・・・・・」
「さて、あいつらが戻ってくるまでに時間がある。少しばかり話をしようか」
「話・・・・・・ですか?」
「あぁ。お前がここに呼ばれたわけを話そう」

キオはちらりと背後の死神たちを一瞥した。

「まず始めに・・・・・ここは死神と魂魄の住む世界、尸魂界だ。魂魄と死神の住む場所は違っていてな、ここは死神の住む瀞霊廷。そして私たちは瀞霊廷を守る護廷十三隊というものの隊長と副隊長だ。紹介はいるか?」
「一応お願いします」
「一番隊、山本元柳斎重國、十三隊の総隊長でもある。それから二番隊、砕蜂、三番隊、市丸ギン、四番隊、卯ノ花列、五番隊、藍染惣介、
六番隊、朽木白哉、七番隊、狛村左陣、八番隊、京楽春水、九番隊、東仙要、十番隊、日番谷冬獅朗、十一番隊、更木剣八、十二番隊、涅マユリ、
十三番隊、浮竹十四朗、それから零番隊、香神キオだ。副隊長は省略させてもらうな」

キオは一息で全てを言い切った。
は記憶力はいいほうだ。とりあえず名前は全員覚えた。顔だけが残っているが・・・・顔はそのうちに覚えるだろう。

「話を続けるな。百年前、ここである騒動が起きた」
「騒動?どんな」
「『桜香』騒動と呼んでいる。『桜香』とは死神の使う刀の名前で、最凶最悪の刀の名でもある。『桜香』は名を呼んで、解放すると周囲にある魂魄を残らず喰らう。そして最凶となる。とんでもない代物だ。百年前、どっかのバカ死神がそいつを解放したためにここが壊滅状態に陥ったことがあった」

それはもうひどい有様だった。出動要請を受けた私たち零番隊が現場に向かったときにはいくつもの魂魄があいつに食われた後だった。
桜香は普通の死神たちを次々に喰らっていた。隊長たちも何人かが犠牲になった。
私たち零番隊は桜香封印を決め、早速取り掛かった。あいつを封印するのに霊力の半分を使い切ってしまったのでな、私は隠居したんだが・・・・・桜香は香神で保管していたはずなんだが、いつの間にか消えてるし・・・・・・
話はそれだけじゃない。我が香神家に伝わる書物をあさり返してみると、桜香についての記述があった。
『斬魄刀桜香は封印では収まらず。破壊すべし』ってな。が、さすがに私たちでも破壊はできない。もう一つ記述があったんだ。
『桜香を破壊するべきは現世の人間。死神にあらず』って。だからこの百年間、私は現世へ降り、探し続けていた。そしてあるとき、虚を陰陽の術で滅していたお前を見つけた。お前から強い霊力も感じた。
桜香を破壊するのが死神じゃないのならば、人間を死神にしたらどうかと思ってな。お前にはすまないが死神になってもらいたい。
ならなくてもいい。でもそうしたら現世も無事ではない。現世に生きる魂魄たちもまた桜香に食われるだろう。

キオの言葉には唖然とした。突拍子もない話だ。
しかし、キオの言葉の端々に言いようのない感情が含まれている気がしてならない。
キオの体が沈んだかと思うと、キオはその場に膝を着いていた。周りの者達が唖然とするのがわかる。

「キオが・・・・・あのキオが膝をついた・・・・・?」
「いったいどういうことなんだ?」

周りの死神はそう口々に言う。零番隊の者達も絶句していた。

「頼む。もう百年前の私のような者を増やしたくはないんだ。お前をここへ呼んだ償いは私が必ず取ろう。だから頼む。尸魂界を助けてくれ」

悲痛な響きがそこにはあった。キオの言葉を聞いた零番隊員が膝をつく。

「私たちからもお願いします。どうか尸魂界をお救いください」
「桜香の破壊を」

彼らの姿を見た隊長たちも次々に膝をついた。
全員がに頭を下げる形になる。は慌てた。

「あっあの、頭を上げてください。わっ私でよければ、その・・・・・・・できる限りのことはしますから」
「本当か?」
「はい。私なんかがお役に立てるかどうかわかりませんが・・・・・」

キオが嬉しそうに顔をあげた。隊長たちもそれぞれの言葉に顔をあげる。

「ありがとう!」

キオの嬉しそうな顔につられ、も微笑んだ。
とちょうどそのとき、刀と装束を持った死神二人が戻ってきた。

「キオ様・・・・・」
「あぁすまない。ありがとう」

キオは刀と装束を受け取り、に向き直る。

、死神になってもいいんだな?」
「はい。後悔もないですし」
「・・・・・・・わかった。私の力を少し渡そう。お前の死神の力が目覚めるように」
「・・・・・・つかぬ事をお聞きしますが、どうやって?」
「私の刀をお前の中心にさす。痛みはない」
「・・・・・・・」

キオは刀を抜いた。スッと刃先をへとむける。
の体に緊張がはしる。キオは刃先をの心臓部へとゆっくり刺した。
痛みを想像して眼をつぶったが、痛みはない。キオの言ったとおりだ。
ドンッという衝撃が体を走った。

「ぁっ・・・・」
「くっ・・・」

キオとの顔が苦痛に歪んだ。キオが"しまった"と小さく呟くのが聞こえた
がうっすらを眼を開けると黒い着物を着ていた。
あっ、一護とおそろいだ・・・・・そう思い、の意識は途絶えた。
一方キオは苦痛に身をいたぶられながらも、意識を保っていた。彼女はが倒れるのを見た。

「ちっ・・・・・"艶やかに咲き狂え 桜吹雪"」

キオは斬魄刀解放の言葉を口にする。途端を艶やかな着物を着た女が支えた。
キオの口元に苦笑が浮かぶ。女がキオを見た。

"キオ、死に掛けておるぞ"
「死にはしない。まだ死ぬつもりもないし」
"バカが。さっさと連れて来いと言ったろうに"
「言ってない」

女はキオから視線を外し、を愛しそうに見た。

"はぁ・・・・わらわはを待っておった。心地よい霊力じゃ・・・・・・・"
「桜吹雪、を・・・・・・・ちょっと意識飛んでると思うから」
"言われんでもわかっとる"

女はそっとの額に口付けた。
は小さく声をあげて眼をあける。そして女の姿を認めると仰天した。

「えっ!どっどちらさまですか?」
"わらわの名は桜吹雪。、お主の斬魄刀の姿じゃ"
「斬魄刀?」
"恨めしいことじゃが、香神家の者がつくった刀には魂が宿っての。わらわたちは人型を取ることができるのじゃ。キオの刀もそこにいる零番隊員の刀もな"

キオはわずかに苦笑した。の顔が心配そうにキオを見た。
女はそっとを抱きしめた。

"・・・・・わらわは桜のものじゃ。好きに使うがよい"
「でっでも・・・・・・・」
"あんずるな。わらわはやわにはできてはおらんからの"
「・・・・・」
"さて、わらわは戻る。、わらわの力が必要なときには呼ぶがよい"

桜吹雪の姿が消えた。それと同時にキオも倒れる。

「キオ様!!」
「・・・・・・・・大丈夫だ。少し疲れただけ・・・・・・」
「あの・・・・・・」
はあんずるな・・・・・・・山爺、を我が館に連れて行くからな」

キオは一つ息をつくと立ち上がった。少しよろめいたが、しっかりと立っている。
の肩に手を置いてキオは微笑んだ。

「さぁ我が館へ行こう」




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