「では取り逃がしたのですね」
「面目ない・・・・・」
はからの報告を聞いて溜息をついた。緋乃から連絡を受けたときには少しばかり心配だったものの、まぁ騰蛇や螢斗、翡乃斗もいるのだから昌浩もも無傷で帰ってくるだろうと思ったのだ。もちろん異邦の妖異、窮奇を倒して・・・・
しかし予想に反し、昌浩はたくさんの擦り傷に打ち身、は左足首捻挫、螢斗、翡乃斗はかろうじて無事だったものの、騰蛇が大怪我を負ってしまった。
千里眼で様子を見ていたはハラハラとしたものだ。彼が現れるまでは・・・・・・
「父上もまだあの年で離魂術をお使いになるとは・・・・・・娘としても心配ですわ」
「それで飄々と昌浩をからかってるんだからね・・・・・・・疲れているだろうに」
「晴明にとっては昌浩をからかうことで疲れを癒しているんだろう?」
「性格悪いわね・・・・・」
晴明の部屋近くにあるの部屋には昌浩の怒号、及び晴明の声も聞こえる。しばし隣部屋の声を聞いていたが、昌浩の足音が荒々しく去ると静かになった。
「・・・・・・・・暴れてるね」
「ですわね」
二人はそろって溜息をつく。は自分の部屋に被害が及ばぬよう、式神を連れて昌浩をなだめにむかった。
<は小さな笑みを漏らす。
「それでも昌浩は父上の孫ですわ」
の背後に禁鬼が姿を見せる。
"様・・・・・・・"
「大丈夫ですよ。関与はしませんから・・・・・・・そんなに心配ですか?なんでしたら、あなた方にも翡乃斗や螢斗と同じように"心配性"という札を貼ってあげますよ」
"謹んで遠慮する"
"同じく"
は二人の返事にクスクスと笑みをこぼした。
そのときである。
夜の静寂を打ち破って怒号が聞こえた。
は一瞬呆然としたあと、またくすくすと笑い始めた。禁鬼たちもそれぞれ別の方向に顔をむけて肩を震わせている。
「まぁまぁ・・・・・・・都の方々に迷惑ではありませんか」
そうは言ってもも面白くて仕方ないのである。肩を震わせ、挙句の果てには涙まで流す始末である。
が呆れたような顔をしてみていた。
「、笑いすぎ。昌浩はあれでも真面目なんだって」
「でっですが・・・・・・・・・・・たっ・・・・・・・・父上のことを・・・・く・・・・・くそ爺など・・・・・」
「いつものことじゃない。今回はそれが大音量版になっただけよ」
はさらに肩を震わせる。は呆れて何もいえなかった。
「いいのよ、あれは。昌浩にとって決意の叫びなんだから」
まぁ昌浩の怒りを宥めることになる物の怪にとっては大変なんだけどね、と内心でつぶやくと、おやすみと言っては部屋に戻って行ったのであった。
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