昌浩は異邦の妖異たちに囲まれて傷だらけになっている紅蓮を見た。
自らも傷ついてなお紅蓮は昌浩を守ろうとしていた。

「・・・・・・・ぐれ・・」

昌浩は胸に走った痛みに倒れこむ。
妖たちがこれ幸いとばかりに昌浩へと襲い掛かる。
昌浩は妖に押さえつけられながらも必死で呪を唱える。雷召喚の術だ。これで少しでもやつらの目を紅蓮からそらせれば、紅蓮は逃げることができる。
―逃げて欲しい。


いっぽう紅蓮は妖たちに周りを囲まれていた。
十二神将の中で最強を誇る紅蓮だ。こんなチンケな妖など取るに足らないのだが、今は昌浩を案ずるあまり力の制御が上手くできていなかった。

「くそっ」

紅蓮は肩に喰らいついてきた小さな妖ごと肩の肉を切りはがすと昌浩のほうをむいた。
昌浩は必死で何か呪を唱えている。昌浩の思いが聞こえてきた。

―逃げてね、隙を作るから。もういいよ。じいさまのもとに帰っても、紅蓮。

「昌浩っ!!」
「・・・・・・・電灼光華

昌浩の声に反応するかのようにして天から雷が窮奇むかって放たれた。
雷は窮奇を貫き、怒り狂った窮奇が昌浩を食いちぎろうと向かってくる。
紅蓮は逃げただろうか・・・・・・・・・・無事に晴明のもとへ。
鋭くとがった牙が昌浩の喉下を食い破ろうとした、その刹那―――


火神招来!

の凛とした声が昌浩の耳朶をうった。
昌浩に何かが覆いかぶさっている。生暖かいものが頬に垂れてきた。むっとするほどの血臭がする。
「・・・・・・れん」
「なんて顔してるんだ、昌浩」

昌浩を守るようにしてかぶさっている紅蓮はにっと口端を吊り上げた。

「お前、もしかして・・・・・・・」
「騰蛇、動ける?」
「なんとかな・・・お前のほうはどうだ、
「左足がいってるわ。上手く言うこと聞いてくれないし」
「悪い・・・・・・・」
「別にあんたのせいじゃないわよ。それよりこっちこそごめん。もっと早ければあんたもそんな傷負わなかったのに」
「いや・・・・・・・」

の前にたくましい青年が立っていた。燃えるような赤髪はどこか紅蓮を彷彿とさせる。しかし着ているものとその炎の強さが違う。
炎の壁を超えようとした妖たちが次々と消し炭になっていくのだ。

・・・・・・その人・・・・・」
「あぁ彼?大丈夫、味方だから・・・・・・問題ないわ・・・・・・・ちょっとしたツテでね」

は軽く笑うと顔を前に向けて集中し始める。
昌浩はやっと紅蓮が傷を負っていることに気がついた。

「なんで・・・・・なんでオレをかばったんだ、紅蓮!!」
「お前に死んで欲しくないからだ・・・・・お前は晴明を超える陰陽師になると言っただろう」
「だからって・・・・・・だからって紅蓮が死んだら意味がないだろう?!」

昌浩はそう言って紅蓮の守りから出るとと並ぶ。が驚いた顔をして昌浩を見た。
の前にいた青年もだ。

、もうおれ許せないんだ」
「誰が?」
「窮奇が・・・・」
「・・・・・・うん、わかった。じゃぁ一緒にやっちゃおうか」

昌浩がうなずく。二人は神経を集中させ、呪を唱え始めた。そのときだった。
天から飛来した無数の光りの矢が群れ重なる妖たちを一閃のもとになぎ払ったのだ。
、昌浩は唖然として声も出なかった。
一人の青年がその場におり、彼を守るようにして神々しいものたちが妖たちを次々に倒していく。

「・・・・・あれは・・・・」
「あっ危ない!!」

昌浩が炎の障壁を抜け、出て行く。

「オキリキリバザラウンハッタ!!」

青年を襲おうとしていた妖たちが一瞬にして祓われる。
青年や彼に付き従うものたちが意外そうに昌浩を見た。はへたりこんだ昌浩を障壁の中へ引きずり戻す。

「ばかっ!考えなしっ!」
・・・・・・大丈夫だったか?”
「えぇなんともないわ。うん、ありがと。ごめんね、呼び出しちゃって。あいつが来ればもう大丈夫よ。月読にお礼言っておいて」
“我らが高天原の二大神を呼び捨てできるとはな”

火神は苦笑すると姿を消した。それと同時に炎の結界も解かれる。
は狭霧丸を地に突き刺した。結界が解かれたため紫たちを襲おうとしていた妖たちは一瞬にして姿を消す。

「さてっと・・・・・」

は青年の姿を見たが、今のところは心配なさそうだ。放っておいていいだろう。
昌浩は紅蓮の傷を見た。窮奇の牙は深く紅蓮の肩を切り裂いていた。
が駆け寄ってくる。

「ん〜さすがの私でもこれを治すのには苦労するなぁ・・・・・」
「紅蓮・・・・・」
「大丈夫だ。問題ない」
「いや、結構痛そうなんですけど?」

は軽い溜息をつく。そのとき背後で凄烈な霊力が爆発した。
風に髪を煽られながらは背後を見やる。
青年は既に窮奇一行を退散させたらしく、こちらに近寄ってくる。螢斗や翡乃斗もだ。

「主・・・・・!」
「大丈夫だよ。なんとかね」

の隣を青年が通り過ぎていく。すれ違いざま、青年の呟きがの耳に入った。

「迷惑を掛けたね」
「・・・・・・・・」

は口元に小さな笑みを浮かべた。式神たちが不思議そうな顔をして主を見る。
青年はそのまま昌浩と紅蓮のそばに近寄った。昌浩は思わず身構えるが、青年はそんなことお構いなしに紅蓮へと手を伸ばす。
清浄な気が青年が紅蓮の上にかざした手から流れ出る。気はすぐさま紅蓮の傷を治した。
昌浩はひどく驚いた顔で紅蓮の傷があったところを見て、そして青年を見た。しかしそのときにはもう既に青年はいなかった。

「昌浩、帰りましょう」
「あっあぁ・・・・ほらもっくんも」

昌浩は小さな物の怪に変化した紅蓮を抱き上げるととともに安倍家へ向かって歩き出した。

12 14
目次