封印の千引磐にやってきたが見たものは、騰蛇と彼に刀を突き刺す昌浩の姿だった。
「昌浩・・・・・・・」
昌浩の体が崩れ落ち、騰蛇も白い物の怪へと転じる。
青龍の瞳がを向いた。
「・・・・?」
「・・・・・・・騰蛇・・・・昌浩」
はよろめきながら、物の怪のそばにひざをつく。ぴくりとも動かない小さな体。
手を伸ばして物の怪を抱き上げる。強く抱きしめて小さな嗚咽を漏らした。
そしてそのまま昌浩のもとへとむかう。
「昌浩・・・・・・昌浩・・・・・・・」
「・・・・・・」
涙を飲み込みながら、は昌浩に物の怪の体を渡す。
昌浩は力の入らない手で物の怪をかき抱いた。
青龍が後ろからの体を抱いた。
青龍の腕に抱かれながらは泣いた。
「物の怪!」
「物の怪言うな、冥官」
「私は冥官って名じゃないわよ。っていう名があるんだから。もうぼけた?騰蛇」
「地獄の業火ねぇ・・・・私はそうは思わないわ。キレイじゃない。誰かを守るために放たれる炎の色、私は好きよ」
「・・・・・・・」
「なぁに照れてんのよ。らしくない」
「五月蝿い」
「ぷっ・・・・・・・」
「何がおかしい」
「だって、ちっちゃな昌浩があなたに抱かれていると、ものすごく小さく見えるから・・・・・・」
「笑いすぎだ」
「ごめんごめん」
「騰蛇は私のことを友を思ってくれている?」
「あぁ」
「よかった」
「お前は俺のことをどう思っている」
「私の大事な友で、私の大事な友の友。要するに親友?」
「疑問か・・・・・」
「なぁにしけた顔してるのよ」
「誰がしけた顔だ」
「あなたが。なに、なんかあった?私でよかったら聞くよ」
「・・・・・・・・・・お前はここに来てから、すぐおれと馴染んだな。俺が恐ろしくはなかったのか?」
「なんで」
「なんでって・・・・・・なんでも」
「ん〜〜〜そうだなぁ・・・・どちらかというと、淋しげな顔をしていたからぎゅって抱き締めたかった」
「淋しそうな顔?」
「うん。泣きそうだった」
「騰蛇・・・・・・っ!」
しぼりだすようにしてはその名を呼んだ。
昌浩はの方を見て弱々しく微笑んだ。
「謹請し奉る―――」
「昌浩・・・・・・だめっ!」
が昌浩の呟きを聞いた瞬間動いた。
「あしきゆめ・・・・・・いくたび見ても身に負わじ――」
物の怪の体が白い光に包まれてふわりと浮き上がった。
心に響くのは、誰の声?
帰っておいで
もう傷つかなくていいんだよ
もうなにも負わなくていいんだよ
だから
戻っておいで
「昌浩ぉ―――っ!!!」
の体が叫びとともに何かに引っ張られるようにして青龍の腕から消えた。
「あぁ・・・・」
の口から溜息が漏れた。
鬼籍帳を凝視する瞳から涙があふれ出る。
「昌浩・・・・・・」
名が消えた。
帰っておいで
もう傷つかなくていいんだよ
「あなたは・・・・・・・・騰蛇を救ったのですね」
もうなにも負わなくていいんだよ
だから
「その命を犠牲にして・・・・・・」
戻っておいで
守りたいもののために命を捨てた。
元の“騰蛇”が戻ってくるように。
「・・・・・・・・」
はくっと顔をあげた。そしての隣にが姿を見せる。
「・・・・・」
燎琉の目がにそれたとき、は部屋を飛び出していた。
あとから燎琉の叫ぶ声が聞こえていたが、はただある場所を目指して走っていた。
死なせない。
昌浩を。
父が悲しむから、彰子が悲しむから。
皆が忘れてしまうから。
「本当の騰蛇が戻った時、一番悲しむのは彼でしょう?」
だから死なせない。
また昌浩と騰蛇が笑いあえるように。
たとえ、禁を破ってこの身が地獄へ落ちようとも・・・・・
どうか、あなたは生きて。
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