は行成邸から戻ったあとすぐに熱を出した。そのまま意識を途絶えさせたのだ。
が心配そうな様子で看病をする。傍らには彰子もいた。
時折神将や昌浩も見舞いに訪れる。しかしの意識は混濁したままだった。
「、大丈夫かな・・・・」
「あいつは見かけによらず丈夫だから大丈夫だろう・・・・・」
「でも・・・・」
昌浩はの右腕を思い出した。あそこには呪いがかけられているはずだ・・・・・
そして少し見た限りでは彼女の右手首からその呪いのアザが見えていたような気がする。確か前は二の腕の部分で止まっていたはずなのに。
「呪いが進んでいる」
"今は止まっているがな"
「解ける事はないのか?」
「難しいと篁も言っていた。もしかしたら一生このままやもしれん」
晴明の部屋から翡乃斗と螢斗の声がした。昌浩はそっと立ち止まって中の会話を聞く。
「何故止めなかった。が女の姿に戻ることを」
「それがあいつの望みだったからだ」
"我らは主の望みをかなえるために力を貸しているからな。それに・・・・・・・も感じているのだろう。女の姿に戻れる時間が確実に減ってきていることを"
昌浩はハッとした。それでは彼女はいつ結婚することができるというのだろう。
"は知っている。自分が自分の好きな者と一緒になれないことを"
「うむ・・・・だからこそ我らは少しの間でもあいつの願いを叶えてやりたかったのだ」
は彰子に微笑みかけた。
「彰子姫、少しお休みになられてはいかがですか」
「いえ、それは様も同じでしょう?」
「私は大丈夫です。彰子姫がお休みから戻られたら私も少し休みますわ」
「・・・・・・わかりました」
彰子はそう言って立ち上がるとを見た。その顔に一瞬だけやるせなさがうつり、彼女はそのまま部屋に戻って行った。
はそっとの頬に手を当てる。
呪いを受けてからというもの彼女の体は少しずつ少しずつ呪いに犯されていった。もう今ではほんの少しの間、女に戻ることも体に負担をかけることとなってしまったのだ。
さらに彼女は行成を助けるために言霊に自らの命のカケラを乗せて行成へと渡した。今回のことはこのことも少し関係しているのだろう。
「・・・・・・・・それでも想わずにはいられないのでしょう、・・・・・・」
はの袖を捲り上げた。右の二の腕から手首にかけて、引き攣れた傷跡がはしっていた。
はそれを見て泣きそうな顔になる。
「私は役立たずですね・・・・・友人を助けることも出来ないなんて・・・・・」
「様」
「・・・・・・どうしました、緋乃」
「はい。燎流様から様へ仙薬をお預かりしてきました」
緋乃が姿を見せ、小さな小瓶をへ渡す。
はそれを受けると緋乃に夫への伝言を託す。彼はうなずくと姿を消した。
「・・・・目覚めたらこれを飲ませないとね」
は小さく微笑んだ。そして部屋の入り口へ目を向ける。
「何かご用でしょうか」
ゆらっとあたりの景色が揺らいで、二人の神将が姿を見せた。
「あなた方は・・・・・まだ見ぬ顔ですね」
「十二神将がひとり、天空」
「同じく太裳」
長い銀髪の老人と紫苑色の瞳を持った青年だった。
は立ち上がって二人を迎え入れる。
「のお見舞いですか」
「様には色々とお世話になっていることもありますから」
「そうですか。では私はしばらく席を外しますね。晴明様にの様子を伝えなければならないですし」
はそう言って神将二人をの部屋に残すと晴明の部屋に向かって歩き始めた。
部屋に近づくにつれ、一人の少年の姿が見えてきた。
「昌浩?どうかしたのですか」
後ろから声をかけるとその肩に乗っていた物の怪とともにびくりと振り向いた。
背後にいたのがだとわかるとほっとしたように胸をなでおろす。
「晴明様に何がご用でも?」
「ううん・・・・・・ただ」
は部屋の中をのぞいた。翡乃斗と螢斗とともに晴明が深刻そうな顔をして何やら話している。
「のことですね・・・・・・・・」
「・・・・・・、大丈夫かな」
「大丈夫ですわ。あの子は強いですから・・・・・呪いに負けず、あの子は誰よりも行成殿のことを想っておられる・・・・・それがあの子に力を与えているのです」
「・・・・・・・の呪いは女の姿をしちゃいけないってやつなんだよね・・・・・、行成様のことを慕っているのに」
「想ってはいけない、ということはありませんわ。想うことは罪にはなりませんもの」
いつかは言っていた。男の姿をしていても女の姿をしていても自分が自分であることに変わりはない。
私は一人の女なんだから、行成様を想ってもいいんでしょう?と。
その話を昌浩にしたら昌浩は確かにその通りだねと言って笑った。
「はやくが元気になるといいな」
「そうですね」
しかし目覚めた時は覚悟をしなければいけないだろう。
あの体の半分を覆うようになった呪いの傷跡を、女として生きることができる時間がなくなったことを・・・・・・・
の胸のうちに大きな暗闇が広がった。
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