雨が降る中を、成親・昌浩は太陰の風で、は風神の風で進んでいた。
途中昌浩たちは落ちた。も風神に指示し、同じ場所に下ろしてもらう。
昌浩と成親は泥だらけになっていた。
「太陰・・・・・」
「だって、だって・・・・・・」
溜息をついたと一人の子供の目があった。あからさまに怪しい一行である。
「弥助?」
「姉ちゃん!」
子供はのもとへ駆け込んでくる。
が村へやってきたときに知り合った子供だった。確か母が記憶をなくしていると言っていたと思う。
「どうしたの、昭吉は?」
「兄ちゃんは入海に行った。姉ちゃん、どうしよう・・・・」
「わかった。様子を見に行ってみるわ。螢斗、弥助を家まで送ってちょうだい」
「姉ちゃん・・・・」
「大丈夫よ。私の狼が守ってくれるから。入海ね。必ず昭吉を連れ戻すわ」
「うん」
螢斗が弥助とともに残る。
、翡乃斗、昌浩、六合、勾陳は入海へむかった。
「うわぁぁぁぁっ!」
「冥府の風よ、鋭利な刃となりて悪しきものを打ち払え!」
一人の少年をつかんでいた瘴気が祓われる。
翡乃斗が少年の首元を噛み、水から引き上げた。
「昭吉!」
「姉ちゃん・・・・」
呆然とした様子の昭吉はの姿を見て安心したのか座り込んでしまった。
「大丈夫。守るから」
は昌浩へ目を向けた。その前に六合と勾陳が立ちふさがっている。
人面の妖異は彼らの目で追えない。でさえも気配を追うのがやっとなのだから。
「くそっ・・・・・」
「、その子供とお前の周り、神将と孫の周りに結界を張れるか」
「無論」
「ならやってくれ。通力を爆発させる」
「・・・・・・了解」
闇神である翡乃斗の力は神将を遥かに凌ぐ。
いくら神の末席とはいえ、翡乃斗が本気で通力を解き放てば神将とて無傷ではいられない。
無論、ただの人である昭吉も、霊力がある昌浩とも、無事ではすまない。
は一瞬のうちに結界を張っていた。六合たちがいぶかしげな目で見てくるが、ひとまずそちらは無視しておく。
翡乃斗のかん高い声が周りの空気を震わせる。
は張った結界が壊れないように必死だった。
「姉ちゃん・・・・」
昭吉が心配そうに声をかける。は少年を見て微笑んだ。
「大丈夫よ。六合、勾陳!結界を壊さないようにして!!」
の言わんとするところが分かったのか二人ともうなずくと、結界内で通力を爆発させた。
昌浩には申し訳ないが、今はそういうことも言ってられない。
翡乃斗の神力に当てられたのか、人面の妖異が姿を見せる。
は結界を抜け出し、無論自分がいなくなっても壊れないようにしてから、狭霧丸を煌かせた。
「はぁぁぁぁぁっ!!」
気合の入った攻撃が妖異に決まるはずだった。しかしの手に伝わってきた感触は硬い地面。
顔を上げれば妖異は水の中へ消えてしまっていた。
「・・・・・」
神力を解放しきった翡乃斗が疲れた様子での側にやって来る。
「水の中を移動できるというのは厄介だな」
「うん」
はぱちんと指を鳴らした。途端結界が澄んだ音を立てて壊れる。
「兄ちゃん!」
「弥助」
成親と弥助、螢斗がやって来た。
"翡乃斗、解放したのか"
「あぁ。そうでもしなければやつを捕らえられなかったからな」
「結局は逃げられたけど〜」
その後昌浩と成親は荘官野代重頼の邸へ、は弥助と昭吉兄弟を家まで送り届けることになった。
「じゃぁ庵で待ってるわ」
「あぁ」
昭吉と弥助の手を引いては道を歩いていく。
「二人の母も時を遡る病気だったか・・・・」
「うん。村の連中はほとんど・・・祠に近づいていったらそうなるんだ。戻ってくればまだいいほうで、そのまま戻ってこないのもいる」
「姉ちゃんは都の偉い陰陽師なんでしょう?助けて」
「・・・・・うん、わかってる。さっきいた二人も陰陽師でね。ちっさいのは昌浩っていうんだけど、下手したら私よりも力を持っているかもしれない。彼と一緒に二人の母親も村の皆も助けるよ」
「うん!」
「ほら、お行き。ゆっくりと眠るんだよ」
「うん、おやすみ。姉ちゃん」
「おやすみ」
昭吉と弥助が家の中に入るのを確認してから、はきびすを返した。
穏形していた螢斗たちが姿を見せた。
「?」
「ん、どうした」
"顔色が悪いぞ"
「なんでもないよ」
翡乃斗はの肩に飛び乗る。
は翡乃斗の頭を撫でてやった。
「ただ疲れているだけだよ」
そう、きっと疲れているだけ。
「最近無駄に霊力使ってるからなぁ」
そう思いたいだけ。いつまでも隠しとおせるわけがない。
「・・・・・・・ごめん」
二匹の無言の抗議を受け、耐えられなくなったは姿を消した。
冥府への門を開いたのだ。
「・・」
"我らではなくせないか"
お前の痛みを。
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