は戻ってきた昌浩と梓を出迎えて小さく微笑んだ。
「、緋乃は役立ちましたか?」
「やっぱりの禁鬼だったのね・・・・・えぇ、助けてくれた」
「それはそれは・・・・・・あとで燎流様にお礼を言っておかなければね」
「必要ない。どうせ愛しい奥さんの様子を見るついでに私のことも観察してるに決まってるから。んでもって冥府に降りたら言うのよ。"やれやれ。あんな下級の妖怪も倒せないとは・・・・・・・・小野の名が泣くよ、"・・・・・・腹立ってきた」
は面白そうに笑う。は軽装に着替える。足元に螢斗が擦り寄った。
「なんか変わったことあった?」
「いえなにも・・・・・・・そうだ、・・・・・・教えてください、あなたの意中の方はどんな男性ですの?」
はの言葉を聞いた途端に飲んでいたお茶を吹き出した。
軽くむせるの背をが優しくさすった。
「なっ、なんでそんなことを・・・・・?」
「いえ・・・・・・・なんとなく、私と燎流さまのことを話すとき、夢見るような口調でしたから・・・・・・・」
「・・・・・・・・・あのね、昔幼かった私を救ってくれた人がいたの。救ったというか、ぶっ倒れた私を介抱してくれた人・・・・・」
身分はかなり違うけど、でもそれでも優しくしてくれた青年。そう今でも・・・・・・
「名前をお聞きしてもよろしくて?」
「・・・・・・藤原行成様・・・・・・」
の顔が輝いた。
「あの方は良き伴侶になりますわ。紫もきっと幸せになれるのに」
「うん・・・・・・でも・・・・・・・・」
あの人は既に幸せな人だから。あんな呪いを受けた自分がそばにいてはいけないのだ。
忌まわしい呪い。呪いなんかなければ、小野家の姫として行成に想いを告げることも出来るのに。
はそっと右腕に触れた。
「・・・・・」
「気にしないで、。これは私が受けたもの。私がなんとかするんだから」
は少しだけ辛そうな顔をした。
「、そんな顔しないで。私が燎流に怒られちゃう・・・・・」
「・・・・・その呪いを解ければいいのに・・・・・・私の力も役立たずですわ」
クスンとは鼻をならす。はの手を取った。
実体感はある。しかしこの手はひどく冷たい。とても生きているものの温度とは思えないものだ。
「にはいっぱいお世話になってるわ。お願い、。私の願いを聞いて」
「なんでも」
「・・・・・・・・私の呪いのことは私がなんとかする。だからあなたが責任を感じないで」
はニッコリと微笑んだ。はコクリとうなずく。
そばに緋乃と弓狩が姿を見せた。
「様、燎琉様が呼んでおられますが・・・・・・」
「ついでに様のことも・・・・・」
「ついで?」
ピクリとのこめかみが動いた。あぁ、怒ってるよこの人・・・・・と二人の禁鬼とは思った。
とりあえず怒りが爆発する前に引きずっていくのが得策なのだろうと、思い三人は立ち上がった。
「まったく・・・・・」
不機嫌になったを背におい、緋乃が姿を消す。続いてを抱き上げた弓狩が姿を消した。
冥府第一殿は広い。も一番初めは迷った。
かなり迷った。相当迷った(もういい)
「・・・・・燎琉に会いたくない・・・・・・」
「大丈夫です。からかわれる前にちゃんと燎琉様をいさめますから」
「いや・・・・・余計に話がこじれる・・・・・」
その通りだ、と思ってしまう禁鬼たちだった。こじれる以前に二人して惚気る。これは既にもう実証済みだ。
「燎琉様、何か御用ですか?」
室内に入ったは中にいた一人の青年に微笑みかけた。
思わずの肌に鳥肌が立つ。それを感じた禁鬼は今のの心情が手に取るようにわかった。
「あぁに。そうだ」
の身が固くなった。くる。
「ちょっと見てたけど、あれくらいの低級な妖を禁鬼の力なしで倒せるようにならないと到底篁に叶わないよ?あぁ情けないなぁ・・・・・・・
