「祠に近づいたら記憶がなくなる・・・・・・・・・ねぇ」
は顎に手をやった。
が村へと降りていくと大勢の村人に助けを請われたのだ。
「あんたが都から来たっていう偉い陰陽師かい?」
「偉いかどうかはともかくとして、陰陽師に相違ないが」
「なら助けてくれ!!」
「俺の子供もだ」
「待て待て待て・・・・・・・いったい何があった?」
村人たちの話はこうだった。
ある日、村の女が祠のそばで倒れていた。その祠というのは生け神を祭ってあったが、その祠が破壊されていたというのだ。
そして倒れていた者は記憶を失くしているという。
「ともかくその祠に行ってみる。場所を教えてはもらえないか?」
「あぁ・・・・・」
村人の祠のある場所を教えてもらい、はただ一人でそちらへむかう。腰には狭霧丸が佩かれていた。
「・・・・・・・・・・妖気が濃くなっていくな」
大気に混ざる妖気を感じたは眉をよせた。
"昌浩をお願いします、・・・・・今のあの子には支えてやるものが必要なのです"
「・・・・・・・・・うん、そうだね」
目を失った昌浩は何を思い、何を感じているのだろう。
そしてあの物の怪の・・・・・変わってしまった騰蛇に何を想っているのだろう。
昌浩にとっての物の怪はにとって友人だった。
幼い頃、安倍家に来てからずっと、ずっと彼とともに遊んでいた昌浩を見ていた。
年の離れた兄弟のようだ、と螢斗も言っていた。
「悪しき夢・・・幾たび見ても身に負わじ・・・・・・・・」
昌浩の放ったその術は騰蛇を守りたいがゆえのもの・・・・・
そしてそれによって双方が傷ついた。
「何故だろう。なんで・・・・・・・・・こんなに胸が締め付けられるんだろう・・・・・」
は道端にしゃがみこんで、膝を抱え込んだ。
「・・・・・・くっ・・・・・・・・」
力が欲しかった。
何かを守るための力が。
守りたかった。
大切なものを・・・。
力はすべてを守り、すべてを滅ぼす。
そうとわかりながらも、はどうしても力が必要だった。
力のない自分が恨めしくて、
自分のせいで傷つく友を見ていられなくて、
いったい何度力を求めただろう。
何度神に祈っただろう。
力を己に・・・・と。
「力が欲しい・・・・・・・・・・私にも・・・・・」
からほんの少しはなれた木の枝に彼らはいた。
「・・・・・・・・・・・」
「今は出てゆくべきではないと思うが?」
「・・・・弓狩、私達はどうすれば・・・・・」
「なるがままに。我らは流れに逆らうことはできない」
「・・・・」
「戻ろう。様が呼んでおられる」
木の上から彼らの姿が消えた。
そのときにはもう、の姿もなかった。
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