はその邸に着いたとき、過去に何があったのかを理解した。
昌浩もだ。
その邸に住んでいた者たちはみな、押し入ってきた盗賊たちに殺されたのだ。響く断末魔の声、肉を切る音。
は軽いめまいを感じた。
途端二人の神が姿を見せ、それぞれの神気を爆発させた。昌浩とはそれぞれ吹き飛ばされないように足をふんばった。
二人の神気に対抗するようにして別の妖気が爆発する。

「螢斗・・・」
"あぁ・・・・・・お前の読みが当たったようだな"
・・・・・?なんのこと・・・・」
「あの西方の妖怪たちの親玉よ。窮奇・・・・・虎の姿に翼を持った結構中々強力なヤツ・・・・・・」

ぞくりとの背を何かが這っていった。

「今回は昌浩に任せるわけにはいかないようね」
「でもそれじゃぁが危険・・・・・・」

言葉の途中でビシッと決まったデコピンに昌浩は涙目になった。
は笑って昌浩を見る。

「問題なしよ。私には頼りになる仲間がいるんだから。ということで雑魚はよろしく!」

狭霧丸を鞘から抜き放ちながら、彼女は妖怪たちの中へ飛び込んでいく。
その妖怪の中央にいた妖がのっそりと立ち上がる。
月光を受けきらきらと輝く毛並みは金と黒の縞。しろがね色の眼が氷刃のように煌き、口元に白い牙を覗かせ、四肢の先には細く鋭いつめを引っさげ、大鷲の翼をはためかせる。
はちらりと昌浩のほうを見た。騰蛇を含め、三人の神が彼を守っている。心配はいらないだろう。そう・・・・自分が倒れても昌浩は生き残ることができる・・・・・

「ならば問題なしってことで暴れてやるわっ!!」

月光を受けた狭霧丸が妖力を増す。
の漆黒の瞳が狭霧丸の輝きを受け、煌いた。

「行け」

低く命じたの声に反応するようにして狭霧丸から神の力が放出される。
彼女を喰らおうと集まっていた妖たちはすべて焼き尽くされた。
窮奇がを睨んだ。さすがにすごみがある。

「西方で権力争いにでも破れたのか」

がそう言うと窮奇の瞳に炎が宿った。どうやら図星らしい。
窮奇の体から霊気が爆発し、はその波動をもろに受ける。狭霧丸で霊気を切ろうとしたが到底間に合うものではなくの体は簡単に吹き飛ばされた。
妖たちがを切り刻もうと飛び上がる寸前螢斗がうけとめた。螢斗は邸の塀に打ちつけられ一瞬息が詰まる。
も少なからず衝撃を受けた。

っっ!!」
"なら大丈夫だ。今は少し気絶しているだけだ・・・・・昌浩、お前が行け。お前ならできる!"

螢斗はそう言うと神気でに妖が傷つけられないように結界を張った。
翡乃斗は剣をその手に出した。そして昌浩を見る。

「雑魚は俺がやる。昌浩、親玉を叩け。騰蛇、お前のやるべきことはわかっているな」
「あぁ」

物の怪の姿がたくましい青年の姿に変わっていた。
昌浩は一度だけのほうを見た。が、窮奇を見るとぎゅっとこぶしを握った。

「行くぞ、紅蓮」
「あぁ」

翡乃斗がダンッと走り出した。
剣が一閃するたびに妖たちが消滅していく。昌浩は翡乃斗が開いてくれた道を走って窮奇の元へ近づいていく。
翡乃斗は妖を倒しながら同朋のもとへ向かっていた。気絶したという主を心配してだ。

「螢斗!!」
"のことなら心配いらんと言っただろうが・・・・・・"
「満身創痍の同胞に言われても説得力に欠けるがな」
"ふん"

翡乃斗は螢斗の結界へと入っていく。は今、螢斗の腕の中で眠っていた。
とくに目立った外傷はない。だが、油断してはいけない。もしかしたら記憶が綺麗さっぱり抜けています、ということにもなりかねないからだ。

「螢斗」
"安心しろ。記憶もちゃんとある。お前は心配しすぎだ。だからに我までもが心配性という札を貼られるのだ"
「いやそこじゃないが・・・・・」

ばっといきおいよく起き上がったの頭部に螢斗は顎をぶつける。
顎を押さえ、涙目になった彼はを見た。

"・・・・?"
「昌浩、馬鹿ッ!!」

そう言って狭霧丸と握り締めると結界から出て行った。式神二人は唖然として反応できず、結局二人が動いたのはその場に雷が落ちてからだった。

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