は勾陳とともに酒を飲み交わしていた。
昌浩がいる手前飲んだらいけないのだろうが・・・・・・・

、最近体の調子はどうだ?」
「ん?別になんともないよ。いつもどおりだけど」
「そうか・・・・・・」

はきょとんとして勾陳を見た。

「何か私変?」
「いや・・・・・・時々だが、いつものお前と違うような気がして」
「いやだなぁ、私は私だよ。ほかの誰でもないって」

は小さく笑いながら勾陳の肩を叩いた。
が、勾陳はその笑い声が僅かに震えていることに気がついた。

・・・・・?」

勾陳の肩を叩いていた手が止まった。

「何も知らないほうがいいのかもしれないね・・・・・この世には知ったらいけないことがたくさんあったんだ」
「なにがあった」
「ねぇ、勾陳。勾陳たち神将の目に私はちゃんと"人"として映っている?」
「何を突然・・・・・当たり前だろう。お前は人だ」

勾陳の言葉には少しだけ安心したように笑った。

「そうか・・・・・・うん、そうだよね。ありがと、勾陳。変なこと言ってごめんね」
「いや、別にいいが・・・・・・」
「六合も飲む?これ、うちの実家からもってきたやつなんだけど」
『俺はいい』
「そっか。弱いの?」
『いや・・・・・・・・』

はつまらなそうな顔をして酒を飲んだ。

は・・・・・・・騰蛇のことを怖がらなかったな」

勾陳が唐突に言った。は小さく笑う。

「昌浩が一緒だったからね。小さな嬰児を凶将と恐れられている神将が抱いているんだもの。むしろ笑えたわ」

でもまぁ、とは続けた。

「怖くはなかったわ。不思議とね・・・・むしろ見ているのが辛かった」
「? どういうことだ」
「・・・・・虚勢を張っていたようにも見えたのよ。何かを押し隠そうとして、失敗しているのがわかった」

晴明から聞いた話だ。
その昔騰蛇は主である晴明を殺しかけたという。さらには晴明の友人も殺した。
神将の理は人を傷つけてはならない。
騰蛇はそれを二度も破った。否、三度だ。晴明とその友と・・・・そして昌浩。

「あれは知らず知らずのうちに心の傷を押し隠している。それに失敗して傷口が開くことも知らないで・・・・・・・・」

酒を飲み干し、はへらりと笑った。

「まぁ昌浩がその傷を癒してはいるみたいなんだけどね」
は・・・・・・・お前にも傷口はあるのではないか?」

勾陳が言うとは、ふと無表情になった。

「・・・・・・・・・・・・私ね、時々自分の中に別の私がいるような気がしてならないの。それは・・・・・生まれてくることをよしとされなかった私で、私はたくさんの人に迷惑かけてる」
「・・・・・・・」
「これは私の傷じゃない。私を生んでくれた二人の傷・・・・・」

誰が私を生んだのだろう、と時々考える。
私は望まれて産まれたのだろうか、と時々思う。
でも考えても思っても、結局確かめる術をは持ち合わせてはいなかった。
頼めば天津神の二人組みも燎琉も教えてくれるだろう。だがきっとそれは本当の答えではないような気がしたのだ。
そしての心のどこかで聞くな、という制止の言葉もかかっていた。聞けば、お前はお前ではいられなくなると、誰かが忠告をしてきた。

「結局私が弱いだけ・・・・・」

ふと、感じ慣れた気配に顔をあげる。

「どうした、飲む?」

目の前でお座りをしている物の怪には酒をちらつかせた。
が、物の怪はそれに見向きもせず、ぷぃっといなくなった。

「・・・・・・・・・・今のあれは大嫌いだよ。昌浩を平気で傷つけるんだから」

大切な者の存在を忘れた者に用はない。
昌浩はそれこそ命を捨ててまで"紅蓮"を取り戻そうとしたのに。
彼は、それを忘れた。決して忘れてはいけないものを・・・・・・己の心も、罪も、何もかも全て。

「私はもうあれを"騰蛇"とは呼ばないよ」

にとっても今の物の怪は"騰蛇"ではない。
その価値もなくなった。

・・・・・」
「さて、勾陳。もうちょっと飲み明かそうか。心配しないで、私は強いから」

にこっと笑っては言った。
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