ミシェルは笑いを堪えられない。前にいるヴォルデモートは紅茶のカップ越しにミシェルを睨んだ。

「あーお腹痛い・・・・・・」
「堪える必要はないが?」
「いいの、笑っても?」

ヴォルデモートは好きにしろ、と呟いた。途端ミシェルは笑い出す。

「リドル、やっぱりあの子のこと気に入っているんだよ。自分でも知らないうちにね」
「本気でそう思っているのか、ミシェル」
「ふふふっ、リドル忘れた?僕が一番最初に君のへの想いのことを教えてあげたんじゃないか」

ヴォルデモートはむせこんだ。ミシェルはニッコリと笑って隣に座るヴォルデモートの背中をさすってやる。
ヴォルデモートはそんなミシェルのことをにらみつけた。

「おぉ怖い。そんなに怒らなくてもいいだろう?結果、君はと両思いになれたんだから」

ヴォルデモートは言葉に詰まった。確かにミシェルの言うとおりへの想いに気がついたからこそ、自分は幸せになれた。
というかミシェルが何も言わなかったら、今でも気がついていないと思う。恋は盲目というがまさにそのとおりだ。まぁヴォルデモートの場合は盲目過ぎて、想いにも気がついていなかったのだが・・・・・・・・

「いい子だよ、は」
「・・・・・・」
「食事も作ってくれるし、部屋の掃除もしてくれるし。あんな子いまどきいないって」
「・・・・・・」
「キミが気に入るような子もね・・・・・・・リドル、が死んでからのキミは本当に見ていられなかったよ。生ける屍。この言葉がぴったりだと想ったのは君が一番最初だよ」
「ミシェル、お前何さり気にひどいことを言っている?」

ミシェルは首をかしげた。長めの金髪がサラリと音を立てた。

「ひどいこと?僕は真実を言ったまでだけど・・・・・」
「真実・・・・・」
「僕は常に真実だけを言うよ?嘘なんてこれっぽちも言わない」
「言っているだろう・・・・・かなりの確率で。お前が十回言葉を発すればそのうちの七回は間違いなくからかいと冗談と嘘だ」
「さっすがはリドル!よく僕のことがわかってるねvv」
「お前、さっきは嘘なんてこれっぽちも言わないって自分で言っていただろう・・・・・・」

ミシェルは笑顔を崩さない。
その笑顔はこれまた怖い。ミシェルの毒舌よりも怖いものが崩されない笑顔だろう。
唯一ヴォルデモートが彼の中で嫌いなものだ。

「覚えてない?僕一言もそんな事言ってないんだけど・・・・・」
「・・・・・・・・あ〜そうですか」
「うん、そうだよ」

しばらく二人の間に無言が落ちた。
ミシェルは呑み終えられてた紅茶のカップに新しいものを注いだ。

「ねぇリドル・・・・・・」
「なんだ」
「あの子のことを気に入らない?」
「何故そんなことを聞く」
「ん?だってキミは気がついてないだろうけど・・・・・・時々キミは無意識のうちにを見てるよ」
「それがどうした」
「・・・・・・・まぁ正確にはを見てる。君はあの子の中にを見てる。君はって子じゃなくってって言う子を見てる。それが僕はいやなんだ」
「それと気に入らないとは関係ないだろう」

ミシェルは無言で立ち上がって部屋を出て行った。
一人残されたヴォルデモートは困ったように紅茶を飲み干してから、部屋を出て行った。
向かう先はの部屋。

「入るぞ」

ノックしてから扉を開ける。

「あっリドルさん、どうかなさったんですか?」

は部屋の中にある本棚の本を読んでいるようだった。
ベッドに座り、ヴォルデモートを見ている。

「何か食べますか?」
「いや・・・・・・・・ミシェルがここにこなかったかと思ってな」
「ミシェルさんがどうかなさったんですか?」
「・・・・・・なんでもない。ただ少し口論しただけだ」

