は溜息をついて起き上がった。頭のそばで丸くなり眠っていた式神が頭を上げる。

「大丈夫。・・・・たぶん」

は起き上がって部屋を出た。式神たちは後をついてこない。問題なしと判断したのであろう。
が向かった先は昌浩の部屋。物の怪が不機嫌そうな顔をしての到着を待っていた。

「私も怪我人なのにね・・・・・」

苦笑をこぼしながら言うと物の怪の言葉が十倍になってかえってきた。
物の怪を抱き上げながらは室内へ足を踏み入れる。部屋の中央に立っていた昌浩が振り向いた。

昌浩ではない。

「・・・・・・・・・なにやってるの」
「馬鹿なに説教を、と思ってな」
「結構です。むしろ謹んで遠慮します」
「なんだ、閻羅王太子に何か言われたか」
「微笑みをくださいましたよ。“情けないね・・・・・まったく月読殿と天照殿がお心を砕いてくれたおかげだよ。それから私のおかげだ。三途の川を渡りかけていた君を引きずり戻したのだからね”といわれました」

おかげでは禁鬼たちに軽い傷を負わせてしまった。いつものことながら狭霧丸で切りかかって行ったのだ。
がいなくてよかったとも思った。

「それで何か用?」
「あぁそうだ」

の言葉に昌浩に憑依した高於の神は言う。

「貴船から異邦の妖異どもの気配が消えた。いずこへ逃れたのかは知らないが」
「・・・・だろうね」
「口惜しいが我では彼奴らを倒すこと叶わなかった。それに比べ、とこれは骨があるな」

昌浩は自分自身の胸に手を当てた。そして微笑む。

・・・・・・・・」
「わかってる。あいつらは絶対に探し出す」
「よしよし」

は昌浩に頭を撫でられた。中身は高於なのだが、外側が昌浩なせいか、頭に来ないこともない。
むすっとした顔を見て昌浩は笑う。

「できるな」
「む・ろ・ん」

昌浩は笑うと物の怪を見た。

「いざとなったら呼ぶといい。・・・・・もっともその声が我に届けばの話だがな」

物の怪はの腕の中で警戒心をむき出しにする。

は微笑んだ。

「いいことじゃない」
「信用できるか!」
「信用しろ」
「できない!」

物の怪はそっぽを向く。
昌浩は軽く苦笑する。

、我は戻る」
「うん、ご苦労様」
「・・・・それと、最後にお前に言っておく」
「ん?」
「鬼の呪いは未来永劫、お前が死んで冥府に仕えるようになるまで、いや仕えた後もお前を苦しめることになる」
「わかってるよ。この呪いが天津神でもどうにもならないことをね」

だから心配しないで、とは笑った。高於も軽く笑うとひゅっと昌浩の体から抜け出た。
前のめりに倒れる昌浩の体を、の腕から抜け出して本性に戻ると昌浩の体を抱きとめた。

「高於のことだから、昌浩の体に負担はかけてないと思うよ」
「神を完全憑依させるとは・・・・我が孫ながらあっぱれというか」

晴明が扇で口元を隠しながら部屋の入り口にいた。

「あっ私寝るわ。んじゃ」

「ん?」

晴明はを呼び止めた。

「無理はするな」
「・・・・・・・・うん」

は淡い微笑を浮かべるともう一度寝るために部屋へと戻っていったのであった。
それはまだ予兆の域を出ずにいた。

22 24
目次