は元気のないキオにお菓子を作ろうと張り切っていた。
が、広い香神家の邸、台所がどこにあるのかわからず、しかもいつの間にか邸の中からも出てしまい、迷子になってしまった。
「・・・・・・・・困ったな」
まだこの世界に来て日は浅い。道もわからないのに・・・・・・それどころはこの辺り一帯はまるで迷路のように道が入り組んでいるのだ。
「ここ・・・・・・どこ?」
は呆然として周りを見回した。どこを見ても壁壁・・・・・・・いい加減歩き疲れてきた。
「キオさん、心配しているかな・・・・・・・」
独りが怖い。独りが寂しい。
は壁に寄りかかって俯いた。
「一護・・・・・」
彼はどうしているんだろう。彼は今どうしているのだろうか、とは思う。
離れてから彼はきっと心配している。
「会いたいよ・・・・」
「何をしている」
冷えびえとした声には顔をあげた。一人の死神と目があった。
「兄は・・・・・・零番隊の」
「あっ東宮といいます。えと・・・・・」
は死神を観察した。白い羽織と死覇装(というものだとキオが教えてくれた)を着た中々整った顔立ちの青年だった。
ただその冷え冷えとした瞳だけは好きになれなかった。
「朽木白哉。六番隊隊長だよ、」
青年の顔が嫌悪に歪んだ。青年の背後に白い死覇装を着た青年がいた。
青年はを見るとニコッと微笑んだ。
「キオが心配していたよ。邸の中に気配がしなかったからきっと外に出て迷子になったんだろうって」
「それで貴様を遣わしたのか」
「そんなに嫌そうな目で見ないでよ。僕だってあんたには会いたくなかったよ」
白哉と呼ばれた青年は不機嫌そうに眉根を寄せた。
「さっ行こう」
「あっあの・・・・・・」
名も知らぬ青年には引っ張られていく。
後ろを振り返れば、まだあの白哉という死神はそこに立っていた。
「あっあの・・・・・」
「うん?」
「あなたの名前、私知らないんですけど・・・・・」
「あぁ・・・・・・僕は白鷺。キオの友人だよ。本体は白い鳥なんだけどね」
「えっ?」
は唖然とした。今この青年はなんと言った?
白い鳥?
「さぁ着いた。咲夜、を探してきたよ」
「さんっ!」
白鷺がそう声をかけたときだった。何もないところから咲夜が飛び出してきたのだ。
「えっ?今、どこから・・・・」
「香神の邸は零番隊以外の死神が入ってこられないように結界が施されているんだ。まだこっちにきて日も浅いが迷って出てしまうのは当然なんだよ」
「そうなの・・・・・・?」
「あぁご無事で何よりでした。キオさまが呼んでおられます。私についてきてください。あぁ白鷺、あなたも」
「僕も?」
キョトンとした顔で白鷺が問い返す。咲夜はうなずいた。
咲夜に案内され、二人はキオの部屋にやってくる。
中には笑顔のキオがいた。
「、怪我はなかったか?」
「あっはい。すみません、余計な迷惑をかけてしまって」
「迷惑?いや、そんな風には思ってないよ」
「えっ・・・・・」
キオは笑顔での頭に触れた。
「よかった、何も怪我がなくて」
「キオ?様子が変だよ」
「あぁ・・・・私は、どこかおかしいのかもしれんな」
キオは泣きそうな顔で言った。は思わずキオを抱きしめていた。
キオの瞳が丸くなり、そして涙が溢れ出した。
「・・・・・私はっ、お前を・・・・・・・利用しているだけなのに・・・・・・・なんでっ、そんなに優しくできるんだ」
「なんででしょう・・・・・・・・利用されているとも思いません」
「・・・・」
「ずっとずっと思っていたことがあるんです。零番隊の皆さんは私を見る時いつも悲しそうな顔をするんです。どうしてですか?」
「・・・・そうか、そんな顔をの前で・・・・・・・・・わかった、おいで」
はキオのあとに着いていった。キオは部屋を出たところで意味ありげな視線を白鷺へと送った。
白鷺はそれで何が言いたいのかわかったのか、すぐにうなずくと姿を消した。
部屋の中央に白い人の形をした紙が落ちていた。
「あの・・・・・・・」
「おいで」
は歩き出したキオのあとについていった。
いくつもの部屋を通り過ぎ、邸の最奥へとたどり着いた。広い一角だった。
「ここは・・・・・・?」
「香神家にかかわりのあった者達の中で重要な死神が祭られている。私の夫と友もいる」
キオはそう言って中へ入っていく。は逡巡していたが、キオが手招きをするとそのあとについてはいっていった。
中は薄暗かった。キオが何かに灯りをともすと、二人の近くが明るく照らし出された。
「おいで」
はキオについてしばらく歩いていく。やがて最奥にたどり着き、そして息を呑んだ。
そこには無数の棺おけがあった。どうやら墓のようだ。
キオはそのナカの一つへと足を進めていく。も慌ててあとを追った。
「・・・・・・・・・私の夫だ」
は棺おけを見た。蓋は透明な硝子になっていて中がのぞけるようになっている。
いったいどうなっているのだろうか。中に入っている死体は美しいまま・・・・・まるで眠っているようにしか見えないのだ。
「百年前の桜香騒動で死んだ・・・・・私の友人と一緒に・・・・」
その棺の隣にはもう二つの棺があった。そこにはやはり生前と変わらぬであろう、美しい死神の姿があった。
「紀洸はこの三人のことを知らない。逆に言えば、紀洸を除いた我ら零番隊員は知っていることになる」
「もしかしてキオさんたちが悲しい顔をするのは・・・・・・・」
「あぁ・・・・・・親しい者が死ねば一時騒然となるだろう?私たちの場合はそれがあまりにも長く続いているんだ」
「キオさん・・・・・」
「私の夫は先代香神家の当主だった。当主は代々キオの名を受け継ぎ、最高の刀鍛冶師として生きていく。私と先代のあいだには子供がいなかった。だから私が当主になった。無論、多くから反対されたがな」
「反対されたのになんで・・・・・・・・」
キオはを見て小さく笑った。
「何を犠牲にしても守らなければいけないものだったんだよ。この香神の邸は・・・・・私とキオとの思い出がたくさん詰まっているからね」
はその言葉に零番隊の真実を垣間見た気がした。そして、何故零番隊員があんなに悲しげな顔をするのかもわかったような気がしたのであった。