はちょっと驚いたような顔をした。
それを見たヴォルデモートは怪訝そうな顔をする。

「なんだ」
「ミシェルさんと喧嘩するなんて思いもしませんでした」
「何故だ」
「だってお二人とも、見ているとすごく仲がよさそうなんですもの」

ヴォルデモートはあからさまに嫌そうな顔をした。
はクスッと笑うと立ち上がった。

「お茶でも飲んで落ち着きましょう、リドルさん」

先ほどまで茶なら飲んでいた、という言葉を飲み下しヴォルデモートはとともに階下へむかった。
はキッチンに立ってお湯を沸かしている。
ヴォルデモートはそんなリズの背中をずっと見ていた。

「あっあのリドルさん」
「なんだ」

は顔を赤らめてヴォルデモートのほうを向いていた。

「じっと見られているととてもやりにくいのですが・・・・・」
「そうか・・・・」

ヴォルデモートはそう言ってリズから視線を外した。
はほっとしたように息をつくと、カップの中に紅茶を注いだ。
ミルクと砂糖、レモンもつけてテーブルに運ぶ。

「どうぞ」
「・・・・・・・」

ヴォルデモートは砂糖を入れただけで口をつけようとはしなかった。
はもう一度キッチンに立つと高い位置にある皿を取ろうと背伸びをした。
しかしリズの背では届かず、指が皿を引っ掛けた。

「あっ!」

の小さな悲鳴がヴォルデモートの耳に入ってきた。
次の瞬間には皿の割れる音が聞こえてきた。

「・・・・何をしている」
「ごっごめんなさい。この前作っておいたクッキーを出そうと思って、お皿を取ろうとしたら割っちゃって・・・・・・・直ぐ片付けますから」
「そのままだと・・・・・・」
「っ!」

は人差し指を押さえた。
細く白い指を紅い筋がはしる。
ヴォルデモートは杖を取り出すと、割れた皿に向かって一度だけ振った。皿は直ぐに元通りになる。
ヴォルデモートは皿を割らないよう、キッチンの上に置くとの指の怪我を見た。

「あっ大丈夫ですから・・・・・血止めしておけば」
「消毒しておく」
「どうやって・・・・・・っ」

ヴォルデモートはの指を口に含んで血を舐めとった。
リズの顔が真っ赤に染まる。

「ん・・・・ちょっとリドルさん、やめ・・・・・・・」

ヴォルデモートは上目遣いにを見上げた。視線があったはサッと視線を外した。
指を口から離すと既に血は止まっていた。
ヴォルデモートは真っ赤に染まったの頬に触れた。はビクリと体をすくませる。
ここにやってきて以来初めて見る怯えた恐怖の表情だった。

・・・・・・・・」
「はっはい!」

ヴォルデモートは腕を伸ばしてを引き寄せた。自分の腕の中にの体がポスッともたれかかってくる。

「リッリドルさん!」
「じっとしていろ、そのまま」
「でも・・・・・・・」
「ミシェル、今ので何人かが逃げた。追え。何か知られたようならば殺せ」

ヴォルデモートはキッチンの外にむかって言った。直後誰かの足音が遠ざかっていく。

「ミシェル・・・・・さん?」
「俺たちは喧嘩したわけじゃない。俺とお前を探しに着て、入るに入れなかったんだろう」
「ソッそれは、リドルさんが・・・・・・・・!」
「俺が何かしたか?」
「・・・・・・・・・・・若作りな顔しているくせに既に耄碌しているんですか・・・・・」

は恨みがましそうにヴォルデモートを見た。
ヴォルデモートは其の視線をスルーし、リズの体を解放してやった。

「部屋に戻っていろ。俺が呼ぶまでは絶対に出てくるな」

ヴォルデモートはそう言って背をひるがえした。
残されたは困ったように紅茶を見た。結局一口も飲んではくれなかった。

「意地悪ですよ、リドルさん・・・・・・・こんなことは」

はそっと自分の身体を抱くようにした。
まだヴォルデモートの温かさが残っているような気がした。

「あの人があなたを愛した理由もわかる気がします」

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