の刀がちゃきとなった。
普段ならば腰に佩かれたそれは今、昌浩のそばに正座するの足元にあった。
の双眸がつぃっと細められる。途端、螢斗と翡乃斗、勾陳、六合の神気が爆発した。

・・・・・・」
「昌浩、見えないのなら足手まといになる。ここにいなさい」

昌浩はぐっと唇を噛み締めた。
非難するような色を宿して勾陳が見てくるが知ったこっちゃない。

「水気・・・・・・」
"村人が襲われているのはこの妖気の正体にだろう"
「いやな感じだ」
「・・・・・・・あんたはどうするの」

の言葉は屋根の上にいた物の怪にむけられた。
前日に宣言されていただけあって、は物の怪のことを名で呼ばない。
二匹の式神も主に従っていた。

「昌浩、そこから一歩でも出て御覧なさい・・・・・・・・殺すわよ

たちに加勢しようとしていた昌浩の足が止まる。

・・・・・・」
「視えないのは邪魔。速いから。それに・・・・・・・間違いなくやられる」

螢斗が昌浩の前に立った。
の狭霧丸が煌く。

「速いね・・・・」

勾陳の蹴りが妖の腹に決まる。妖は耳障りな叫び声をあげて椿の茂みにつっこむが、すぐさま体勢を立て直し飛び掛ってきた。
の前で六合の長布が翻る。
はそれをみながら軽くしたうちした。

「一体か・・・・」
「複数ではないのか」
「速いんだ。こちらの予想に反して、あっちがね」

の狭霧丸が薙いだところから黒い液体が染み出す。

「完全にはしとめられない。浅い傷じゃすぐにふさがる」
「無様だな、冥官」

物の怪がすたっと地におり、瞬き一つのうちに本性に戻る。
ざんばらにきられた紅の髪に金色の瞳、額を飾る細かい模様の入った銀冠。

「失礼ね。これでも一太刀浴びせたんだからいいじゃない」
「だが完全に消滅していない」
「・・・・・・・それはそうね」

狭霧丸が輝く。騰蛇の腕に炎が沸き起こった。
同時に薙がれた刀と炎が見えない敵に向かっていく。
炎と霊気の爆発が起きた。断末魔の叫びをあげたそれは消え去る。

「終ったぁ」
「厄介なやつだな・・・・」
「螢斗、翡乃斗。やるべきことはわかってるよね」

二匹の姿が瞬時に消える。
はそれを見てから騰蛇にむいた。

「ご苦労さま」
「別にお前のためじゃない」
「ただそう言っただけよ、いちいち頭にくるわね」

まるで犬と猿である。
の方に恐れという言葉はない。
はらはして昌浩は騰蛇とのやり取りを見ていた。

・・・・」
「えっなに」
「そのくらいにしておけ。ほら、昌浩が」
「あっごめんね、そういえば脅しちゃったvv」

可愛らしく言わないで、と昌浩は言えなかった。
は刀を鞘に納めると勾陳と六合、それにやってきた太陰と玄武を見た。

「・・・・・・紅蓮」

昌浩が小さく呟くと、騰蛇の瞳が鈍く煌いた。
冷たい光を宿した瞳が昌浩を射抜く。

「お前如きがその名を呼ぶな」

が音も気配もなく、刀を抜いていた。
刃の先は騰蛇の喉元にむいている。

っ?!」
「私、やっぱあんた嫌い・・・・・・・・・記憶を失っているからって頭にくるわ。騰蛇・・・・・今度そんな冷たい眼をむけてごらんなさい。昌浩が止めようと十二神将がとめようと、晴明に怒られようとも、私があんたを殺すわ」
「・・・・・やってみろ、冥官」

は無言で刀を引いた。そのまま騰蛇に背を向け・・・・・
風が起こった。

騰蛇の前髪が一、二本ぱらぱらと落ちる。

「今度は冗談抜きで殺すわよ」
「・・・・・・・・・」

の瞳が不穏げに揺れた。
昌浩はその背を見ながら、頭の芯がクラクラと揺れる。

「昌浩?!」

しゃがみこんでしまった昌浩のそばにが駆け寄る。もうそのときには、騰蛇と向かい合っていた時のような冷え冷えとした気配はない。
柔らかい、優しい雰囲気のへ戻っている。

「どうしたの」
「・・・・・」
「六合」

は背後に立つ六合へ目を向けた。
六合は昌浩を抱えあげるとそのまま褥へ横たわらせた。玄武と太陰が即座に眠れ、と言う。
が昌浩から視線を外すと既に騰蛇の気配は消えていた。

、何故騰蛇に刃をむけた?」
「・・なんでだろうね。私でもわかんないや」

はそう言って昌浩の顔を見た。
衝撃のためか、青ざめている。は手を伸ばして、そっと額についた髪を払ってやった。

「本当は"紅蓮"って呼びたいよね、昌浩・・・・・」

それが二人を繋ぐ絆だから。
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