トム・マールヴォロ・リドルは夢から目覚めた。
昔の夢を見た。懐かしい愛しかった恋人の夢を。
「・シルビアか」
眼を閉じれば、動作の一つ一つまでを鮮明に思い出せる。しかし彼女は不治の病で逝ってしまった。自分ひとりを置いて。
「何故・・・・・・・死んだ」
ノックの音がした。
「誰だ」
「ヴォルデモート様、ミシェルです」
ヴォルデモート、それが今の彼の名だった。
ミシェルは彼に従う魔法使いの一人でリドルと同級生だった。
「入れ」
「はい」
ミシェルは部屋の中へ入っていく。
「何があった」
「お話しておいたほうが良かったかな、と思いまして・・・・・・・・・」
「さっさと言え」
ミシェルは一瞬の逡巡ののち、口を開いた。
「実はここに一人のマグルが迷い込んで来ましてね・・・・・・・それが、・シルビアに似ていて・・・・」
「に?」
リドルはいぶかしげに尋ねかえした。ミシェルはうなづく。
「はい。血縁、というわけではないでしょうが・・・・・・」
「連れて来い」
ミシェルは一礼して部屋を出て行く。
に似たマグル・・・・・・
しばらくするとミシェルが戻ってきた。その後ろには少し怯えたような表情の女が立っていた。
年齢的には自分よりも少し年下なだけだろう。そして何よりも・・・・・
「・・・・・」
「名前はだそうです。フルネームは教えてくれませんでした」
「ここへ来い」
という名の女は少し怯えた顔でヴォルデモートのそばによっていく。
彼は大きめのソファの上に横たわっていた。
「お前の名を言え」
「・・・・・・、・ライサ」
「・・・・・・・お前はマグルか・・・・・」
は首をかしげた。マグルと言う言葉の意味がわからないのだろう。
ヴォルデモートはフッと冷たい笑みを浮かべる。
「マグルは魔法の使えない人間のことだ。リズ、お前のような・・・・・・」
「あなたは・・・・・魔法使い?」
少しだけの気配が和らいだ。
「そうだ。魔法使いだ、ただ闇に落ちてはいるがな」
「嘘・・・」
いつの間にかミシェルはいなくなっている。
ヴォルデモートはの頬に手を触れた。少し熱を帯びている。
「あなたの・・・・・・・・名前は?」
「・・・・・・・・お前、殺されるとか思っていないのか」
「あなたは殺さない。なんとなくだけどそれがわかるの」
は琥珀色の瞳を持っていた。それがと唯一違うところだ。
しかし二人がどうしても重なって見える。
「・・・・・・リドル、トム・マールヴォロ・リドル」
ヴォルデモートの本名を聞いたとき、は少しだけ眼を丸くした。
「長い名前・・・覚えるのが大変そうね」
「リドルでかまわない」
言った後、ヴォルデモートはハッと口を押さえた。
自分は一体何を言っている・・・・・・・・?
リズは小さく笑った。
「リドル・・・・・綺麗な瞳ね」
「はっ?」
突拍子もない発言とはまさにこのことだろう。はそっと微笑んだ。
「紅い・・・・紅の瞳。綺麗」
"リドルの瞳、ルビーみたいで綺麗です"
彼女も・・・・・もそう言った。そっと淡く微笑んで。
「・・・・・・・ミシェル」
「はい」
「こいつに部屋を一つ与えろ」
「・・・・・・・殺さないんですか?」
「しばらくは楽しめそうだ」
リドルは笑った。はきょとんとしてリドルを見上げていた。
やれやれ、とミシェルは思う。この人って本当に面白い、と・・・・・・
1 3
menu