時々自分が自分でなくなる気がしてたまらないのだ。
「からの文はどうだ?」
「・・・・・・」
"?"
文を見つめたまま硬直しているを見た式神は手紙をとった。
がゆっくりと動いて彼らを見る。
「これは・・・・・・」
文を見てはじかれたようにを見る螢斗に彼女はうなずいた。
「冗談が冗談じゃなくなってきている・・・・・」
"人の命は弱い。晴明の場合、引き継いだ天狐の血も濃いからな"
"父上が倒れられました。天狐の血が・・・・・命を削っています"
昌浩と成親、それと神将たちは既に都にむかっている。彼らは晴明が倒れたことは知らない。
はまだ出雲にいた。その気になれば冥府へ戻り、都の井戸から出て行けばいいだけのことだ。
なぜ、戻らないのか、と二匹は聞かなかった。
「晴明が心配か」
「うん」
「案ずるな、あれは狸だ。そんな簡単にはくたばらん」
「そうだね・・・・・・」
も知っている。晴明の力を。
だが何故だろう。嫌な感じが胸の中から消えないのは。
「まだ死ぬべきじゃない」
まだ彼には生きていてもらわないといけないのだ。それを望む者達がたくさんいるのだから。
自分も含めて。
「戻りましょう、都に・・・・・晴明の具合を見て・・・・・」
自分を失う前にすべてをやり遂げなければいけない。
「行こう」
のその一言で螢斗たちの姿が消えた。は完全に神気がなくなったのを感じるとそっと胸に手を当てた。
自分の中のもう一つの鼓動。はじめは時折感じる程度だったが、気がつくと自分の鼓動と重なっている気がしていた。
それが何を意味するのかはわからない。しかし、一つの確信があった。
"目覚めのときは近い"と・・・・・・・
「また高於には迷惑をかけてしまうな・・・・」
は小さく呟いて冥府の門をその場に開いた。
「篁」
「来ると想っていたよ、」
「あとどのくらいの時間がある?」
「・・・・・・・・・・・短い」
「あれは人として生き過ぎた。そろそろ死んでもおかしくはない。もっとも、天命ではないがな」
、篁、燎琉の前にある鬼籍帳。そこに安倍晴明の名があった。
「天命でないということは誰かがゆがめているということか?」
「そうだね・・・・・・・」
「解決策は」
「天命を歪めている者を見つけるしかないだろう」
「・・・・・・・それを見つけたら晴明の天命は延びる?」
「天命は延びない。ただ、天命までは生きられるかもしれない」
「・・・・・・・わかった」
はそう言うときびすを返した。
「」
「私は・・・・・・皆が私に対して隠し事をしているのを知っているよ」
の言葉にその場にいた誰もがはっとした。
「でも・・・・・・でも私は信じてるから。いつかちゃんと話してくれる時が来ることを」
は肩越しに振り向くと小さく笑った。
「待ってるよ」
その言葉を残しては都へと戻って行く。燎琉は悲しげな顔をして篁を見た。
「あの子を育てると父上がおっしゃったときにはこうなるとは思わなかった。あの子のことを実の娘のように想っていたよ」
「体は俺の孫だがな」
「はまだ生きている。あの子が目覚めるまではまだ時間がある」
「・・・・・・・あるわけない・・・・もう封印は解けかかっている。螢斗が瞬時にかけなおさなければ、そのまま封印が解けていたほどにだ」
「そうだね・・・・・」
砂時計から砂が零れ落ちるが如く、その命もまたさらさらと零れ落ちていく。
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