小野の血が泣くよ?」
「だぁ!わかってるわよっ!しつこいわねっ、じい様に敵うために日夜修行してるんでしょっ!」
「うん、知ってる」
「知ってるなら言わなくてよろしいっ!てか正直いってわずらわしいっ!邪魔!」
「・・・・・・・・・・・」
おぉ、とたちは感心した。珍しく反撃してる。それが効いているかどうかは別問題だが・・・・・・・・
「第一私はのこと大好きなのに、横からそれを奪ってくから」
「・・・・・・・・関係あるのか?」
「・・・・・・さぁな」
「まぁ・・・/////」
はポッと頬を染めた。
そこじゃないだろう、と突っ込む禁鬼二人。てか真面目な話に戻してくれ・・・・・・・
「コホン、それで用は?」
「あぁ忘れていた」
忘れるなよ、とさらに突っ込む。誰かこの三人(燎琉・・)を止めてくれ・・・・・・・・
「西方から妖が入った。、しばらく冥府に・・「やです」」
燎琉は部屋の隅でいじけ始めた。
やばい。そうとう話がこじれていく。どうにかしなければ・・・・・・・
「あっあの・・・・・燎琉様?それで何故、様を冥府に・・・・・・?」
「やつらは霊力の高いものを狙っている。、危険だよ。はなんとかなる。てか冥府に落とそうとしても死なないから」
「・・・・・・・・」
が刀を燎琉に突き刺そうとするのを弓狩と緋乃が必死で抑えた。
はうるうるとして燎琉の瞳を覗き込んだ。燎琉がグッと言葉に詰まる。
「燎琉様・・・・・・私が何故父上のところに戻ったのかお忘れになりましたか?」
「いや・・・・・・」
「なら何故・・・・・・・ひどい、私は・・・・・」
「・・・・」
燎琉はの頬に手をかけた。
「私はあの子を守るために返り咲いたのですっ!ひどいことを言わないでくださいませ!!もう一度そのことを言った暁には私、ずっと父上のもとにいますわっ!」
その言葉に燎琉はかなりの衝撃を受けたようだった。
たちはの本気を垣間見た気がする。
「どうなさいますの?」
「・・・・・・・・はぁ、わかったよ・・・・・私の負けだ。ただし、何かあったらを盾にして逃げてくるんだよ?」
「おいコラ・・・・・お前何勝手に決めてる」
「はいわかりました」
「もだって!何了承しているのさっ!」
遊ばれてる哀れな主の姿を二匹の式神が見なくてよかったな、と思った。
「さて・・・・・本当に冗談じゃないんだ。キミ達二人に危険が・・・・・・」
「・・・・・・・・・燎琉・・・・・・・・もしかしてと私のことバカにしてる?てか冗談言うな・・・・・」
がそう呟いた。もうなずく。
「私たちだって伊達に霊力もってるわけないわ。それには晴明の娘よ?晴明直々に鍛錬を受けているのよ?」
「・・・・・・・・・そうだね。ちょっとはキミ達のことを信じないとね」
燎琉はニッコリと笑んだ。の頬がポッと染まる。
「気をつけて・・・・・・・」
「はい、燎琉様・・・・・・・」
綺麗に三人分の溜息が重なった。
は禁鬼二人を見上げる。仮面に隠れた素顔は呆れているように思える。
「大変ね、あんな主を持って」
「・・・・・・・・・・えぇ」
二人はそろってうなずいた。
その後未だ惚気ている二人を放っておいては先に冥府からあがった。
暗い都を歩いていく。空を見上げると星が輝いている。
「・・・・・・行成様」
つっ、と頬に涙が流れた。小さく呟かれたのは愛しい人の名前・・・・・・
「あなたが好き・・・・・・ずっと」
もしもこの呪いが解けたのならその時は・・・・・・この想い、伝えていいですか・・・・・・?
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