は昌浩とともに夜警を終え戻ってきて、そしてびっくりした。
何故か当然のように彼女の部屋に一人の女が座っていた。傍らには申し訳なさそうな顔をして二人の鬼がいる。敵ではない。
「・・・・・・なんでいるの?」
は思わず聞いてしまった。確か彼女は窮奇を昌浩が倒したあと、住んでいる場所に戻ったはずだった。
「来ては行けませんか、」
「いえ・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・少し様子がおかしかったので、もしやと思いまして」
「はい、通訳よろしく」
背後の鬼の片方が溜息をついて話し始めた。ほっそりとした銀の角に繊細な銀の髪をした鬼だった。
「実は様が黄泉がえりの呪法が使われたのを感じまして・・・・・昌浩様に何かあるのではと思われ参ったのです」
「うんありがと」
は軽く溜息をついた。
「晴明に報告してくるわ」
「あら父上だったらもうおわかりになっているかと・・・・・」
「違う。夜警の報告」
はそう言うと晴明の部屋へとむかった。の部屋に居座っている人物、安倍晴明第一子安倍は困ったような顔をして、置いてけぼりを食らったの式神たちを見た。
「何を怒っているのですか・・・・・」
「さぁな」
"あぁ"
「もう、教えてくれてもいいのに」
はそう言って頬を膨らませた。
いっぽう夜警の報告を、と晴明の部屋にむかったは途中で昌浩の部屋を通り過ぎた。覗いてみれば彼は物の怪とともにぐっすりと寝ている。
は小さな笑みをこぼすと晴明の部屋に急いだ。
「晴明・・・・・起きてる?」
「うむ」
「入るね」
はそう声をかけて部屋の中に入る。中には神将の気配をいくつか感じた。
「ごめん、みんな少し席外してくれる?晴明以外には聞かれたくない話があるから」
晴明は神将たちへと視線を向けた。彼らの気配が掻き消える。はホッとしたような顔で晴明を見た。
晴明は何もかもを了承しているらしい。
「ごめんね、なんだかいきなり・・・・」
「いや・・・・・・のことじゃな?」
「うん・・・・・まさか戻ってくるなんて思いもしなかった」
「まぁ戻ってきてくれて何よりじゃよ」
「・・・・・・・・だめだよ、彼女はもう冥府の住人なんだから」
「それでも娘の帰還を嬉しがらぬ親がいるか?」
「・・・・・・・・・いないね。じゃぁいいのね」
「うむ」
は軽く笑って立ち上がった。
晴明はふと思いついたことをに言ってみる。
「も既に安倍家の一人じゃの」
「・・・・・・・・・だね」
クスリと笑っては部屋から出て行く。
部屋に戻ったは唖然とした。の褥で寝ているのはである。禁鬼たちが本当に申し訳なさそうな顔をして・・・とは言っても仮面で表情は上手くわからないのだが・・・を見ていた。
式神たちが溜息をついた。
「珍しく疲労困憊している。このまま寝かせてやれ」
「私、明日も出仕なんだけど・・・・・・てか今も倒れそう」
「わかっている。だから隣に別の褥をひいておいた」
「ありがと」
は褥に足を進めかけてはたと止めた。
「が疲労困憊?珍しすぎじゃん。何があったの」
最後の問いは禁鬼たちにむけられた。
「様は冥府にて黄泉がえりの歌を聴かれまして」
「あぁなるほど・・・・・・人間がやったやつだったら燎琉には聞けないものね。その点雪菜はにん・・・・・・・・・そうか、そういうことかっ!あの式と妙な気配!!」
「?」
翡乃斗はいきなり顎を押さえて何やら呟き始めた主を怪訝そうに見た。確かに妙な気配が最近していた。だがそれと黄泉がえりの歌が何の関係があるというのだろう。
「そうか・・・・・誰かが黄泉がえりの歌を・・・・そしてその誰かがあの大蛇を・・・・・・・・もしかしたらだし、これは推測でしかないんだけど・・・・・・」
"、少しは落ち着け。明日よくよく考えたほうがいい。今日は寝ろ"
螢斗は人の姿に立ち戻っての頭を軽く叩く。は顔をあげてうなずいた。
「また・・・・・何か起こりそうなんだね」
気をつけなきゃ、とは呟き、褥に横たわる。そして数秒も経たないうちに規則正しい寝息を立て始めた。
あまりの速さに式神二人、禁鬼二人は絶句する。
螢斗は軽く笑った。
"心配は無用だったようだな"
「あぁたしかに」
彼らはそう言って笑うとスッと気配を消した。これ以上騒がしくして主の眠りを妨げないために。
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