彰子とはちくちくと縫い物をしていた。
彰子はの手元を見て感心したように息を吐く。
「どうなされました、彰子姫」
「様の着物はきれいに縫えているなと思って」
「慣れですわ」
手元にあるのは闇色の狩り衣。いわずもがな、のものである。
「そういう彰子姫もきれいに縫えていますよ」
「あと少しで終るんです」
「少しずつ速くなっていきますね。ふふっ、露樹様に追いつくのも時間の問題ですね」
「いいえ、私なんかまだまだ・・・・お母様なんか速くて一日で三枚仕上げてしまいますから」
「まぁ。私の母などは手先の作業は苦手でしたのに・・・では、彰子姫も繕ってもらったのですか」
「時々」
くすっとは笑った。彰子はの顔を凝視する。
はソレに気がつくと不思議そうに首をかしげた。
「いかがなさいました?」
「いえ・・・・その、様の笑顔が昌浩に似ていたものだから・・・・・」
「昌浩に・・・・・・?」
「はい」
はしばらく驚いたような顔をしていたが、やがてくすくすと笑い出した。
「様?」
「失礼・・・・あまりにも晴明様と同じことを言われるので、つい」
"確かには若菜の血を継いでおるな。笑った顔などそっくりじゃ。おぉ、そういえば昌浩とも似ておるな"
「ふふっ、私と昌浩はどこかでつながっているんでしょうかね」
「おや、賑やかですな」
「「晴明様」」
と彰子の声が重なった。
晴明が妻戸をあけてのぞきこんでいる。
「どうかなさいましたか?」
「賑やかな声が聞こえたからな」
ふと彰子は晴明の背後へ目を向けた。
黒い大きな狼が座っている。彰子が見ているのに気がつくと狼は軽く首をかしげた。
「あなたは、の・・・・」
"ほう。穏行しているのに俺が見えるか。さすがは当代一の見鬼。も足元に及ばないだろうな"
狼はゆっくりと彰子のそばまで近寄ってくる。
"あまりゆっくりと話をしたことはなかったな。俺はの式神で螢斗という。真名は別にあるがな。とりあえずはこちらで呼んでくれ"
「螢斗・・・・・」
"あぁ"
螢斗は嬉しそうに尾をふった。
「そういえば何故ここに戻ってきたのか、まだ教えては貰ってなかったの」
「?」
「螢斗は今、とともに出雲にいるはずなんだが・・・・・何かあったか?」
"晴明だけに話したい。そうそう、彰子姫。もしよければ一つ禁厭を教える。それで、昌浩に会ってはもらえないだろうか"
「昌浩に・・・・・・・」
螢斗は禁厭を彰子に教えた。そして晴明とともに彼の部屋へむかう。
「昌浩は?」
"無事だ。ただ・・・少しばかり憔悴しているがな"
「・・・紅蓮は」
"下手したらがめためたに叩ききる。俺も気に入らない。今の騰蛇は"
も彼女に従う式神も厳しい。だが、信じた者はどこまでも信じていく。
そして力を貸す。守る。助ける。
だが、彼女たちの信頼に値しなければ容赦なく切り捨てられる。晴明はそれを良く知っていた。
「まだ、紅蓮を信じてはもらえないか」
"それは俺に言うな。に言え。騰蛇が死んでも俺たちのせいではない。身から出たさびというやつだ"
「厳しいのう・・・・・」
"主の性格を受けただけだ"
螢斗はしれっとして答えた。
晴明は溜息をつく。
"そういえば、最近のまとう雰囲気が一瞬ではあるが、変化する"
「どのように?」
"お前と似た霊気、それから高於の神や天照、俺たち天津神に似た神気の混ぜ合わさったものだ"
「わしの・・・・・・・?」
"天狐じゃない。あれは妖狐だ"
螢斗の言葉はどういうことなのだろうか、と晴明は首をかしげた。
"我らは・・・・・・・また失ってしまうのだろうか。何千年も前のように、慈しんでいた者を・・・・・"
ソレは予感。
人でなき者の運命。
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