白哉は桜の木へやって来た。その木は白哉と紫苑が始めて出会った木だった。
「紫苑・・?」
「・・・・・・白哉・・・・」
木の陰から紫苑が姿を見せた。
「・・・・何故零番隊などに・・・?」
「・・・・・・・私は様のお役に立ちたいから・・・・」
「何故・・」
「あの方の生き様に惚れました。あの方はこの零番隊を十三隊に認めさせようと頑張っています」
「・・・・・・?」
「裏切り者として処刑された前隊長様のために」
「・・・・・・・どういうことだ?」
「私も詳しくは聞いていません・・・・でも白哉、この下でした約束を覚えていますか?」
“白哉、私はこの人の下なら死んでもかまわないと思える人ができたら・・その人の下についていきます”
“それでは会えなくなるではないか”
“そう。だから白哉。私のことを見守っていてください。あなたに恋人ができても私は何も言いませんから”
“紫苑・・・・”
「・・・あぁ・・・紫苑は見守ってくれ、と言ったな」
紫苑はニッコリと笑った。白哉は悲しげに彼女を見る
「白哉、だから私にはもうかまわないで下さいね」
「・・・・・わかった。紫苑・・・・・最後に一度だけ触れてもいいか?」
「・・・・・はい」
紫苑は白哉に近づいてきた。白哉は紫苑を抱きしめる。
「紫苑・・・・すまない」
「・・・いいえ、いいんです」
紫苑は牽制管に触れた。これがある限り白哉は“あのこと”に囚われ続けるのだろう。が、紫苑にはもう何もできない。
「白哉、何か悩みがあったら私に話して下さいね」
「・・・・・・わかった」
「それでは」
紫苑は白哉の腕の中から姿を消した。
「様・・・」
「戻ってきたか」
「ありがとうございました。これで吹っ切れましたわ」
「・・・・・そうか。なら一人で泣くなよ」
紫苑はキョトンとしてから軽く笑った。
「はい」
は窓辺から入り込む桜の花びらを見つめていた。
「あたしも紫苑のように一途になれればいいのにな・・・・」
がポソリと呟いた言葉は誰にも聞こえていなかった。
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