満月だった。
深い深い森の中に、彼らはいた。

「久しいな、"天狐"晶霞」
「"妖狐の"か」

晶霞は現れた者に驚いたようだったが、その身がまとう気配を知ると緊張を解いた。

「封印されていたようだが、どうやって出てきた?」
「一時的に封印が弱まっただけのことだ。また眠る」
「それで、何故ここへ来た」

はふっと小さく笑った。

「晶霞よ、お前の力を感じたからだ。どうやらあれが目覚めさせられたせいで姿を見せざるをえなかった様だな」
「あぁ・・・・・・・」
「お前の息子は元気にやっているようだ。もっとも・・・・・・あれの孫も血を引き継いだ。娘のときのように簡単には死ななかったが、ここで力に目覚めた今、二人とも危険だろう」
「お前が宿るその体はどうなんだ。人の身でありながら、お前の力を封じることができるとは思わん」
「それができるのだ・・・・神と妖狐の力を抑え込んでいる。本人も無意識下のうちでな」
「無意識だと?」

晶霞は怪訝そうにたずね返す。はくっくっくと低く笑った。

「やはり俺はお前が嫌いなようだ。封印が前に一度弱まった時もお前の血と反発しあった」
「両方ともが衝撃を受けたようだな」
「お前のほうは自分の力について何も知らないようだな」
「お前のほうは?」
「薄々感づいている。そこまでとろくはないだろう。自分が人間でないことはわかっているようだ」
「その身は人間であろう?」
「あぁ。一応はな」
「一応?」

晶霞は軽く溜息をついた。
は軽く笑う。

「何が目当てだ?」
「さぁな・・・・・・俺は別に親のことを恨んでいるわけじゃない。爺共のこともだ」
「爺・・・・」
「天津神だ。妖狐の一族のこともどうでもいい」
「・・・・・」
「俺が求めるのは唯一つ・・・・・・こいつの体を俺のものにすることだ」

は胸に手を当てた。凄惨に微笑む姿は美しい。
晶霞は呆れた様子で知己を見やった。

「相変わらずだな・・・・・・」
「だがこれでも昔の俺とは違うだろう?」
「あぁ。昔のお前は何もかもを破壊しようとしていた」
「おかげで封印されちまったけど・・・・・・今はこれも悪くないと想ってる」
「せいぜい死なないようにすることだな」
「あぁわかっているさ。それとその言葉はお前にも当てはまることだぜ、晶霞」
「・・・・・」

晶霞は何も言わない。は軽く笑うと晶霞に背を向けた。
長い髪が動きにあわせて動く。

「そうそう、それと俺たち、また会うことになりそうだぜ」
「何故だ?」
「・・・・・・・・・こいつがすべてを知るからだよ」

その言葉を最後にが、墨染め・・・の衣を着、宝刀を腰に佩いたその姿が消えた。
晶霞は彼が消えたほうをじっと見やった。の妖気は一瞬にして消えた。恐らくはまた眠りについたのであろう。

「神と妖狐との申し子か・・・・」

それはまた天狐と同じように神に近しい存在なのだ。
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