「昌浩、調子はどう?」
・・・・・うん、それなり」
「そっか」
「で、はどっから出てきたの?」

昌浩は不思議そうに尋ねた。
はニコッと笑う。その笑みに昌浩は何も言わなかった。

「翡乃斗と螢斗もいるの?」
「・・・・・・・・・うん。いるよ」

の肩と横に狼と黒い物の怪が姿を見せた。

「・・・・・・・・お前、"目"を失くしたのか」
「うん、そうみたいなんだ」

は視線を下に落とした。螢斗たちはそれに気がついたが何も言わない。

「六合とか、太陰とか、皆俺に気を使って姿が見えるようにしてくれて入るんだけど、やっぱりなんだか辛いな・・・・」
「昌浩・・・・・騰蛇はどうしている?」
「さっぱり姿を見せてくれないよ。でもそばにはいるんだと思う。朝方ちらりと白い尻尾が見えたから」

そう言って昌浩は悲しそうに笑った。

「不思議だよね。神将たちの姿は見えないのに、あの白い物の怪の姿だけは見えるんだから」
「そうだね」

昌浩のもとに螢斗たちを残して、は神将たちと話をしていた。

「昌浩の目・・・・・・何があったのかお前は知っているのだろう?」
「あれは代償だった・・・・死んだ人間を生き返らせるのは、冥府の掟に反する。それなりの代償を払う必要があった」
「・・・・・・・・・」
「取り戻しはできない。そんなことをしたら、今度こそ昌浩は冥府へ落ちる」
・・・・・・・」
「それだけじゃない。私も今回は何もできない・・・・・・体中に彫られた刺青のせいで、霊力が一時的に落ちているから・・・・・」
「何があった?」
「色々あるんだよ、冥府関係者にもね・・・・・・・・」

は軽く頬をかいた。

「さてっと・・・・・・私はふもとの村に降りてみるよ。騒がしいし・・・・・嫌な予感がばっちりするし・・・・・・」
「翡乃斗たちは連れて行かないのか?」
「別にいらないよ。しばらく昌浩の話相手にさせておいて」

はそう言って山の中へと姿を消した。
神将たちに一瞬だけ恐怖が宿った。

「なんだ・・・・・・・・・今のは」
と違った・・・・・アノコの気配じゃない」

"辛いか、昌浩。視えなくて"
「うん」
「でも後悔はしていない?」
「してるんだと思うよ・・・・・」
が謝っていた。何度も何度も。お前が眠っているその枕元で」
"目を返してやれなくてすまないと"
は精一杯のことをしてくれたんだもの。それで十分だよ・・・・・」

昌浩はそう言って小さく笑った。

っていつも一生懸命だね。螢斗たちのときもそうだった。必死で手を伸ばして・・・・・・自分が傷ついてでも守ろうとしていた・・・・・・」
「それを言うならお前だって・・・・・お前だって騰蛇を守ろうとしただろう?あいつを失わないために・・・・・・・・」
「でも・・・・・・でも結局俺は・・・・・」
"喪失か・・・・・・今の騰蛇は騰蛇であって騰蛇ではない・・・・・お前が知っている騰蛇はもういない"
「それでも生きていてくれたから・・・・・・紅蓮は・・・・・俺の知っている紅蓮はいないけど、でも・・・・・・・・確かにいるから」

そのあと二匹は眠ってしまった昌浩を置いて外に出た。
ちょうど神将たちと会う。

「昌浩にとって騰蛇は何よりも大事なものだったのだな」
"我らにとっての紫がそうであるように・・・・・"
「だから・・・・・・あそこまで傷ついた」
"神である我らにも天命は変えられん。いや・・・・神だからこそ、天命を変えることを重さを知っている・・・・・・"

天命とは即ち神の意思にある。
天照、月読両名の意思を変えることができるのは彼らの父であるイザナギだけだ。
そして一度決めた天命は何者にも変えることを許されない。

「すべてが天の、我らの上司の意思と言うのならそれもよかろう・・・・だが、納得いかないこともあるものだな」
「翡乃斗、それはどういう・・・・・」
「いつか、わかる。我らが同胞の犯した罪が・・・・」

そう言った言葉を残して二匹の姿が消えた。
残された神将たちは互いに顔を見合わせたのであった。
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