翌日からは出仕していた。 久し振りの出仕のため、は、と呼ばれてもすぐには反応できなかった。 そのたびにそばにいた翡乃斗が軽く教えてやるのである。 「殿」 「・・・・・・・」 「、行成だ」 「えっあっ!行成様、すみません・・・・少しぼぉっとしていたもので」 「いや。それよりも出雲から戻ってきていたんだね」 「はい」 「元気そうでよかったよ」 「ありがとうございます」 「昌浩殿はどうしているかな」 「彼ならばもう一日休みをいただいております。私は陰陽頭の一人ですから、仕事が溜まっていて」 「無理をするべきではないと思うが・・・・・」 行成の言葉には首を振った。 「それでは行成様、これで失礼いたします」 「あぁ、引き止めてしまい悪かったね」 はニコッと笑うとそのまま書庫へとむかっていった。 書庫で烏帽子を脱ぐ梓を見た翡乃斗が半眼になる。 「・・・・・・・誰かに見られたらどうするつもりだ」 「別に。気配ぐらいはわかるからくる前にかぶればいいんだよ」 はそういいながらばさばさと書物を床に落としていく。翡乃斗は不思議そうに首をかしげた。 「なにをしたいんだ」 「いやね、昌浩の失われた目を補う術はないかなぁ、と」 「やってどうする」 「少しでも助けにはなるでしょう?」 翡乃斗はそれ以上何も言わずが散らかした書物を片付け始めた。 はぱらぱらと書物をめくっては床に落としていく。それを人の姿に戻った翡乃斗が拾い集めていく。 退出の時刻になってもはまだ探していた。決定的なものが見つからないのだ。 「だめかなぁ・・・・・・」 「だめではなかろう。見つかるさ。だが、もう退出の時刻だ」 「もうそんな時間?はやいね〜」 はしみじみと呟いた。まだほんの数刻しか経っていないと思ったのに、かなりの時間が経っていた。 相当集中していたようだ。 「じゃぁ屋敷に戻ろうか」 「あぁ」 書物を手分けしてもとの場所に戻し、は安倍家へと戻って行った。 「おかえりなさい、」 「ただいま彰子。昌浩は?」 「部屋にいると思うわ。、なんだか顔色が・・・・・」 「そうかな?私、あんまりそういうの感じなくて・・・・・・・」 は自分の額に手を当てて熱を測るがたいしたこともない。平常値だ。 「やだなぁ・・自覚なしってのが一番怖いのに」 「今日は早めに休んだら?」 「そうだね、そうするよ」 はそう言って微笑んだ。彰子がうなずく。 ふと見れば、翡乃斗の姿がなかった。は首をかしげる。 「晴明よ。天狐の血に体調を崩したお前にこういうのもなんだが・・・・・・次の新月。我らの話に付き合ってはもらえないだろうか」 「話?」 晴明は目の前でお座りをしている黒い物の怪を見た。 翡乃斗はうなずいた。 「神将全員とお前と昌浩。話をするのは俺と螢斗と天照、月読だ」 「そんなに大勢でか?」 「・・・・・・・・・に関することだ。もう隠してはおけん」 お前たちの中にある天狐の血が目覚めたのならなおさら。 翡乃斗はそう言って晴明を見た。 「・・・・・・・・・わかった。新月でよいのだな?」 「あぁ」 「昌浩にも伝えておこう」 「すまない。そうそれと晴明、お前すぐにくたばるなよ」 「?」 「からの制裁を喰らいたくなくば」 翡乃斗はそう言っての部屋へと戻って行ってしまった。晴明は首をかしげてその黒い尾が消えるまで見送った。 「はて、どういう意味じゃろうか・・・・・・」 「についてだと?」 「宵藍・・・・・・そうか、が心配なのか」 「誰もそうとは・・・・・・・」 「だが道反の一件、あれの頬を愛しそうに撫でたのは誰だ?」 「それを言うな。太裳に殺される」 それでなくとも笑顔で叱られたのだから。それはもう、かなりの時間。 「お前たち二人はのことを愛しているようだからな・・・」 青龍の姿が無言で消えた。 晴明は軽く笑う。青龍も太裳も素直にが好きだと認めればいいものを。 とは言ってもは既に月読と公認の仲である。青龍はともかく、太裳は横から奪い去りそうである。 そこまで考えて晴明は背筋を振るわせた。本気でやりかねない・・・・・・・・ 「本当の気持ちならばとてこたえないはずがないのにのう・・・」 小さくぼやかれた言葉は青龍の耳に届いていたのか・・・・・・ 「くしゅんっ!」 はくしゃみをした。 「風邪か?」 「どうなんだろ・・・・・・・・」 は、はて、と首をかしげた。誰かが自分のことをうわさしているように思えたのは気のせいだろうか。 15 17 目次