の足が暗闇へと一歩踏み出した。
途端周りの景色が豪華な宮殿へと変わる。驚いたように振り向いたのは月読だ。
「道反の封印が解かれる前に、屍鬼を討つ。そのための力を天照に借りに来た」
「驚いた・・・・閻羅王に助けてもらったのか」
月読の言葉にはうなずいた。
月読と天照の宮殿には入れない。入るために閻羅王のツテを使ってやってきたのだ。
「天照は?」
「ここにいる」
の背後に天照が姿を見せた。が何を欲しているのか既に承知のようである。
右腕を前に差し出す。するとそこに大太刀が現れた。柄には繊細な模様と神の文字が掘り込まれている。
淡く橙に輝く刀身にも薄く彫り物がされていた。
「焔を」
は自分の胸に手を当てた。
胸から引きずり出されるようにして真紅の焔が現れた。天照はそれを受け取ると自らの太刀で焔に触れた。
焔はすっと太刀に吸い込まれ、太刀が狭霧丸と同じほどの大きさになった。
「これならお前にも扱えるだろう」
「ありがとう」
は天照から太刀を受け取った。
「いつ発つ?」
「たぶん、戻ったらすぐに」
「随分と早く行くのだな」
「うん。朔の日の前には道反についてないと」
「・・・・・・・・・・・・我らの加護が消える日・・・・」
「五十年前も同じだった」
「今度は違う。私と昌浩で食い止めて見せるわ」
はそう笑顔で言った。天照も月読も軽く笑う。
「・・・」
「ん?」
「気をつけて」
月読はの額に口付けた。ほんのりと染まるの頬に手を滑らせ、微笑む。
「私はいつだって見守っているよ」
「うん」
の姿は宮殿から消えた。
安倍家の邸に戻ってきたはいそいそと太刀を背負った。
螢斗と翡乃斗もそばに寄ってくる。
「行こうか」
うなずく二人。は庭へと降りた。
「」
風神を呼ぼうとした彼女を呼び止める声があった。
振り向けばそこには彰子が立っている。
「彰子、どうしたの?」
「も・・・・出雲へ行くの?」
「うん」
は彰子のそばへ近寄ってぽんと軽く頭に手を置いた。
前とは違う、成長した女の姿をしている。まだ、心の内は幼い子供でも。
「大丈夫。昌浩はちゃんと連れ帰ってくるよ。物の怪と一緒に」
「・・・・・・・うん」
はぽんぽんと二度ほど頭を叩くとそのまま彰子へ背を向ける。
「!」
「ん?」
「これ・・・・・作ったの。もって行って」
彰子の差し出したものは小さなお守り。それからはかすかな伽羅の香りがしてくる。
は胸元へと手を持っていった。前に彰子から貰った匂い袋が下がっている。
「いいの?」
「うん」
は彰子の手からそれを受け取って、自分の首にかけていた小さなお守りを渡した。
両親の形見の品だ。
「持っていて。私と昌浩が無事に戻ってくるようにって・・・・」
「うん」
「じゃぁ、行って来ます」
「いってらっしゃい」
、螢斗、翡乃斗の姿が風の音とともに消える。
彰子の着物が風に靡いた。
「彰子姫」
「様・・・・・」
「中に入りましょう。お風邪を召してしまいますわ」
「はい・・・・」
「・・・・昌浩もも大丈夫。二人とも強いのですから」
は優しく彰子の頭を撫でた。
「誰かを想う気持ちは何よりも強いものですよ」
はのあとを追っていった禁鬼たちのことを思った。
"どうか、あなたのおそばを離れることをお許しください"
"すべてが終ったそのときには・・・・必ず"
なにも望まず、に仕える二人のはじめての願いだった。
は微笑んでうなずいた。
「大切な人ですものね・・・・・」
罪の証だが、それでも大事な子供であることに変わりはない・・・・
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