リドル、ミシェルが『闇の魔術に対する防衛術』の授業を受けている時のことだった。
マクゴナガルがクラスの中に入ってきて、二人を呼んだ。二人は授業を抜け出し、マクゴナガルのあとについていった。
何も言わないマクゴナガルに二人は不安を覚えた。もしや、の身に何かあったのでは・・・・・と。
着いた先は医務室。カーテンの引かれた一つのベッドにマクゴナガルは歩みを進めていく。

「来なさい」

二人はそういわれてベッドに近づいた。カーテンを開けて中に入るとベッドにはが寝ていた。
穏やかな寝息を立てている。リドルはほっと安心した。が・・・・・

の体は悲鳴をあげているね・・・・」

ミシェルは小さく呟いた。マクゴナガルはうなづく。

「・・・・・・・・・先生、本当のことを言ってください・・・・・・の病気のこと・・・・・・」
「・・・・・恐らくミス・シルビアと長い間一緒にいたあなたたちには辛い話になりますよ」
「それでも・・・・話されないよりも辛いことはないですから・・・・いいよね、リドル」
「・・・・・・・・・あぁ」

マクゴナガルはソッとの着ている服の袖をまくりあげた。白い腕に無数の針が刺さっていた。
気がついてみればの体の回りには無数のコードがあった。
ミシェルもリドルも絶句してしまった。

「ミス・シルビアの病気は何百人に一人というところの病気です。病名はまだありません。そして治療法も。ミス・シルビアが今まで生きてこられたのは一重に奇跡としか言えないのです」

マクゴナガルはそう話し始めた。

「ミス・シルビアも純潔の魔法使いの家に生まれました。魔女になりたいから、と条件付きでここへ来ました。その条件とは私の部屋で一週間に一度治療を受けること。
しかしミス・シルビアはここ二ヶ月ほど治療を受けていなかったようです。治療はミス・シルビアの病気の進行を遅くする唯一の手段。それでも彼女は自分の命よりも貴方達との時間を優先させた」
「っっ!」
が治る可能性は?」
「・・・・・・・万に一つもないでしょう」
「そ・・・んな」

リドルはの頬に触れた。ひんやりとしたさわり心地がある。

は・・・・あとどのくらいもつんですか」
「一週間。マダム・ポンフリーはそうおっしゃっています」
「・・・・・・・役立たずっ!」
「リドルッ!」
「なんで・・・・・・なんでを助けられないんだっ」
「リドル、やめなって・・・・・」
「なんで・・・・・・を・・・・・助けられると思ったから貴方達に預けたんだ・・・・・」

リドルの頬から零れ落ちた涙がの頬に落ちてはじけた。
小さくうめき声をあげて、が目を覚ます。
は泣いているリドルを見て目を見開いた。

「リドル・・・・・?」
ッ!」
「何故・・・・・泣いているんですか?」
「君が・・・・・・・助からないと知ってしまったから・・・・・」
「リドル・・・・・」
「そして、僕自身が何もできないから・・・・・」

はそっと小さく微笑んだ。

「何故?あなたは私を愛してくれています・・・・それだけで私には十分なのに・・・・・十分すぎるほどなのに」
「それでもっ・・・・君が死ぬのを止められないんだっ!」
「リドル・・・・人はいつか死にます・・・私の場合、それが早かっただけのこと・・・・・あなたがそんな風に思う必要はないのに」

ミシェルはから顔をそらした。あまりにも痛々しくて見ていられないのだ。

「あなたが好きです、リドル。その想いは変わりません」
・・・・」

ミシェルはマクゴナガルとともに医務室から出て行った。そして閉められた扉に体を預け、ズルズルとすべって座り込む。
そばに心配そうな顔のアズサが姿を見せた。

「僕は・・・・・・何をしているんだろう・・・・・・」
「ミシェル、は・・・・・・?」
「一週間の命だってさ・・・・・・」

ひくっ、とアズサは息を呑んだ。

「もうだめらしい・・・・・・の体が悲鳴をあげてるのがわかるんだ・・・・・・・・こんな力・・・・いらないのに」
「ミシェル・・・・・力って?」
「人の体に触れただけでその人の調子がわかるんだ・・・・・・」

ミシェルは溜息をついた。アズサはそんなミシェルがいたたまれなくなって抱きしめた。

「何もできなかった・・・・・・僕はのそばにいたのに、その苦しみに気がつけなかった・・・・・・その体があげる悲鳴が聞こえてなかった・・・・・・・僕は・・・・・・・」
「もう、いいよ・・・・」
「アズサ・・・・・」
「それを言うなら私も同じだもの・・・・・・・私だっての体の異変に気がつけなかった」
「・・・・・」
・・・・・・・・助けてあげたい・・・・・」

アズサはミシェルに抱きつきながら泣き始めた。

・・・・」
「リドル・・・・・・・・ひどい顔をしてますよ・・・・・」
「誰のせいだと思って・・・・・・・」
「お願いだから・・・・・その紅の瞳を翳らせないでください・・・」
「えっ・・・・」
「リドルの紅の瞳・・・・・・ルビーみたいで好きです。キラキラと光っていて・・・・・だからお願い」

リドルは優しくの頬を撫でた。が気持ちよさそうな顔をする。

「リドル、リドル・・・・・・・あなたが好きです」
「僕もだよ、・・・・」
「あなたは・・・・・いつも一人ぼっち・・・・で・・・・・・でも私がそばにいますから・・・・・・必ず病気を治してあなたのそばにいますから・・・・・・だから」

お願い、悲しそうな顔をしないで・・・・

・・・・・・ッ」

はフッと眼を閉じた。リドルは慌ててその呼吸を確認する。
弱々しいながらもは息をしていた。リドルは力が抜けて座り込んだ。

を失うことが怖い。

今、彼はそう思っていた。がそばにいてくれるからこそ、リドルはリドルのままでいられるのだ。

ッ!!」

死なないでくれっ
リドルは切実な想いでそう願った。
自分の命をもって行ってもいい。でもセイの命だけはやめて欲しい。
リドルは生まれて初めて、いるかどうかも不確かな神に祈った。

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